風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

灯台、下、暗し

1月9日


「いやーーなんて日でしょう。」

 

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ゴールドコースト内陸。山のほう。レミントン国立公園。

私は、雨雫を額に垂らしながらジャングルともいえる山の中をひた歩いていた。

「土砂崩れなんか起きて帰れなくなったら、洒落にならんですね。」

一緒に歩いているのは、QTホテルで知り合ったデューティーマネージャーのアキラ氏。日本人である。

 

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英語も堪能でなく孤立気味だった私を案じてくれてか気まぐれか、本日は彼の車でドライブに連れ出してもらったのだが。「いつも海ばかり見ているので、山も見たいです」と言い出した結果、山中で土砂降りに見舞われる始末。申し訳なく思う。

広大な公園を泥まみれになりながら往復。「雨になったら濡れるのが嫌だから」と靴下を脱いでサンダルで来た私の足の感覚は、入り込んだ砂利とヒルの感触でもう滅茶苦茶である。

合計4時間ほど歩き回り、駐車場に至る頃にはお互いの足はなかなかにエグいことになっていた。悪態をつきつつも、彼が歩くのが好きなタイプで良かった。

 

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「散々でしたけどー。なかなか良い写真も撮れましたし、良かったっすねぇ。」

疲れているだろうに下山の運転を任せつつ、本日を振り返る。私が少しばかりカメラを扱うからということで、新年の目標を述べる用の写真を撮ってほしい…というのが彼の要望だった。ジャングルの中を探検している様子が撮れて、ノルマを果たせたのは不幸中の幸い。

「して、今年の目標はどうするんですか。」

「んん、どうしようかなぁ。去年は、いろいろと悩むことはあったけど。デューティーマネージャーになって、苦戦しながらもやり遂げられて。我ながらよくやったなって褒めたい1年だったんですよね。」

中学の頃に親に連れられこちらへ来て以降、オーストラリアで暮らしてきた彼。今後は、一時日本で就労してみることも考えているそうだ。私とは逆になるわけである。

 

「シュンさんはどうでした? 去年は。」

「私はーー…そうですねぇ〜。」

アキラ氏より私は3年ほど先輩にあたるが、彼は3星ホテルのマネージャーにもなっているのに、私は一介のバーテンダー。いやバーテンダーとしての力量もまだまだだろう。英語だって堪能じゃない。

「あんまり自分を褒められないかもですね〜。」

「そうっすか? 慣れない環境に一人で飛び出してきて、0から生活整えて。すごいと思いますけどねぇ。」

「そう言っていただけると…あは。まぁ、もちろん胸を張れることはあります。ただ、もうちょっと上手くできたんじゃないかなぁって。」

こちらで仕事を得るのに結局は1ヶ月もかかってしまったし、英語学校に通ったにしてはごがくりょくが伸びているかも怪しい。それに関係なく私は人見知りなほうなので、交友も深められたかというと………今回も含め、何故か話しかけられるのが多いのは嬉しいのだが。

「運良くホテルで働けてますけど。私って多分ホテルで1番英語喋れないですよね。構ってもらってるのがほんと助かります。

 それにほら、私はワーホリですから。半年経ったら北に行かないとっていうのも不安ですね。」

ワーキングホリデーメーカーは、同一雇用主のもとで最大6ヶ月しか働けないという制限がある。ここで働いたのちは、北のローカルエリアに行って就労し、セカンドビザを取ることを目標としているが。

仕事を見つけるのに苦戦したトラウマを抱えている以上、不安で仕方がない。

「そーいうことができる人柄だから、みんな助けてくれるんですよ。ヤマゲンのスーパーバイザーも、”シュンスケがお気に入りだ”って言ってましたよ。」

「それはなんとも嬉しい言葉ですね。」

「”あいつはどんな時でも必ずシフトに入ってくれる”〜って。」

「いいように使われてるわけですな。」

ま、それでいいんだけれども。私は就労を目的に来たのだから、仕事が増えるぶんにはウィンウィンである。今まで一度も、休日の希望を出したことがない。

「ま、上手く行かなかったらまたこっちに戻ってきてもいいんですよ。シュンさんが自分の力で、手に入れたとこなんですから。」

「いやいや、運が良かっただけですよ。」

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

そう。就労に来たのだから。遊んでいる暇はないのだ…。

と言えば、熱心なワーカホリックとして聞こえはいいのだが。

実際のところは、遊び方がわからないだけ…。

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この状況を打開するために車を買った訳だが、まぁ調べてみれば期待どおりホイールベアリングやメーターなどなど、万全な状態ではなかった訳で。

安心して走り出せるようになるまで、修理を重ねている段階であり、結局はどこにも行けていない。

 

日曜の定休日に、手近なパシフィックフェアの博多屋ラーメンを食べて。なんとなく映画を観てリスニングの練習でもして。帰って日本のシジミンらと通話したりして、平凡すぎる感じ。自分の趣味のなさを呪いたい……。

 

ただ、翻訳なしで映画を観るというのはちょっぴり面白いものである。

3時間を超える『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』はもはや拷問でしかなかったが、単純なアクション映画などなら大体の筋はわかるし、今のセリフはどういう意味だろうか、と演者の表情や状況から推察するのが良い。そして観終わった後に、ネットで軽く調べて答え合わせをするのだ。

今見ている映画は、エンツォ・フェラーリ氏の半生を描いた『フェラーリ』。

あらすじや演出などから、恐らくエンツォ氏の葛藤しながらも前進していく格好良い生き様を描いているのだろうが………。これがまた、何言ってるか全くわからないと面白い。

行動だけ見ていると、氏がダメ人間に見えてしょうがないのだ。奥さんのラウラさんそっちのけで愛人を作り、その子供までこさえて、妻には融資するよう頼む面の厚さ……。

セリフがわかれば、様々なやんごとなき理由があってそんな行為に及んだのだ、と同情、納得できるのかもしれないが。なるほど英語がわからないと、人の行動だけで物語を読み解けるから面白い。

 

言葉というのは、やはりその人の印象を即座に決定づけるほどの。圧倒的な力があるんだなぁ。仮にもライターとしてそんなことに改めて気づけて、良かったと思う。

「………他から見たら、私はどう見えてるんだろな…。」

私は英語をあまり話せないから。例えば周りの職場仲間からすれば、まさに今の状況なのではないか、とふと考える。私の行動だけで、私はどう思われてるんだろうか……。

いや、異言語話者の立場ではないとしても。日本の家族や、友人や、旅の中で出会った人たちすべて。

私の今までの行為を見て、どう思うんだろうか。

「…………ちゃらんぽらんに思われても、しょうがないよなぁ。」

 

…まぁ、日本一周なんてしていた頃から、こう思われるのは慣れているからいいけども。

さすがに何かしら実績というか胸を張れる歴史を作らないと、顔向けできなくなってきたなぁ。

 

 

~~

 

そんな胸をチクチクと苛む焦燥も無視できないが、刻々と過ぎていく時間も問題である。直面の問題は、”どうやってセカンドビザをとるか”。

せっかく賃金の良いオーストラリアへ来たのだから、できるならもっと稼ぎたい。2年目も居たいところだ。

セカンドワーホリビザの要件は、政府の指定するエリア…言ってしまえば人手の不足しがちな田舎の地域で、一定期間定められた職業に従事すること。ファームがその代表的な例で、フェイスブックなどではひっきりなしに「ファーム探しています」の投稿が見られる。

 

ファームも楽しそうではあるのだが、慣れているバーテンダー…いわゆるホスピタリティ業で働きたい。幸い、北部をはじめとする一部の地域ではホスピタリティ業でもセカンドを認めているらしいので、そこに狙いを定めてみる。

はじめはオーストラリア極北の街、ダーウィンに行ってみたいと思ったのだが…。

「暑いからやめときな」

「ハエが好きなら…」

「そこらじゅうにワニがいるよ」

と誰に話しても反対されてしまう。

もちろん、反論されて行きたくなくなる私ではない。むしろもっと気になってしまう訳だが、現実的な問題として、ゴールドコーストからダーウィンまで約3,000km。絶賛補修中のエクストレイルで、安心して走破できるだろうか。ということも考えてみると。自重したほうが良さそうであった。

 

代わりにケアンズをやたら勧められたが、ケアンズはワーホリで人気の地。ライバルが多そうだし、なんか有名なところでヤダ。

いろいろと考えた挙句、ケアンズの一つ南の大きな街、タウンズビルに行くことにした。

バーテンダーでセカンドを取れるのはもちろん、かなり難しいであろうがDAMAなる特別制度で、スポンサービザも取れるかもしれないのがデカい。

 

セカンドを取るためには、88日間の就労が必要。最低でも4ヶ月は見積もりたい。(ロケットを車検に出すため)一度日本に帰ることも考えると……。6ヶ月制限にはひと月早いが、3月のはじめごろにヤマゲンから退くことにした。

 

~~

 

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Shunsuke,I’ll miss you.

自分で言うのも変な話ではあるのだが、私は職場では重宝されているほうだった。少なくとも、ほぼ全ての営業日のバーテンダーを任せられるぐらいには。

 

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シフトより1時間早く働き始めて、品質管理や在庫確認などバーの準備、全てのシェフにコーヒーを淹れてやったりなど。日本人特有の社畜気質が、良くも悪くも認められたのだろう。

さらにとりわけ、周りの日本人から引かれるほど私は異常だったのだと思う。ただ仕方ないのだ。今までの人生で、ブラック企業以外に勤めたことがないのだから。

日本のバーテンダー時代と比べてみろ。週612時間労働、薄給、長期休みなし、調理とバーテンディングと接客全てを同時に対応、なんて時代と比べたら、今は半分ほどの労力しか使っていないのである。

それなのに「1番の働き者だ」と言われるのだから、どうも気恥ずかしい。

 

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兎にも角にも、私と他のスタッフは良好な仲だった訳で。そういった方々との別れが近づくのは、辛くない訳がない。

日本人としての働き方で支えてきた以上に、彼らだってカクテルやワインの技術などなど、こちらの世界について教えてくれたのだから。

緊張せずに接する関係だからこそ、英語も聞き取りやすかったし。カウンター越しにお客様にいろいろ尋ねられた時は、何度も助けていただいた。

 

 

「日本人の方? はるばる働きに来たの?」

「ええ、ワーホリで来てます。」

「これからいろんなところもトラベルするの?」

「トラベル……えっと、日本は全部回りました!」

「オーストラリアでいろいろ旅するのかい?って聞いてらっしゃるよ。」

「あ、なるほど。」

カウンターの老夫婦からの質問に四苦八苦してる私を、脇の先輩スタッフがフォローしてくれる。

「はい、これから北の方に行きたいと思います。」

「友達と一緒に?」

「いえ、一人で。私はいつも、一人で旅をします。」

Oh…that’s a brave.

「いえいえそんな、勇気があるなんてもんじゃ。」

 

勇気があるね、ですか。なんだかそんなこと、日本一周してる時も言われたなぁ。

でも私はそんな大したものじゃない。一人旅には、確かにそれなりの覚悟が必要かもしれないが。

勇者に比べ、私はあまりにも非生産的である。魔王を倒すわけでもなく、ただただ歩き続けるだけ。勇気があるというより、逃げてるだけだ。

 

 

 

〜〜

 2月28日

 

「いや〜メーター付け替えたんですけど、今度はO2センサーが不調みたいで。」

「はは…直すたびに新発見がありますね、この車は。」

日本人のメカニックから、渋々とエクストレイルを受け取る。おいおいこれじゃあ、車を買わんほうがよかったんじゃあ……。

 

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悩みというか、ここ数日は胸中がどうにもモヤつく。

車も問題なくなってきたし、ちょっくらドライブに行ってみるか。

 

 

ゴールドコーストから、高速で約1時間。周りから行った方がいいと勧められた、バイロンベイへ。

車の走行状態は、幸いにして良好だった。

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「てっきり、自然豊かなただの田舎町だと思ったけど…けっこう店があるな。」

店があるといっても、パシフィックフェアのように大規模なショッピングセンターがある訳ではない。小ぶりな店がいくつも連なる、のんびりとした田舎然を忘れない、ちょうど良い賑わい。

エクストレイルに鞭を打ち、急坂を駆け上がり灯台を目指す。

 

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「おお、これは見た方が良い訳だわ。」

三日月を伸ばしたように緩やかに続く砂浜と、緑と青のスカイライン。

…どことなく、日本の犬吠埼を思い出す風景である。

 

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灯台があるのも犬吠埼らしい。

このケープバイロンライトハウスは、1901年開設。当時の海岸線の中では最も高い光度を持ち、1873年から数えられるだけで400件以上あった難破事件を、大幅に軽減したのだという。

 

 

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散歩を続けていると、どん詰まり。…どことなく、良い感じ。

看板には…

「……ほう。」

グーグルマップで確認する。…なるほどなるほど。日本で一番早く日の出が見られるという地、犬吠埼を感じさせる訳である。

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ここは、オーストラリア本土の最東端の地であったのだ。

「どうりで………なんとなく、良い気分になれる訳だよ。」

最果ての地。日本旅をしている時から、不思議と惹きつけられる地。

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久しぶりにやったな、このポーズ。

別に端っこに来たから、何か意味がある訳でもない。でも、行かなくちゃいけないと思ってしまう、この本能に似た何か。

「…非生産的でも、勇者でなくとも。旅人であることは、変わりないのかもなぁ。」

この意味のない渇望の先で、意味ある何かは見つけられるのだろうか。

今はただ、心が満足するから良しとするか。と、また問題を先送りにする私であった。

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