友よ
「うーん、いろいろ酷いですね…。」
「い、いろいろ…。」
「もう、グラグラだ、抜いちゃおう!」
「~~~~~~! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
「膿がすごい出てきましたよ。これじゃ足りないなぁ…。」
「がっああっんんんん~~~~~~~~!」
…なんでこの時期なのだろう。
シジミン宅に泊まってからというもの、妙に歯痛を感じていた。
“ま、前々からたまにここ痛くなるときあるし、筋肉痛かなんかだろう…。”と思っていたのだが。とんでもない。歯科医師が言うには、鼻の奥まで膿が溜まっていたとのことだ。
そう、一ヶ所にいつまでも留まるわけにはいかないのだ。だから、急な施術でも仕方がない、ないのだが………。
診療が終わったのちも、麻酔では足りないほどの痛みに、しばらく悶え苦しんでいた。
~~
3月22日
結局、シジミンこと彼の家には1週間もお世話になってしまった。
3食に洗濯、風呂、寝床まで…。ほんと、旅人の身としては贅沢すぎるひと時を過ごさせていただいた。
特にシジミンには、いろいろと身の回りの世話をしていただいて。感謝しきれないとはまさにこのことである。
シジミンとは、昔…6年ほど前に、オンラインゲームで知り合った仲である。『ARMORED CORE VERDICT DAY』なるロボットゲームだった。
ゲーム内の気の合うチームメイトとしてボイスチャットで数年通話をし、やがて彼もバイク乗りになるということを聞きつけて。雑誌の取材も兼ねて、彼と顔を見せ合う仲になったのである。
その後も、神奈川住みの際によく通話で交流は続けていた。
私より二つほど年下で、ぶっきらぼうな口調で堅苦しい礼儀などは特に感じられない。正直、通話している最中は”私より若いな”と、よくある経験の差からくる先輩風、のようなものを感じていた気がする。
が、ここ一週間で見た彼は…失礼だが、予想以上にしっかりとした青年だった。
茨城の地理だとかについてはもちろん、食べ物だとか、料理についても私よりはるかに思慮深く、とくに今よりさらに若い頃から従事している農業に関しては感心するほどで、まさに息をつくように重機を動かしている様は、私の想像していた人物像の50倍は立派で。
東京で見てきた大多数の若者なんぞ鼻で笑える、冗談抜きに、フラフラとしている私がちっぽけに思える存在だった。
そんなシジミンが、彼の姉も連れて私に焼肉を奢ってくれた日があった。その際、彼が彼の姉に、私のこのホームページを紹介してくれる場面があったのだが。
ホームページの表示がすぐであったことから、恐らくブックマークしていたことに私は気付いた。
瞬間、恥ずかしい話だが。心で涙を流した気がする。
ぶっきらぼうな彼が、信じられないことに、私の旅を、気にしてくれていた。
言葉にこそ出さなかったが、気にしてくれていたのだ。
そうだ考えてみれば、気にかけているからこそここまで親身になってくれたのだろう。
それに何故、私は気づかなかったのか。別れ際まで。
「シジミン、いろいろ世話になった。本当にありがとう。」
「まぁ、この数日でだいぶ回復しただろ。事故らないようにな。」
すまないシジミン。もっとありがとうと言いたかったのだが、今の私の情けない器量では、この口数が精いっぱいだ。
だから、来年芋掘りを手伝いに来るときには。もっと器量の大きい男になってみせるから。
今はただ、ここに。感謝の念を記すことで赦してほしい。
不器用な私の、数少ない友。
シジミンよ。ありがとう。息災でな。