潮凪
4月3日
半年ほど前から、行こう行こうと思って行けていなかった。
実家から徒歩10分ほどで来れる距離なのに。いやそんな近場だからこそ、”いつでも行ける”と思い込んで足が遠のいてしまったのだろう。
環境水族館『アクアマリンふくしま』。
地元の水族館として幼い頃遊びに来たことはあるのだが、もう何年訪れていないだろうか、今年で20周年を迎えるらしい。
彼の頃から東日本大震災を経験するなど、波乱の時代を越えてきた本館。その中身はどう様変わりしているのか。
受付にて刀を没収され、手持無沙汰になりながら入館する。
施設に入ると、まず『縄文の里』なる縄文時代の里山を再現した場に通される。水族館で入場者を出迎えてくれたのは、ネズミやタヌキたちだった。
“時代に閉塞感が漂うと、人々の心に縄文時代への憧れが湧き上がる”のだとか。それなら多分、まだこの時代は大丈夫だろう。
他にも春の花々で彩られた『金魚館』や、毛皮目的の乱獲、環境破壊によって絶滅してしまったニホンカワウソの悲運を伝える『カワウソのふち』など。
本館に入るまでにけっこうな時間を喰ってしまうほど、展示内容は充実していた。私が子供だったころよりボリュームアップしているのは確かだ。
流麗なラインを描く、本館へ入る。個人的には、水族館としてはかなり秀逸なシルエットだと思う。
どのくらい画一的かというと、旅に出る前シジミン(茨城の友人)にやらされた某恋愛ゲームでも、この建物が登場していたほどだ。すばらしい。
…別に聖地巡礼に来たわけではない。決して。
こういうの割と苦手。
アクアマリンでは”海・生命の進化”をテーマとして、太古の昔に生きた生物の模型や化石を精力的に展示している。もちろんカブトガニやナメクジウオなどの無脊椎・原索動物といった、昔ながらの体系を持つ生き物も見られる。
ただただ魚たちを見るのも勿論楽しいが、ここでは様々なところに解説文がびっしりと書かれているため、かなりの知識量を得ることもできる。
開館当初からシーラカンスの学術調査に精力的だったアクアマリン。
こちらはアフリカシーラカンスとインドネシアシーラカンスの模型…ではなく、なんと標本。この二つを同時に見られるのは世界でここだけだ。展示期間は今年の5月まで。
他にも生命の揺り籠たるマングローブを造り上げたり、親潮と黒潮がぶつかり合う福島県沖の”潮目”を表現した水槽が、本館の特徴的なパートだといえるだろう。
キリがないので全ては紹介しないが(インスタでも見てね!)、展示生物もカニからエビ、クラゲにタコ、タツノオトシゴ、フェネック、盆栽などなど…。飽きないほど多様だった。
ただ、まぁやはりというか。
人は、本当に数えられるほどしかいない。それを狙って平日に来たのだから当たり前だが、それにしてもだ。
「コロナが落ち着くまで、実家にいたら?」
栃木を出る際、電話で提言してくれた母。
聞いた当初は”大丈夫だろう”と思っていたのだが、実家というテレビのある環境に身を置くと、否応なく耳に入ってくるウイルスの感染状況。誰にも見てもらえない桜たち。そして、まるで風が凪ぐ海のように静まり返った、水族館。
「こりゃあ本当に、悩まなくちゃいけない事態だよなぁ。」
海洋生物たちが心を休めてくれたのはいいが、冷静になると直面すべき問題も明確に見えてきた。
いち人間として、決断をしにゃならんだろう。