昏がり
9月16日
久々に筆をとる。
…というのも、ここのところ何かを書ける心境だったとは到底いえなかったのだ……。
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9月9日
土曜日
マッヂ氏の誕生日会。
Southportより南、Robinaという地区にある、屋内席からテラス席まで大量の席がある、日本語でなんといっていいのかわからんレストランに招待された。グーグルマップ的にはパブらしい。
ハウスメイトのコロンビア人ディエゴと、その妹のレイディ。マッヂ氏の母にガールフレンド、親友か親族かわからん男性とその家族と共に、ピザやらポテトやら、フレンチシェフ作成のスペシャルケーキやらをたらふく頂く。
大人は大人同士で楽しくやらせて、私やディエゴは親友か親族かわからん男性の子どもたちと話す。12歳と15歳の男の子と、16歳の女の子だ(多分)。
子どもとはいえやはりネイティブ。スチュデント相手に始めは緊張こそしたが、ビールをかっ食ったらスルスル英語を繰り出せた。
日本人だと話すと、12歳の子はワンピースとか、ジョジョとか、日本の漫画とか、ゲームのことを話してくれる。
ありがとう、日本。
我等の文化は話題の種に困らないよ…。
「Tokyoにはゴジラがいるんでしょ!?」とか。あー歌舞伎町のことねー。
「夜の歌舞伎町には行かない方がいいぜ。」と言っとく。
せっかくのグローバルな場だから、言語の話題とか。
ディエゴらコロンビア人の公用語は、スペイン語。南アメリカは基本スペイン語らしい。ブラジルを除いては。
ブラジルはポルトガル語。これは、占領した国がスペインだったかポルトガルだったかによる歴史から。このあたりもカシャッサ講座で聞いた内容だ。
「シュンは日本語と英語以外に、何か話せる?」
「んーーそうね…。
Здравствуйте!
Меня зовут Шунсуке.
Приятно познакомиться.」
得意げに、僅かばかり知ってるロシア語を話してみる。
女の子には今ロシア人の友達がいるらしくて、図らずもウケた。多少なりとも勉強しとけば、変なとこで役に立つのだな…。
ロシアに行きたいという夢は、まだ潰えていない。こちらの生活になれたら、またオンラインレッスンを再開したいところだ。
快晴の日差しで目が疲れ、サングラスの重要性を痛感したあたりで、解散。
短い間だったが親しく話したディエゴは、その日がホームステイラスト。私と同じ英語学校の近くで、シェアハウスを始めるらしい。
あっち流の挨拶、シェイクハンドをがっちりとして、互いの幸運を願った。
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9月10日
日曜日である。
昨日はなんだか疲れてほぼほぼ寝てしまったので、今日は仕事探しを徹底的にしたい。
サーファーズパラダイスの街を縦断して、レジュメを配ってみよう。
バーが空いているアフタヌーンを狙って、初めてのバスに乗り込む。
オーストラリアのバスは初めて。「次降ります」のボタンが何故か私の席にはなくて、焦った。
サーファーズとメインビーチ地区の際より、浜沿いのEsplanade(エスプラネード通り)を南下しつつ、バーを探す。
一軒目は、観光客向けといった大規模なレストラン。いただいたのは日本のメロンリキュール、Midori。
実は私がマッヂ氏の誕生日祝いにプレゼントした(ボトルで5千円もした)ものだが、くちにつけてはいなかったのよね。インプレッションはネトっとしたメロンジュースってかんじ。
オーストラリアの飲食店は、テーブルにQRコードが設置されており、それを読み込んでオーダーするシステムが多い。日本でも増えてきたけど、しちめんどくさくて嫌なんだよね。
しかし考え方を変えれば、英語でオーダーしなくてもいいし、いちいちカウンターでドリンクを一杯もらうたびに、カードタッチする必要もない。慣れれば便利なものだろう。
そう、慣れればだ。
私はここで初めてそれにトライした結果、私のデビットカードを上手く使えず断念。カウンターで注文することになった。
(様々なネットサービスで見かけるようになった二段階認証を、日本の携帯電話番号でのSMS承認方式にしていたのが原因。オーストラリアでは電話番号が変わるのだ。私も気を付けてはいたのだが、デビットカードは設定し忘れていた)
カウンターの男性、英語がマジで速すぎて全然聞き取れない。
顔見てくれ、顔。どーみたって外人だろう。もうちょっと手加減してくれ。
なんかイマイチなホスピタリティだったので、レジュメは配らず外へ。
二件め。
弾き語りしてる女性が居た、カフェバー。
ピニャコラーダを頼んでみる。個人的には入れる材料が多いのと、フローズンスタイルにすること、生クリームをよく練るシェイクにコツがいる、という面倒なカクテルなのだが、ここではフローズンマシーンに入っている液体を、直でグラスに入れる量産作戦だった。
量産だけどふつうにウマい。
日曜だからか少し忙しそうで、その割にはバーテンダーが一人しかいないので、レジュメを配ってみて退店。
一番賑わっている中心地Cavill(キャビル)Avenueまで来ると、夜に開店するのであろうナイトクラブなどもチラホラ。
そういうところでもレジュメを配ってみようか? なら、開店まで何しようか。
そういえば、私をオーストラリアに誘った某知人が、「私の家があるBroad Beach(ブロードビーチ)にも行ってみれば」と言っていたな。
行ってみよう。
初トラム。
駅にある端末にGoカードをタッチして乗車、降車時も駅でタッチ…という方式なのだが、日本の鉄道駅とは違って改札じゃないので、タッチせず無賃乗車してる人がチラホラ見られる。
トラムの終点。サーファーズの南、Broad Beach South。
サーファーズほど賑やかではないが、河川の中の小島まるまる一つがリゾート施設のスターホテルをはじめ、ホテルやマンションといった高層ビルが多い。
日が暮れてくる。
バーが忙しくなると、レジュメを見てもらえない。急がなくては。
日本の場合、日曜の夜はあまり混まないが。こちらはどうなんだろう。
“テキーラ! マルガリータ!”
と大々的に書かれていた、バー。吸い寄せられた。
もちろん頼んだのはマルガリータ。
マルガリータは、少しばかり思い入れがある。
日本でのバーテンダー時代。一人営業していた時、上品そうなおばさまに注文されて作った一杯だ。お褒め頂いて、後日、葉書でのファンレターを受け取った、なんてことがあった。
さすがテキーラの店。上手い。パトロンは飲んだことがなかったけど、バランスがいいなあ。
スルスルと呑んで、レジュメを受け取っていただいて次へ。
多くの店が軒先に並ぶ、Surf Parade(サーフパレード)を歩く。
賑やかなレストランが多い。ここの人々にとってはこれぐらいのノイズが普通なのだろうが、日本人にとってはナイトクラブのようで、足が渋る。
美味しそうなステーキハウスもあったり。もちろんステーキを食べる余裕はないが、中にバーカウンターが見えるので、店頭のメニューを見てみる。…が、オーストラリアの店頭には、基本食事のメニューしか載せないところも多いようだ。
立ち止まってたらお店のスタッフたちが首を長くして見てくるので、そそくさと退散。
ほかにもバーカウンターは見当たるが、どうにも敷居が高そうな派手な装飾が多い。
通りから出て、トラムの通るGold Coast Hwy(ゴールドコーストハイウェイ)沿いへ。ハイウェイ沿いだが、こちらの方が静か。
おもしろい感じのとこ発見。
中はカウンター10、テーブル5席ほどの規模で、暗く、装飾は赤いLEDで統一。弾き語りしているギタリストが、BGMを奏でている。
若者に人気そうな、エネルギッシュなバー。ベリー系のオリジナルカクテルをいただき、レジュメを渡す。
何杯飲んだんだろう…?
そこまで強いお酒を頼んでいないし、気が張っているから、足元は確か。
しかしほろ酔いなのも確かである。少し距離はあるが、ここからサーファーズまで酔い覚ましに歩こうかな。
ブロードビーチとサーファーズの間は、住宅地しかないようだ。
まだ19時前だというのにひとっこ一人歩いていない。
「なんだ、オーストラリアも大したことないな…。」
海外海外、素敵な海外と宣伝したって、結局どこにだってこういうとこはあるのだ。北海道とか、沖縄に行ったときといっしょ。
…まぁ、その大したことない街で、仕事一つも手に入れられない私なのだが…。
サーファーズについて、例のナイトクラブとかがあるエリアへ。
ビリヤードバーを見つけたので、「呑むだけだけどいい?」とエントリー。
果実系リキュールベースの甘い一杯を頂く。レジュメを配る。
ナイトクラブ…には行かなかったけれど、似たような雰囲気のバーへ。キラキラのスーツを着たスキンヘッドの黒人女性シンガーが、歌って踊って場を盛り上げている。
バーテンダーたちも、リズムに合わせていろいろなフレアを。カッコいいなあ。
隣に居た常連と思われる老人に、たらふくジャックダニエルを飲まされて。レジュメを渡して、、、、、ああ、もう撤退だ。
トラムに乗って、サウスポートへ戻る。
「もう22時か…。」
川の向こうには、豪邸たち。どうにも、「くそっ」と漏らしてしまう。
トラムは夜遅くまで運航していて助かる。が、やはり飲んだくれも多いのだろうか。セキュリティーが乗車してきて、無賃乗車がないかチェックしていた。
Broadwater Parklands(ブロードウォーターパークランズ)駅の前には、初日に初めてレジュメを渡したバー。以降、ネットでの求人も見かけたので応募したが、音沙汰無し。
初日に歩いた、メロンストリートを歩く。
「昏い………。」
昼間とは違う顔。
光はある筈だが、暖かみを感じない。
何も見えない。恐ろしい。
ネットでも異常なほど求人に応募しているのだが、文字通り全く、返信がない。
オーストラリアの人々が、こういったことにどの程度のスピードで接するのか、わからないから、仕方ないのだが。
そりゃ普通、英語もままならない人間を、いきなり雇えるかといわれれば、答えなどわかりきってるから、仕方ないのだが。
あまりにもこれは、焦る。
働かなけりゃ、生きていけないのももちろんだが。
日本で退職してからというものの、働いてなさすぎる。社畜というわけではないが、何か労働をしていないと、生きている心地がしない。どうにも、劣等感を感じ、周りの全てに負い目がある気がしてしまう。
それから、毎日、暇を見てはスマホをいじり、求人情報を漁りまくり。
狂ったように、数分に一度はメールボックスを更新していた。
返事を貰えていそうでも、それを日本のスマホで確認できなかったり。
焦燥感と、孤独感と、歯がゆさと、虚しさ。
やつれて、何を思ったのか干からびたような住宅地を探検してみたり。
「山が見える……。収入を得たら行ってみたい………。」
クラスメイトに「トラム沿いはダメっぽい」と聞いたら、藁にもすがる思いでブロードビーチよりさらに南、トラムの届かぬマーメイドビーチまで行ったり。
良いバーはあるが、やはり返事はない。
トラム代わりにバスで帰れば、荒っぽい運転、住宅地を縫うロングルートに、酒も相まって吐きそうになったり。
宛てもなく公園を歩いていたら、中学生ぐらいの女の子に「そこでケガして、飛べない鳥がいるんだけど…。」
なんて頼まれたり。
「動物病院は…遠いね。どうしようか………。」
どうかしてほしいのはこっちの方である。
「友達に聞いてみるよ! ありがと日本の人!」
大の大人が何もできない。鳥一羽助けられないとは。
「わかっちゃいたが…わかっちゃいたが………。」
新天地。異国の地。ゼロから始めねばならない。何もかも。
私は、赤子同然だ。何もできない。
必要とされんのか、どうあがいても、ここでは。
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