風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

「なんかさぁ、香りって不思議だよね。かぐとそんときの思い出がフッと蘇ってさー。」

家の大掃除をしている最中、母が放った一言である。

 

その時はさほど気に留めなかったが、旅の再開にむけ玄関先に停めたロケットⅢをいじくっているとき、ふと香った磯の香りがどうにも懐かしく感じた。

海のすぐそば、母が一人手で建てたここに吹き込む、この香りで私が思い出すのは。初めてバイクを買ったときのことだった。

今この時と同じく、群生した三つ葉の上に停めたニンジャ400R。その情景が思い起こされる。

 

思えば、お母さん、ばあちゃんにはいつも世話になりっぱなしだ。ワガママを言ってバイクに乗らせてもらって、今またワガママを言って一人旅なんぞにかまけさせてくれている。

何度、実家に住んでそこらで働いていた方が、まだ親孝行になるだろうと思ったことだろうか。あまりにも生を授けてくれたことに対して、恩知らずすぎるのではないかと。

 

だが、しかし。思ってしまったのだ。

頂いた生を、大事に、大事に、傷一つ付かないように長持ちさせるよりは。

少しでも、少しでもできる限り。輝かせてみせた方が、親孝行になるのではないかと。思ってしまった。

名を上げたその人の母こそ、自分であると言わせてやった方が、恩返しになるのではないかと。

手前勝手な理屈も甚だしいが、家族はそれを承知してくれた。

そうして、この旅は始まった。

 

 

63

 

「じゃあ、行って来るよ。

…今生の別れじゃないんだから、そう寂しくなさんな。」

言い聞かせた相手は、親か。それとも自分か。

サイドスタンドを払い、また旅人の空へと戻った。

 

 

 HKHE0068.jpg

いわきから郡山へと抜ける国道49号は、自然が生い茂る深緑の道。

葉が雨露に濡れた香りが、ヘルメットへと吹き込んだので。それを、深呼吸で吸い込んだ。

ああ、旅の香りだ。

郡山へ着くころには、気持ちが切り換えられるだろうか。

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