絹暖簾
3月17日
ビニールを引きはがし、ビニールハウスが役割を終えたのを見届けた後。
時間はまだお昼だったので、シジミンとどこかへ出かけることにした。
茨城の見どころを彼に聞くと「とくにないんだよなぁ…こと今の時期は」と悩んだ末、『袋田の滝』を挙げてくれたので、そこへ行くことに。
彼もライダーであるから、2台でツーリングをば…と思っていたのだが、彼のYZF-R6は只今ブレーキ系統でトラブル中。
かといって友人を置いていくのもつまらないので、彼運転でクルマを出していただくことにした。
…いやまぁ、いいだろう。バイク縛りの旅という訳でもないし、自分の矜恃より他人とのつながりを大事にしたい。
袋田の滝への道中で、『竜神大吊橋』へ寄っていただいた。
長さ〇mという長大な歩行者専用の橋。柱が龍の角のようにギザギザとしているのが特徴的だ。
またもう一つの特徴として、バンジージャンプも行なっているらしい。大学生か何かと思わしき若者たちが、時折絶叫を挙げていた。一応私も受付を覗いてみたのだが、価格は…1万7,000円。。。
紅葉の時期にでも来たらさぞ見物なのだろうが…。
かつて付近の龍ヶ淵と呼ばれる池に雄雌の龍が住んでいてよく遊んでいたとかで、こんな名前になったとのこと。
だが、個人的にはなぜこの橋が出来たのかが気になる。
写真
対岸は行き止まりだし。
レジャー用だろうか。だから渡るのに通行料を取られるのだろうか。
…謎を抱えたまま、その場を後にする。
袋田の"滝"と聞いて、てっきり華厳の滝などのようにポツンと滝だけが存在する観光名所なのかと思っていたが、現状はまったく異なり。付近はちょっとした観光街となっていて、土産屋や飲食店が駐車場から滝までの道に立ち並んでいた。…まぁ、みな閉店中だったが。
またも通行料を払うと、トンネルの中へ通される。ゆるやかな坂の隧道を突きあたり、エレベーターを昇ると。
「おお~っ。これは…たしかに一見の価値はあるわなぁ。」
2、3段だろうか? 詳しくないのでわからないが、木々の奥から押し寄せてきた水流が、滑らかな岩を滑り落ちては、岩に当たって。大流が次々と細い子流へと変化していき、まるで真っ白な絹の暖簾を、手で開いているような美しい光景が眼前に広がった。
かつて西行法師が、「四季に一度ずつ来てみなければ真の風趣は極められない」と評した袋田の滝。深緑の断崖から落下する純白のその姿を、先人たちは”神”と崇めたという。
渓谷では吊り橋や瀧見台、どういった経緯でそうなったのかわからない、特異な形の岩たちも見られた。
いやぁ来てよかったわとシジミンに告げると、「三大なんちゃらの一つだからな~」とナメるなと言わんばかりの返事。
普段、行先は地図で気になる地形を探して決めているのだが、滝はその手段だと見つけにくかっただろう。
流れているのに、まるで止まっているような。万変なのに、静寂をたたえた佇まい。
あれは…。どこか、五輪書に書かれた心の有り様に通ずるものがあるな。
友への感謝の念も込めつつ、あの光景を忘れまいと思った。