風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

殺活の境

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「………。」

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ここ数日予報が揺れ動いていたが、やはり週末の天気は芳しくないようだ。

雨。からの、まさかの雪。

雨の日は走らないというポリシーを変えるつもりはない。が、そうすると二日間足止めを食うことになる。

しかも、後日向かう福島への道のりは山道も多い。降雪のあとだと…。

 

「仕方ない、栃木を出よう。」

辛うじて福島まで上れば、雨雲は和らぐ様子。一県一週間ルールを破るのは心苦しいが、仕方ない。旅では、臨機応変さが求められる。

「そういえば、昨夜読んだ五輪書の一節にもあったな…。」

有構無構のこと。剣術の構えとは存在はするが、意識してとるものではないということ。敵の太刀を受ける際、もしくは敵を斬る際によって、自然とその場に応じた構えととっているものなのだ…といった教えであった。

旅も同じである。例えばテントを撤収する際も、その日が晴れか雨か、周囲に人の気があるかどうかなどで、何から片付けるかが決まってくる。その時その時の状況に応じた行動はある程度決まっているものだが、その細部は状況によって変えねばならない。

 

 

とはいえ、栃木であと一つだけ行きたいところがあった。例によって緑の森博物館で教えてもらった、『鹿の湯』だ。すぐそばにある『殺生石』も見てみたい。

実はこんなこともあろうかと昨日は那須高原にテントを張っていたので、目的地はバイクで10分ほど。さっさとそこを見物して、福島へ入ることにした。

 

観光街を抜け、温泉神社を横目で流したあたりで。唐突に硫黄のにおいが鼻をついてくる。

近づく生物すべてを死に至らしめるガスを噴出していたことから名づけられた、殺生石のお出ましだ。

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駐車場から殺生石までの道のりは、賽の河原と名付けられるだけあって実に殺伐としたものである。どす黒かったり、真っ白かったりと異様に変色した大石がゴロゴロと転がり、その間には草一本生えていない。灰のような砂ばかりだ。

この地域では年貢米の代わりに、硫黄が結晶化した湯の華を納めていたらしい。

 

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人々に湯の華の作り方を伝えたという、盲目の大蛇伝説にちなんだ蛇の頭に似た盲蛇石。

 

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母が作ってくれた弁当を無下にし、この地で天罰を受け灼け死んだという悪童・教傳(きょうでん)を供養する地蔵。

 

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そして、言っては悪いが思わず恐怖を感じてしまう、千体地蔵という異様な光景。

 

どれもこれも、あの世を感じさせるかのような、下界離れしたオブジェクトばかりだ。それらを通り過ぎて奥までたどり着くと、いよいよ殺生石を目の前に映せる。

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左に見える、注連縄が巻かれた岩がそれである。

中国やインドを荒らしたのち、玉藻の前という美女となって日本へ渡り、帝につけいって今度は日本をその手に収めようとした九尾の狐。

その企みは残念ながら占い師によって見破られ、ここまで追い込まれた挙句武将に討ち取られてしまうこととなった。仕方がないので巨石になって恨みを残し周囲に毒気を放ったが、今度は僧によって石を三つに割られてしまい、そのうちの一つがここに残ったという。

 

まぁ、自業自得ではあるのだが。そんなにもコテンパンにされちゃいまして、ちょっぴりかわいそうだとは思いますよ、狐さん。

 

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なんて同情したのがいけなかったのか、振り返れば怪しい雲行きが目に入る。

本来の目的、鹿の湯へ急ぐ。

 

 

 

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那須温泉の源となる鹿の湯。629年に狩野三郎行廣なる住人が狩りで傷つけた白鹿を追いかけて行った際、その白鹿が温泉に浴しているのを見つけて発見されたのだそう。

 

外観は古くからの建物そのまま…。といった感じだが、玄関へ入ってみれば内壁は白く塗られており、トイレも非常にキレイであった。儲かってんのかなぁ。

番頭さんにデカい荷物を見張ってもらい、湯屋へ入る。

中は脱衣場と浴室の仕切りがほぼない造りで、石壁と木の柱、梁を用いた趣のある浴室がすぐ目に映るものだから、道着を脱ぐ手が早まった。

 

浴槽は6つあり、414243444648℃と分かれている。源泉は68℃だそうだ。

48℃の浴槽は、とても底まで足を入れられる温度ではなかったので、断念。43℃の白濁した湯に、身を沈めた。

 

直ぐに芯まで熱さが染み入ってくる…。という感じではなく、硫黄を含んだ肌触りのいい湯が、皮膚を優しく包み込んでくれるような感覚。白く濁った湯泉が視覚的にも柔らかな印象を与えてくれ、揺り籠に揺られているときのような心地よさを味わえた。

 

母の意見と那須野の湯は、千に一つも無駄がないよ

 

 

生命を殺める殺生石から道を一本越えれば、疲れをやわらげ体を蘇らせてくれる鹿の湯。

生と死の境は、ほんっとに、紙一重だなあ。

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