風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

第二戦、開幕

「運命ってのはあんのかもな~」

 

突然のことだった。

東京でのなんやかんやを終え、故郷は福島、いわきに帰って来た次の日。我が初めてのスマホがめずらしく着信を知らせると思ったら、ディスプレイには泉さんの名が。

そう。日本一周の際、山形は天童の道の駅にて晩酌をし、大阪では自宅に厄介させていただいた。泉さんである。

 

「ほら俺仕事柄さあ、いろんな大工さんだのなんだのと連絡先交換するねん。だから電話帳整理せななーしてたら、木村クンの番号見つかってさ。元気してるかなーおもて電話したんよ。」

「良いタイミングでしたね。オーストラリアに居る時は電話番号違うんで、繋がらないところでしたよ。」

 

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しかもちょうど事務所のある、福島県の郡山に居るということで。わざわざいわきまで足を運んでいただいて、「高いもん見つけとけ」と高級肉のシャトーブリアンをご馳走になってしまっていた。

 

「しかもさぁ、ほんとーに数日前から、オーストラリア行ってみたいなぁ思ってて。スゴイ偶然だよなぁ。」

 

まだそんな歳にも見えないが、なんでも老後のことをそろそろ考えているらしく。どこか田舎で古民家をリノベーションするか、オーストラリアでまたあてもない旅でもしたいなと思っているらしい。

「貯めた金を使わずに死ぬのもなあ。日本はもう何周もしたし…昔ニュージーランド行ったことあるから、あん時みたくのんびり車で旅してもいいかなて。」

「しこたま稼いで、気兼ねのない旅に出る。良いですね~私の理想です。」

 

若い頃は生まれ故郷である鹿児島の島を出て、私と同じように貧乏バイク旅をした泉さん。

今は事業を成功させて、路銀に困らない生活ができるのだから。尊敬せざるを得ない。

「私も、昔は旅をしながら記事だの動画だので収入を得られたら…なんて思ってましたが。どうにも、性に合いませんでしたね。旅してるときは、旅に集中したい。

 だから私も、何がしか成して、貯めてからまた旅に出るってしたいですよ。泉さんもですが、こうして助けてくださってる方々に、合わせる顔も繕いたいですしね。」

「いうても、まだ28やろ? まだまだやで。俺も仕事はじめたんは、30前ぐらいだったしなあ。」

そういえば、日本一周を終えて、警備のバイトをしていた時も。じいさん方に、「30までは何をしても大丈夫」なんてよく言われたものだ。

その言葉を信じない訳ではないけれど、それに寄っかかって自分に甘くしたくもない。

生き急いでこそ、生まれる活力というものもある…。

 

「ま、オーストラリアのこととか聞きたいから、また連絡するわ!」と、いつかのように恩人とまた別れる。


恩人といえば、オーストラリアへと背を押してくださったナベさんにも、那須まで行ってお会いして来た。

 

 

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そちらでご馳走になったのは盛り蕎麦。

帰省してから母にも会津の蕎麦をご馳走になったりもしたが、やはりこれぞ日本の味、である。寿司やラーメンと違って、海外には滅多にないからな…。

 

「じゃーシュン君は、タウンズビルに移動して。また家探しと仕事探しだ。」

「ええ。また、良いバーの仕事が見つかると良いんですけど…。」

「なんとかなるよ。それに前も言ったけど、バーテンダーにとらわれなくても、いいとは思うよ。」

「ですね。転職は慣れてますし。」

自嘲気味に笑う。が、ナベさんはそれを肯定してくれる。

「うんうん。同じ仕事をずうっとやって、安定した暮らしを得るのももちろん良いけどさ。

 僕はこう考えるんだよ。転職!ってなったら、やった! また新しいことが体験できる!って。不安もあるだろうけど、どうせなら楽しまなきゃね。」

「そういっていただけると勇気が出ます。

 とはいえまずは、セカンドビザ。取りたいですね。向こうでなにかしたい、っていう気持ちも、湧いてきたので。」

「あとはまあ、良い人捕まえるとかね! でも、いろいろと冒険できるのは、奥さんできるまでの特権だから難しいね~!」

「日本ですらこの体たらくなのに、そんな縁はまずないと思うので、ご心配なく。はははー。」

 

 

~~

 

 

実家の浴槽に浸かり、横たわる。

平地に建つ一軒家なので、小窓から風情ある景色は見えないが。こうして浴槽に頭をあずけ窓を見上げると、お月様を望める。

私は長風呂するタチではないが、こうして月を見ながらお湯に浸かる時間が、好きである。

海外に行けばシャワー文化だから、このようにできるのも…いや考えてみたら、日本で一人暮らしをしている時も一度とて浴槽なんて使っていなかったから、これは実家に帰った時ならではの時間というわけか。

 

実家は漁港のそば。微かに聞こえる波音に、心を寄せてみる。

「明日になれば、また海の向こう…。」

しかし、この空は世界中につながっていて、この月はどこででも見られるのだろう。

 

月は良い。お天道様と違って、面と向かって語らえるのが良い。

相模原でアパートに帰る時も。道端でテントを張る時も。夜間警備をしている時だって、ゴールドコーストでの眩しい街中でだって。

いつだって、お月様は良き友だった。孤独な旅路で、唯一どこまでもついてきてくれる。

 

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「日本でも、オーストラリアでも。いろいろな縁が、私を支えてくれる。

 弱音を吐かず、またことに当たっていこうじゃないか。」

雲上に見える友に語りかけ、瞼を閉じた。

 

 

 

 

~~

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さて、行くか。

 

現地時刻6時半。ブリスベン到着。

試しに持ち込んでみた煙管の刻み葉が検閲に引っかかるかと冷や冷やしたが、説明したら問題なく通してもらえた。

なんやかんやして、9時前、駐車場を予約してた時間ギリギリに空港を出発する。

2週間放置していたが、バッテリーが死んでいなくてよかった。

 

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幸先悪くブリスベンは雨模様である…。中古らしく質の悪いワイパーに視界を歪められ、四苦八苦しながらハイウェイに乗る。

まぁ、気温が下がれば熱ダレする危険性も減るし、この20万㎞走ったXトレイルにはちょうどいいだろう。

考えようによっては、雨だから余計な観光気分を刺激せずに、ひたすら走るモチベーションも保てる。

 

 

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マシンをいたわって、1時間半ごとに30分は休憩をとるようにする。

この雨模様、寝る場所のあてもない旅…。日本一周したての、埼玉を思い出す。

誰に課せられた訳でもなく、それを成したとて何か見返りがある訳でもないのに、私は何をやっているのか…

とあの頃は不安に押しつぶされたものである。

ぶっちゃけ、今も全く同じ気持ちではあるが。

「だからどうした、やるしかないのだ」

と開き直れるようになったのが、昔の私との差である。

 

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ブリスベンからタウンズビルまでは、約1,500㎞。

日本で考えると、東京から北海道の最北端・稚内まで走るのと同等である。

1時間半でけっこう走った気がするが、地図で見るとみみっちい距離。ゾッとする。

「今日は、半分もいければ上々ってところだろうか…。」

 

なにより延々と高速道路で移動するということは、この何も見えない風景を何時間も眺めなければいけない、ということだと思うと、気が滅入る。日本と比べればそりゃ景色の味も違うがすぐ慣れるものだし、日本でいうSAも滅多にない。休憩や給油のたびにいちいち降りて、休憩場所を探すのも億劫である。

 

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…と思っていたのだが、Kybong(キーボン)のあたりでM1パシフィックハイウェイは突如終点を迎え、A1ブルースハイウェイに切り替わる。

 

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すると片側1車線になり、道の脇にいろいろなお店が出てくる。

 

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そしてそのちょっとした町を抜けると、また人っ気のない道路に戻る。…が、線路が脇を走っていたり、時折交差点があったりと、高架で区別された高速道路とは違う景色である。

制限速度こそ100/hでハイウェイではあるのだが、なるほど日本でいうところのバイパスになるようである。

たまーに小さな町に入ると制限速度が低くなり、抜ければまた100㎞/hに。

これなら、飽きずにドライブを楽しめそうである。

 

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サービスエリアの代わりに、定期的にガソリンスタンドにコンビニ、レストランが併設されたものが出てくる。

 

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基本、どこにでもそこオリジナルのハンバーガーがある。もうオーストラリアの郷土料理はハンバーガーでいいのではないだろうか…。

ここのは肉厚ビーフその他が挟まって、10ドルほど。田舎だからだろうか、安い印象である。ゴールドコーストの物差しで生きてきた身にとっては、助かる。

 

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大幅に移動しているせいでもあるだろうが、オーストラリアらしく気象の変化が激しい。

時折、前が見えなくなるほどの豪雨に見舞われるので油断ならない。路面のスリップにも注意だ。

 

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そのぶん、晴れた区間に入った時は爽快である。

 

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北へ移動するにつれて、それとなく木々がジャングルのような、濃い色に変わっていく気がする。これは、タウンズビルの植物事情が楽しみになってくる。

気温も心なしか、ベタつくものになってきている。

 

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Gin Gin(ジンジン)という変わった名の村で休憩。ジンでも買えば良かっただろうか。

そういえば付近では、Bundaberg(バンダバーグ)という町の看板も見かけた。まさかとは思ったが、やはり同名のスピリッツ・バンダバーグの産地であったらしい。たしかに、ラムの原料であるサトウキビ畑が至る所に見られる。

 

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こちらはワイン用のぶどうだろうか?

恥ずかしながら、プランテーションの知識が乏しく何を栽培しているのかわからない。

 

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片道1車線だが、定期的に追い越し車線が用意されていて、そのアナウンスもする看板もしっかり立っている。

私は速度違反を恐れて制限速度を守っていたため、ちょくちょく後ろが詰まるが。ちょうどいいタイミングで車線が増えるため、ストレスは特に感じない。

それにしても皆、違反金は恐くないのだろうか。オーストラリアでの速度違反金はバカ高い。皆、だいたいの取り締まり位置がわかっているのだろうか?

まぁ、カメラがある区間は丁寧にアナウンスの看板があったりするので、日本のような点数稼ぎ目的ではなく、純粋な事故抑制のためという側面があるのだろう。やたら滅多に捕まえない感じなのだろうな。

 

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それから面白いのが、『Fatigue zone(ファティーグゾーン)』という看板で、疲れやすく事故が起きやすい区間に設置してあるのだろう。

トリビアにまつわるクイズを出題していて、数キロ先の看板でその答えが示されている。

頭を使って眠気を覚まそうというウィットの効いた試みが、独特である。

 

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Bororen(ボロレン)。緩やかな曲線を描く丘と、傾いてきた西日にうっとりする。

 

 

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Benaraby(ベナラビー)で休憩。なんの変哲もないパーキングでも、トイレとベンチぐらいは用意されている。

空がオレンジ色になってきた。あとは暗くなっていくだけだ。

 



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トラックで真夜中に走っていた時を思い出す。その時に比べれば道が広くて(当たり前だが車も小さくて)ラクだが、街灯などが滅多にないので緊張する。車のライトを消せば、辺り一面真っ暗だ。

 

 

こうなると、いかに雄大な景色であろうと無価値。闇の前では、すべてが等しくまっ黒だ。

牧草の香りと、微かに差し込む月明りで。辛うじて開けた土地なのだとわかる。夜間らしく、ときおり長い貨物列車が並列する線路を走っていった。

 

ナイトドライブもシャレなものだが、それは夜景とか、峠のワインディングが楽しめてのハナシ。

こうも直線が続き、何も見えないと。もはや精神と時の部屋である。

頭の中でどうでもいいことを思いついては、それがいつの間にかとおりすぎ、何を考えていたのかも思い出せない。

「北海道みたいだな…。」

思考が運転から離れ、自分探しに向けられていた、あの直線路を進む6時間。懐かしいな~。

 

今は自分探しもひと段落したし、何を考えていたのか…というと、こう、書いていて何も思い出せない。まぁ、何も考えていなかったのだろう。

だらだらと走っていると、前方の雲が明るく照らされてきた。街である。

 

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だいたい、ブリスベンとタウンズビルの真ん中。RockHampton(ロックハンプトン)に到着。やたらと牛の像が見える。酪農の街なのだろうか。

 

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スタンドでサンドイッチを買い、夕飯。快適だからと着物を着ていたからか、店員に「コンバンハ!」と話しかけられた。日本人、こっちまで来るとめずらしいのだろうか。

 

 

 

街を抜け、ちょっとだけ走ったところで、路肩に広がる駐車場を発見。今晩はここで寝よう。

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向かいに街灯があって真っ暗じゃなく、防犯的に助かる。マットレスを敷いてある荷室に光が差し込まないよう駐車し、邪魔な自転車を引きずり出してドアにロック。

 

時刻は21時すぎ。24時間走って、約700㎞。半分か。

明日も多分、同じぐらいの疲労を得ることだろう。どうせ同じなら、明日は晴れが良いな。

そんなことを考えながら、重い瞼を閉じた。

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ここでも、月が見える。

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