風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

渡る世間は

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「ここは…少し人目に付きそうではあるが、街中でもないし大丈夫か…?」

昨日お巡りさんのお世話になってから、過敏になっている。あの人が言っていたように、やはりテントを見ると通報する人がいるのだろうか…。

 

ポジションを決めて、地面にメグを打ち込む。

1本、2本、3本…と差し掛かった時、ジョギング中のおじさんと目があった。

マズい。話しかけるな。

 

「あのー、ここで寝るんですか?」

ヤバイ、終わった。

「はい…、野宿です。」

 

観念して正直に答えると、帰って来たのは拍手だった。

「スゴい! どっから来たの? 何日め? その服イケてるね!」

どうやら私のファンだったようだ。

 

せっかくなので、クッカーで晩飯を作る間話すことにした。目が丸くて、ほがらかな、おじさん。

「僕今日はね、仕事サボって散歩に来ちゃったんだよね。仕事もさ、来年になったら年金もらえるから、やめようと思って。

 奥さんとも離婚しちゃってさ、今ゆうゆうとしてるよ。」

なるほど。この人はたしかに、テントを咎めるような人種ではないのだろう。

「まぁ、離婚といっても書類上の形だけでさ。たまに会ったりして仲はいいんだけど。俺は田舎暮らし、彼女は都会暮らしで、別居してる今の状態がいいと思ったんだわ。」

「決まった形にとらわれてなくて、いいじゃないですか。」

「そうそう。仕事にしても今はさ、とにかく大学行って、学力上げて、いい会社行けばそれでいい、って世の中じゃないよね。」

うんうんとおじさんは頷いた。

 

「俺さ、若い頃サンフランシスコ行きたかったの。絶対行くぞー!って覚悟を決めるためにヒゲを伸ばしてたんだけどさ。そんな時に奥さんと出逢っちゃって。気付けば結婚してて。

 んまぁ、サンフランシスコは行かなくてよかったと思うけどさ、若い時にもっとあれやっとけばなーって思うことはよくあるよ。んだからさ、兄ちゃんも好きなことやってみて。カッコいい服着てんだから。」

と、おじさんは去っていってしまった。

 

服を褒められたこともそうだが、何より私を否定せず認めてくれる人がいることに、感動した。思えば、昨日(姉の金で)宿泊したカッパ王国でも、従業員に応援してもらった。今日の道中でも、何度か声援をいただいた。

前々から応援してくれる人はいたのだ。昨日のことを気にしすぎて、世の中敵だけだと思ってしまっていた。

 

IMG_9481.jpg

それにしても、こうして外でクッカーを使える季節になったことがうれしい。土浦でいただいたレトルトカレーは、美味しかった。

 

 

 

その後。

テントに入り、執筆でもするか…とパソコンを開いたとき。

「すみませーん。」

ヤバイ。誰だ。

「すみませーん警察ですけどー。」

ああ、今度こそ終わった。

 

「すみません身分証明できる物、免許証でいいですかっ。」

観念してテントから出ると、宮城県警の男女二人が立っていた。終わった。

 

「すみませんねー、お忙しいところ。この辺りであんまりテントって見かけないので、声をかけさせていただきました。どちらからいらしたんですか?」

「神奈川から…。」

「遠いですね! 何ヶ月もずっと?」

「コロナで中断もしてましたが…。」

「そうですか、では、気を付けて旅をしてくださいね。」

…おっ?

「このあたりはクマは出ませんが、イノシシが出たって報告があるので、注意してくださいね。」

おおっ?

「では、ありがとうございましたー。」

「…ありがとうございました……。」

 

世の中、やはり鬼が居れば仏も居るのだ。

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