風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

せいしんとときのへや

「なかなかいい部屋だ…。」

 

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何件かインスペしたうち、ここと決めたのはOonoonba(オーヌーンバ)の一軒家。

シティまで車で10分ほどとアクセスがいいにも係わらず、家賃は他の物件と比べて安め。

少なくとも、ゴールドコーストでの週350ドルよりは100ドルも安い。

 

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しかも前と違って、エアコンもある。

これから秋になるとはいえ、北の地はどれほど暑くなるかわからない。これでもう寝苦しい夜とはオサラバだ…。

椅子と机は、あとで買おう。

 

同居人も若めのカップル二人で、互いにあまり干渉しなくてよく過ごしやすい。

彼らはエンスイートを使うので、もう一つずつあるバスルームとトイレは、実質私専用だ。

しかも、隔週でお掃除の人も来るという。

 

「最高すぎる…。」

 

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犬もいる。

ドアを開けると駆け寄ってきて、かわいい。

 

 

人気が少なすぎるきらいはあるが。

青い海と過ごしやすい家。

 

仕事も、なんとかなりそうだ。

ちゃんと、連絡があれば…。

 

 

~~

 

―3日後―

 

「連絡、こねえな…。」

 

面接の人は、2日以内にレストランマネージャーから、連絡があると言っていたが。

 

念のため、もう一回行ってみよう。

 

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来てみる。

 

 

ロビーに再び訪れ、面接官だった人を呼んでいただくと、運よく会えた。

目の前で担当者に、今、どうなっているのか電話していただけたうえ、その人のメールアドレスもいただく。

 

なんとか、信用はできそうだ。

 

 

―5日後―

 

連絡がこない。

また、会いに行ってみる。

 

と、駐車場に停めていざ乗り込もうというところで、ちょうどメールが。

おめでとうございます。あなたを採用の次のステップに進むことを決定しました―

例のマネージャーからだ。

 

時間がかかりすぎだが、ひとまず安心である。

 

前の職場からのリファレンスが欲しいというので、2名ほどメールアドレスを教えてくれと頼まれる。

普通に、電話かければいいと思うんだが…。

 

 

 

ヤマゲンで懇意にしていただいていたスタッフに連絡をして、リファレンスを書いてもらえるようお願いする。

快くOKをもらう。

 

 

数日経てども、リファレンスを書いたというメッセージが来ない。

例のマネージャーにメールを送っても、返事がない。

「状況がわからん…!」

 

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また、ホテルに乗り込む。

運よく、例のマネージャーに会えた。アジア系の女性だった。

伺ってみると、一件は届いているが、もう一件はまだらしい。

 

もう一人にせっついてみる。

 

―2日後―

連絡がない。

さらにせっつく。編集部時代、ライターに原稿を催促したのを思い出す。

 

―その翌日―

マネージャーから、リファレンスが届いた旨が伝えられる。

ようやく、これで、ひと安心、か。

 

 

 

 

 

 

―それから、何日経ったかわからない―

 

 

「連絡がこない…。」

 

 

時間がかかりすぎである。

 

相変わらず、メールを送っても返事がないので。ホテルに行って実際に話を伺ってみるのだが、けっこう時間がかかるそうだ。

 

「もうすぐだと思う」と言われながら、スタッフ割引でコーヒーなどを飲ませてくれるから、つい待ってしまうのだが。

 

 

流石に日が重なってきたので、他の店にもレジュメを配り始める。

が、気休めだ。やはりそちらも、連絡はない。

 

 

 

 

今から働いても、セカンドビザの要件には恐らくもう届かない日数であろう。

 

なんというか、ここに来て、初めて挫折に近い何かを味わった気がする。

 

「こういうことも、あるのだな…。」

 

今までは、なんとかこうにか自分の力で、状況を打開してきた。

今回もそうだ。ベストは尽くした筈である。

が、それでも。どう努力しても。

人の采配ひとつで、道が塞がってしまうことも、あるのだ。

 

自分の力では、もうどうしようもない状況。

 

「…まあ人生、そういうこともあるわな。」

 

 

 

それよりも問題なのは、暇すぎることだ。

ガソリン代をかさませる訳にもいかないから、迂闊に出かけられないし。

自室に引きこもる、軟禁みたいな状態になっている。

 

せっかく暇なのだ、何かやってみよう。

 

 

まず始めたのは、バーテンディングのクラフトフレア練習。

本格的なフレアバーテンディングまでは、できなくていいと思う。というかボトルを回すほどやってしまったら、味が落ちるし。

しかし簡単なトリックぐらいはできたほうが、お客さんを視覚的に楽しませられるし、何よりカッコいい。

海外で見てきたバーテンダーたちは、ほとんどが大なり小なりはできているといっても過言ではない。

 

シェイカーは落とすと大きな音がする。家のそばの土手に出て、シェイカーや、一応水を少しだけ入れたボトルも使ったりして、回したり、振り回したり、後ろに投げたり、後ろから投げたりと、Youtubeの動画を先生に練習する。

けっこう、キャッチに失敗すると手が痛い。シェイカーの縁が指の皮を抉って、血が出る。

 

バースプーンやメジャーカップなどは、座りながらでも片手間でできるから、屋内で。

やってみると、指の筋力とリズム感が、今以上に必要なことがわかる。

実際の現場では、左右の手で別々なこともしなければいけないだろう。

 

もちろん、暇潰しの代名詞・筋トレもやってはいるけど…。

 

 

PCゲーム販売サイト・Steamで、リズムゲームを購入してインストールする。

複雑かつ地味に持久力のいる作業の繰り返しに、指の感覚がちょっとだけ磨かれてきたかも。

しかし、音楽に合わせて指を動かす…というのは、存外楽しいな。リズムゲームなんて小さい頃以来やってなかったから、けっこうクセになる。

 

「しかし、所詮ゲームか…。」

 

何か、活かせたらいいのだけれど。

 

「…楽器、か?」

 

昔からやってみたいという意識はあったけど、日本に居た頃はなにぶん時間がなくて、手が出せなかった。

しかしアホほど暇な今なら。

 

ネットで検索して、色々な楽器を調べてみる。

「ギターやサックスは…カッコいいんだけど、なんか違うんだよな。」

それぞれ主旋律も奏でられるけれど、なんというか…リズムゲームのような一指で音をハメていく愉しさとは、少しだけ違うような。

何より、音色が違う。もっと、それこそゲームのような、ポップな電子音が出せたら…。

 

「ん、それ。たしか日本一周してるとき、どっかのラジオで聞いたぞ。」

なんとなく耳を傾けていた、ラジオ。音楽番組だったのだろう。

女性の進行が、男性の解説に質問していた。

「ああいうゲームみたいな音って、どうやって出してるんですか。」

「あれはシンセサイザーっていってね…。」

 

シンセサイザー…!

 

すかさず調べてみる。

 

…なるほど、キーボードに、色々な音をインプットできる機械…と。

ピアノのようでもあるけれど。押し心地とかが違うらしい。

「…どうせ練習するなら、ピアノからのがいいんだろうか。」

しかしピアノを練習するなら電子ピアノ、シンセサイザーとはまた違う…と、当たり前だが入り込んでみるとけっこう色々あるようだ。

「金がないから、今はできないけど…働き始めたら、安いの買ってみようかな。」

趣味で始めるものだ。三十路手前で始めたって、文句は言われんだろう。

 

 

「しかし、金がないと……何もできん。」

できることと言えば…。こうして、文を書くことぐらいだろう。

 

「…そうだ、昔書いてた小説、まだ全然出来上がってなかったな…。」

公開してもあまり見られないし、まあ見られても困る出来ではあったし。

何より日本でのバーテンダー業務が忙しくて、書きかけだったけど。この際、続きを書いてみようか。

 

「しかし、自分もそうだけど小説ってのは、入りづらいよな…。文字の羅列じゃつまらんよ。」

可笑しな話だが、私自身、小説を読むのは苦手だ。

どうせなら、楽しく読んでいただけないものか…。

 

「…ノベルゲームでも作ってみるか?」

シジミンに勧められて、よくいろんなノベルゲーム(ギャルゲー)をやってきたな。

けっこう数はこなしたから、勝手はわかっている筈だ。

問題は、私は絵が描けないことだが…。

 

絵師を雇う金はない。

背景は、旅の写真を使えばいいけど……。そうだ。

「生成AIが、今の時代にはあるじゃないか。」

良くも悪くも話題になっているAI。あそこに、自分も足を踏み入れてみよう。

 

よく、pixivとかでもAI生成の画像が投稿されているから。比較的、誰でも手を出せるものかと思ったが…。

「やっぱり、金かかるのね…。」

ネットサイトのAIサービスを使う場合は、どこも月額でいくらかかかる。

高くはないのだが、今の私には…。いや、今の私ではなくても、月に何枚までと制限されているのは、落ち着かない。

 

「自分のパソコンでなんとかできないのか。」

調べてみる。と、ヒットした。

Stable Diffusion…。」

自分のパソコンを入り口に、ネットを介してサービスにアクセスして、画像を生成できるらしい。

それなりのスペックが必要だそうだが…。この10万円ノートパソコンでいけるだろうか。

 

導入方法を調べ、試してみる。

「…あれ、最新だとうまくいかないな…ダウングレードしてみて…。」

高専時代に学んだプログラミングの知識を久々に引っ張り出し、あれやこれやと試行する。

「このコードで立ち上げてみたら…お、」

起動した。

 

このコンピューターでは、一枚生成するのに時間がかかるうえ、大きなサイズの画像は作れないが。十分だ。

「じゃあ次は、ティラノビルダーあたりを導入して、ノベルゲームのシナリオを…。」

とりあえず、試しに一本作ってみるか。

 

背景は、新潟を中心に各地で撮った田舎を使って…。

 

キャタクターの立ち絵は、このモデルとプロンプトで作ってみよう…。

 

音声素材はどこから…。

 

メッセージウインドウのデザインは、座標のコードは…。

 

AIが手を上手く描写してくれん…。

 

 

~~

 

 

そんなこんなで、1週間ほどでお試し1本が出来上がってしまったり。

 

久々に明るくなるまで徹夜して、疲れ果てた身体をベッドに転がす。

 

「こう……あまりにもヒマだと。」

 

かえって、やりたいことやしたいことが、見つかるものだな。

 

もう、思えば三十路手前。日本一周もしたし、外国にだってきた。

あとはちょくちょく旅に出られれば、満足…とでも思っていたんだが。

「やりたいこと、いっぱいだぁ…。」

小説は書き上げたいし、それをノベルゲームにもしたい。

音楽だってちょっとは遊んでみたい。

そうそう、前から意識してた、ムエタイだってやり込みたい。

 

…これだけ、道標ができているなら。

 

「日本に帰って、それらに打ち込むのも、ありかもなあ…。」

 

 

 

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月日は過ぎ、54日。

アルドホテルの面接をしたのが、331日だ。

 

毎日、窓から同じ景色を眺めながら。日本に戻ってしまった時のことを、あえて楽しみに考えてみる。

 

それはそれで、ありか。

 

この長い時間で、見つめなおせたのだから。いいだろう。

 

「まーしかし、最後に少しだけ踏ん張ってみるか。」

 

最後の最後のあがきにと、レジュメを気になるところに片っ端から配ってみる。

まあ、期待なんてしていないのだが。

 

と、帰宅したところでだ。

「よろしければ今日、インタビューに来ませんか?」

なんて、メールが届きやがった。

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