風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

ミライ

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吹き荒ぶ雲を通り抜けたその上は、恐ろしさを感じるほど静かな世界が広がっている。

 

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グラデーションを描きながら、星の果てへと流れていく藍色。

その足元を、幾本もの厚い白が走る。

悠々と、ふわふわと見えながら、重々しく、どっしりと構えて進んでいく雲たち。

規則正しく見えながら、目を凝らすと各々が思い思いの形を描いて、好きなように歩いている。

周りなど意に介さず、ただ、自由に走っていた。

 

 

 

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成田空港に到着すると、久方ぶりにあのキンと張り詰めた、残酷なほど冷ややかで、だけどなぜか恋しくなる。冬の空気に、顔を撫でられた。

 

 

 

 

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長旅のたびに世話になっている、茨城はシジミン家よりロケットⅢを引き揚げ、東京のトライアンフへ預け。そこからレンタカーを拝借し、東京に残しておいた荷物をいわきへ。さらにそこから東京へ車を返却…と、気の休まらぬ余暇の始まり。

そこから一夜越えて、バー時代に捕まえた鉄道旅仲間と、埼玉は長瀞に足を延ばしてみた。

 

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「板野さん、まだ元気かな…。」

「誰のこと?」

「昔、日本一周の時にここのガイドをしてくれた人がいたんですよ。」

けっこうご高齢だったから、もうガイドはやっていないかも。

あの時教えていただいたおっきなポットホール、ガイドさんがいないと見つけられないよ。

 

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相変わらず冬に来ちゃったけど、あの時よりは観光客、見えるよ。板野さん。

 

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いわなの塩焼き。キノコ汁のそば、メンチカツ、刺身、日本酒…。

オーストラリアに居たころは恋しくなかったが、いざ帰ってみるといろいろ手を伸ばしてしまう。そして「やっぱいいわ」とこぼす。

元日の震災の影響はどうか、と真面目な話もそこそこに。東京の酒場で出逢った方々のゴシップだのなんだので、重っくるしくない笑い話を咲かせて、小旅行の道連れと別れて。

新宿の繁華街を背に、りんかい線へ。

 

 

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お台場は、好きな街だ。いっぱい思い出がある。

小さいころ、母親に遊びによく連れて来てもらったし。

雑誌編集部時代は、よくこのあたりでバイクの撮影をした。

トラック運転手時代は、木材を運びにも来ていた。

 

最近は、船の科学館がなくなったりと寂しい変化もあったみたいだけど。それでも、東京にしてはすっきりとしただだっ広い敷地に並ぶ、洗練されたビルやお店、張り巡らされるゆりかもめのレール。香る潮風。

都心という眩しすぎる場所から、一歩離れられる場所。迷ったときによくバイクで走る、ツーリングルートでもあったな。

 

 

ちょっと背伸びをして、ハイフロアの部屋を予約。東京の夜景を見ながら、のんびりと…。

 

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「って、海側かい!」

 

仕方がないから、歩いてすぐにある国際展示場まで散歩。

 

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モーターサイクルショーやモーターショーでは、この辺りをよく取材して歩き回ったものだ。

 

人の波がうねるこの道も、何もない夜は風の音しか聞こえない。

鋭い寒風が、体に叩きつけられる。それがどこか、心地いい。

 

 

 

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遠くに、光の塊。

あの中に居た時だって、あったのだ。

あそこで編集者をやって

あっちこっちで警備員をやって

あのあたりで荷物を積んで

あそこでシェイカーを振って。

 

だけど今はもういない。

手を伸ばしても、もう光には届かない。

すぐ後ろには、冷たく真っ黒な海。

 

「寂しいもんだ。」

明るみの外から、それを眺める人生か。

 

 

何度か、思ったことはある。

あの中で落ち着いていれば、どんなにラクだったか。暖かい中で、ホッとできたか。

冒険なんてしないで、あそこで普通に暮らしていれば。

週末になったら、仲間たちと飲みに行って。

給料日には、そこそこ美味い物を食って。

たまにの休暇には、ちょっと出て温泉にでも浸かるんだ。

もしかしたら、そこそこべっぴんな嫁さんをもらえたりして。

不器用なりにも働いて、自分だけの場所を作っちゃったりして。

 

そんな人生もあったはずだ。

 

そんな人生だったら、

幌の下で寒さに耐えることも

毎晩毎晩納豆ばっか食べることも

一人で寂しい夜を重ねることも、なかったかもしれない。

 

「もっと親孝行もできたかもな…。」

意味のない旅。何も成し遂げられてない人生。

それがどうにも、視界に靄をかけていた。

 

私の生き方、間違ってるんじゃないか、と。

 

 

 

だけど。

 

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「美味い…。」

 

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さすがは昔からある、高級ジャパニーズレストランだ。半年間働いていて、これに一度も口をつけなかったとは…。

ヤマゲンで働く最終日、「明日の晩、時間があれば食べに来なよ」と言われなければ、そのまま日本へ帰っていたかもしれない。

惜しむらくは、シェアハウスの方々が私とのお別れにと、直前にピザパーティーを開いてくれたことである。あまり腹に余裕が…。

 

パンパンなお腹をさすりながら、レストランのスーパーバイザー、ジョニーのもとへ行き、「御馳走様でした」と礼を言う。ホテルのスタッフは、料金が半額なのだ。

財布の紐を解こうとすると、ジョニーは笑顔で肩をたたく。

「大丈夫だ、シュンスケ。お前はもう払ってるよ。」

「…?? どうゆうこと?」

「シュンスケはほんとによく働いた。だから今日の会計は要らない。僕らからの礼だよ。」

「うわ……。

 サンキュージョニー。絶対忘れないよ。」

「成功を祈ってるよ、シュンスケ。日本に行く時は、連絡させてくれ。」

 

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Shunsuke,you are nice worker. The best Japanese bartender I’ve met so far.

 

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Hope your success. I’ll check your Instagram! Please post a lot.

 

向こうの人々は。

握手だけじゃなくて抱き合ったりとか。ほんとに大げさで、調子が狂う。

まるで、私はこうして生きていていいんだ、と錯覚させてくれるほどに。

 

誰からも必要とされないと思っていた私が、

いろんな人から必要だと言われるまでになったのだ。

1食の金すらケチっていた私が、

高級料理をご馳走していただけるほどに。

 

 

 

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「別に今だって私は、価値があるとか、人のために何かできてるとか、思える気にはなれない。」

 

けど。

 

こんなにも多くの人が、私にエールを送ってくれる。私の生き方が、好きだと言ってくれる。

それらまで否定するのは、謙遜ではなく、無礼であろう。

馬鹿だなぁ私は。日本一周の時だって、同じことを思ったはずだ。

この旅はもう、私一人の旅じゃない。

 

何も成し遂げられないかもしれない。意味はないかもしれない。

でも、皆が「良い」と言ってくれた道を進むこと自体に、意味があるのだ。

自分を信じられなくても。私を支えてくれた人々は信じられる。

そして、そんな人たちが信じてくれた自分を、信じたいと思う。

 

怖くても不安でも寂しくても、元より他に道はなかったのだ。ここであーだこーだ言って引き返したら、それこそ皆に顔向けできやしない。

 

面白いもんである。孤独に生きるからこそ、人が私を生かしてくれる。力をくれる。

あの光の中で暮らしていたら、知らなかっただろうな。

独り占めする満点の星も、朝焼けの水平線も。

人に背を押される暖かさも。

「勇気があるね」と言われる誇らしさも。

 

 

 

「だから人生、やめらんねえんだ。」

暗がりの中は怖いけど。その中でしか見つからない、宝物がある。

それを手に入れていく浪漫は、諦めきれない。それを追わずには死ねない。

 

小さな強がりかもしれないが、前を向く魔法には十分だ。

 

 

身を切る風を纏わせ、闇の中を突き進む未来を。

いま、決意した。

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