岩の国
6月11日
「岩手へ行くには、やはり4号が安定かな。だったらしばし108を逆戻りすることになるか…。」
「いや、この池月からなら、457と398経由で無駄距離を稼がずに4号に合流できるんじゃないか?」
国道457の方角を見る。
「山道か…。明日は雨が降るらしいしなぁ、ちょっとすり減ってきたタイヤじゃ心許ないか…?」
地図を見る。
「いやそこまでキツいワインディングってわけでもなさそうだぞ…。ああでも…。いや待てよ、山道だと燃費も悪化するだろうから…。かえって108を平坦な行った方がエコか。」
我ながら、成長したと思う。燃費のことまで考えられるようになってきた。
起きて雨雲レーダーを見ると、30分後に短い雨。
寝てやり過ごすこともできるが、テントが濡れるとダルい。30分以内に解体し、バックパックに押し込んだ。
道の駅の屋根の下で歯を磨き、雨が過ぎ去ったあたりで中国武術の鍛錬をすれば、当然のごとく汗まみれ。フレグランス剤を吹きつける。
ああ、たまらないな。
見てくれは明らかに酷くなっていってるが、それに比例して段々と旅慣れしてる実感がわいてくる。
メチャクチャな毎日で、体がメチャクチャになっていく。だがそれがいい。
この旅を始めて以来、初めて自信を持って朝を迎えられた。。
~~
4号線を北上していくと、見慣れた宮城の田んぼがだんだんと少なくなっていき、やがて生い茂る木々、森が目につくようになってくる。いよいよ東北といった感じで、岩手に突入。
初日に訪れるのは厳美渓。岩手に入ってすぐ訪れられる、と床屋の姉さんがくれた情報に従ってみた。
道の駅にバイクを停め、徒歩モードにチェンジ。
森の中にあるイメージだったが、周囲はのどかな村落のようだ。
険しい土地というイメージはまったくない。
10分も歩かないうちに見えた。これが厳美渓か。
国指定の天然記念物とされたその由来は、石英安山岩質の岩石が滝や川の流れに侵食され、多くの甌穴(おうけつ)と峡谷を生成されたことにあり、また滝・瀬・淵と、多彩な水の形が拝めることも特徴だそうだ。
甌穴というのは、長瀞でも見られたポットホールのこと。石が水流とともに回転することで、穴を形作るアレである。
食事処などの近くに、岩の上に建てられた東屋を発見。
どうやらゴミ箱が設置されているようだが、やれやれ心無い観光客がゴミを捨てるから、こんな似つかわしくないものが置いてあるのか…。
と思い近寄ってみると、なるほど納得させられた。
「テレビとかでよく紹介される、お団子が川を渡るとこですよー。」
なんて床屋さんが言ってたな。
そう、それである。東屋から向かいの団子屋でロープが渡されており、そこにカゴが吊られている。カゴにお金を入れて木板を鳴らし合図すれば、団子屋がロープを引いてお金を回収、代わりに団子を渡してくれるという仕組みだ。
ではさっそく…。と思ってみたが、アレ。
小銭が499円。一人前は500円。そんなことってあるのね。
お釣りがちゃんともらえるのか、それとも二人前が渡されるのかドキドキしながら、千円札を入れて木槌を鳴らしてみる。と、沿岸の団子屋に割烹着姿の男性がひょいと姿を現して、千円札は対岸へと渡っていった。
しばしすると。
「おお~っ来た~~~!」
「すげ~~っ! お茶まで入ってる~~~!」
平成二十五年の500円玉もちゃんと入っていた。
内容はけっこう豪華だった。
ゴマと、あん…? と、みたらし…だっけ? あんまり団子わかんないんだよね。まぁとにかくそれらが、一串になんと5つも刺さっている。
頬張ってみると…。メチャクチャうまい。多分、今まで食った(そんなに食ったことないが)団子の中で一番うまい。うるち米100%という生地はかなりやわらかく、餅などに比べ歯などにべたつかずかなり舌触りがいい。それに異常なほどたくさん載せられた各味物が、それぞれめちゃくちゃ味が濃くって思わず笑顔に…。ああもう自分で行って食ってみてくれ。
お団子を食べたら、散策再開。
まだ昼を少しすぎたばかりだ。ゆったりと、車が滅多に通らぬ道を歩く。
上流でみつけた竹筋橋の長者滝橋。なんと竹の棒をコンクリートで固めて造った橋とのことで、全国的に見てもかなり珍しいそう。
長者滝の由来は、その昔長者が盗賊対策のため、宝物を滝に沈めたことからだそう。
静かな流れだ。
長瀞や袋田の滝などいろいろな渓谷を見てきたが、ここはなんというか。自然の雄々しさを感じさせるというより、庭園にありそうな整然さというか、美しさを持っているように感じる。
天気が曇りということもあり、すごく光景がシブい。岩手ってなんだかこーいうイメージだわ。
3時間ほどかけて、道の駅へ戻ってくる。脚がジンジンと心地よい疲労感を抱えている。
他にもいろいろと書きたかったのだが、妙に長くなってしまったのでこのあたりで。
それにしてもなんというか、バイクでザッと移動して、徒歩での~んびり見聞して。そんでつらつらとどうでもいいことを、ゆるりと書いているこの流れが。なんというか、私流なのではないかと今日実感した次第であった。
なんにせよ、なぜか妙に自身が付いた一日である。