よお兄弟
前回より
鍵のかけ方などをマッヂ氏より教えていただいて、外出。午前10時。陽は上がってきて暖かくなってきたが、せっかくの初日だし羽織をまとって出かけてみた。
ひとまず、私が通うことになる語学学校”Imagine Education”まで。
State road3。フェリーロードは、爽快に走れそうな片側3車線。State road…つまり州道とは、日本でいうところの国道の規模なのだろうか。
歩行者信号はボタン式で、走らにゃ間に合わんほど赤になるのが早い。
レクサスディーラーの敷地に、クチバシの長いまるっとした鳥がいる。すげーな海外のレクサス。
ホームステイのお庭にも見たことない鳥が来ていて、マッヂ氏が名前を教えてくれたが上手く聞き取れなかった…。
気になる英語を見つけては、グーグルレンズで即翻訳してもらう。ゴミ人間て。
そうそう、今年からついに、二つ折りガラホから二つ折りスマホに替えました。
レンズを向けるだけで、わからん英語がわかる。便利な時代だねぇ。
10分ほど歩いて、ベノワ通りの学校に到着。けっこう近い。
やはり実際歩いてみると、こう…微妙な風景はあるんだよね。万国共通だ。
学校の向かいに複合型のショッピングモールがあるので、見物してみる。
モールの中の1店舗。ウールワース。以前、ここでバイトしてるって外国人とチャットした気がする。どこにでもあるスーパーなんだとか。
さて、物価が高いと話題のオーストラリア。無論、食費も節約せねば。
今回の貧乏飯は何にしようか…と、思いついたのがパン。外国に来たのだから、納豆飯ではなくサンドイッチでも挑戦しようかな。
「に、にひゃくななじゅうドル…!? ロープライスで…!?」
1ドルは約95円(執筆時点)。だいたい1ドル100円と考えると、とんでもない額である…。
と戦慄したが、オーストラリアに誘ってくれた某御仁に聞いたところ、大きい数字はドル、小さい数字はセントを表すんだとか。つまり、2ドル70セント。
以前、ドイツ社の留学保険の支払いをした際、”ユーロはカンマとピリオドが日本と逆”と覚えていて。それをドルにも当てはめようとしてしまったから、余計に混乱した。
他にも”Any 2 for $6.30”と書かれていれば、”どれでも2つ一緒に買うなら、$6.30だよ”というセット料金表記とか、電池とか売ってることを確認して調査終了。着物の日本人が、スマホ片手にウールワース。怪しい光景である。
ちなみに、盗難防止のためか入り口は一方通行。何も買わなくてもレジをスルーして出る必要があり、なんだか気を揉んだ。
ついでにリカーショップも見てみたり。オーストラリアはワインが有名。種類はもちろん、品種ごとに陳列されていた。
ちなみにゴールドコースト空港に着いて最初に出迎えてくれたのは、カルーアでした。
~~
いったん家に帰宅したが、することもないので「I walk around again」と再び外へ。今度は海を目指してみるのだ。
メロンストリートを通って、Sundale Bridgeへ。
こんな住宅地なのに道は広く、当たり前のように路上駐車が並んでいる。
ちなみにバスはどうなのか。スマホで調べてみると、
遅延25分。うん、さすが海外だ。
緑とビルが協調する街。
トラムの駅で、日本におけるSuica的なのが買えるらしい。帰りに寄ってみよう。
Sundale Bridgeが見えてきたあたりで、一軒なんとなく惹かれるバーを発見。
「いや、酔っぱらうなら帰りに…でもなぁ…今の時間だと空いてるし…。」
お客さんが少ない、というのは、何も落ち着いて呑みたい。というだけではない。
私これでも、一応日本のバーテンダー。この地でもその仕事ができたらばと思い、ワーホリに来ている身なのだ。
気になるところがあったら、積極的にレジュメ(履歴書)を配って行かないと明日がない。
意を決して、『Bar11』さんにお邪魔した。
グレンフィディック、ジャックダニエル、ゴードン…。馴染みあるボトルを見ると、なんだかホッとする。酒は万国共通だからすばらしい。
モヒートと悩んだけれど、せっかくだからオリジナルを注文。
“Tokyo Bonsai”。キューカンバージンなるものをベースにした、ショートカクテルだ。サクランボとキュウリが、日本らしさと盆栽の緑を表現しているのだろうか。
すっきりとしたライム感が抜ける、爽快感のある味。ジンの辛味はあまりなくて、私の大好きな度数低め。海外というとどうしても強めなカクテルばかりイメージしてしまうから、安心した。
カクテルは26ドル、付け合わせのポテトは7ドル。もちろん安い値段ではないが、このぐらいの設定なら日本にもある。職探しのためと考えれば、妥当だろう。
カウンターに印刷しておいたレジュメを用意し、さていつ渡そうか。誰がマネージャーだろうか、とそわそわしていると
「Hey are you from Japan?」
後ろのテーブル席に座っていた黒人の男性が、声をかけてくれた。
「あぁ…イェス、イェス。」
拙く答えると、”マジかよ、イケてる着物着てるな! ちょっとこっち来て、一緒に呑もうぜ! ヘイ、ジュディ! この人にビール一杯!”
…という感じで、同席させてもらうことになった。
※わかりきっていただけてると思うが、私の英語力はまだまだ。以下は意訳である。
Thank you,thank you.と、とりあえず間違いない英語でひたすらご馳走にあやかる。
「気にするな、俺も一度、日本に行ってみたいんだよ。日本の友達欲しかったんだー。
東京に行ったら、逆に歓迎してくれればいい!フィフティーフィフティーだ、バンザイ!」
バンザイという新しい掛け声で、乾杯する。海外で初めての酒を呑んだと思ったら、初めての乾杯。すごい展開だ。
日本から出て、初めての初日なんだと伝えると、「うわーマジかよ、感動! 今日は君はゲストだ!」と、何度もグラスをぶつけてくる。
ルーラマと名乗るこの男性、アフリカから来た人らしい。で、本当に日本にも行きたいらしく、フジヤマとか、ニンジャとか、刀とか、ポケモンとか遊戯王とか、いろいろと馴染みのある単語を連発してくれた。
私の身の上話をするのに便利だと、ルーラマにもレジュメを渡してみる。と、
「おまえは…、バーテンダーで、編集者で、トラックドライバーで、ガードマン!? その実、着物を着て刀を使えるって!? マジかよ、ニンジャじゃん! シュン、君はニンジャだ!!」
と大ウケ。ああ。この地でも私はサムライじゃなくてニンジャ扱いなんですね…。
海外の人特有の、屈託ないあの笑い声をずっとあげるものだから、なんだかこちらも笑えて来て、二人して昼下がりのバーではしゃいでしまう。
と、一人、また一人とルーラマ同様、バーの常連がやって来て…。
なんだこの状況。
インドから来た男性、ニュージーランド出身の女性を交え、会話は盛り上がり続ける。
正直、ほとんど何を言っているか聞き取れなかったが、都度彼らはグーグル翻訳を使って、私に聞きたいこと、言いたいことを伝えてくれる。
そのお陰もあるし、言葉は通じずとも、その場の雰囲気というものは肌で感じられるもの。笑うべきところで笑い、驚くべきところで驚き。不思議と、私も同調して心地良い空間に浸れた。
ビールを三杯もご馳走してもらって、”実はお酒に弱いんだ”と伝えると、今度はジンジャーエールをいただく。ルーラマが、「お酒の無理強いは、俺らの文化では失礼なことだ。シュン、疲れてるなら帰ってもいいぜ。」と言ってくれる。
時刻は18時すぎ。”何時に帰ってきてもいいよ”とマッヂ氏は言ってくれたが、流石に初日だ(初日でこの騒ぎになるとは予想できないが)。心配をかけたくないから、そろそろ帰るよと伝える。
「それは良いことだ。まず、大事なのは家族!
シュン、お前はもう俺のブラザーだ。住むとことか、困ったことがあればいつでも教えてくれ!」
ルーラマが両腕を広げるので、私もそうして、ガッチリとハグする。あ、これ海外ドラマでよく見るやつ~!
他の二人とも握手をしていただいて、手を振られながらその場を後にする。
…いや、海も見れなかったし、初日から酔っぱらってしまったが。結果としては、あのバーに入ってよかった。あ、ちゃんとレジュメもお渡してきましたよ。
異国に来て1日め。私に兄弟ができましたとさ。