未知の南方大陸
前に。
ここに来たのはいつだったか。
あの時は海を渡る飛行機に想いを馳せて、今ではない。と歯がゆい思いをしていたが。
気づけば、今。飛び立つべき日に辿り着いてしまった。
9月1日
成田空港
16世紀、オーストラリアは”未知の南の大陸”と記されていた。
荒い海に囲まれ、当時の上陸は困難。最初に到達したヨーロッパ人には、”交易に値する品なし”と評され、アメリカ独立後は、イギリス人の流刑地として扱われた大陸。
以降、ブラックウォーやらゴールドラッシュがあり、なんやかんやあって発展を遂げたオーストラリア。今や住みたい国ランキング上位にも入るという、目覚ましい成長ぶりである。
…と、白紙に書いたところで、ピンとくるものではないだろう。
先人方がどんなに目覚ましい活躍をしても、輝かしい偉業を立てても、新たな発見や発明をしても。それらを私が見たわけじゃなければ、私にとっては未知のもの。
指先を動かして情報を得ることはできるが、頭で理解しているだけじゃあつまらないのは、前の旅でわかっていることだ。
百聞は一見に、一見は一触に如かず。この身と心を以て、味わうからこそ面白い。
オーストラリア。未だに私にとっては、未知の南方大陸だ。
荷物を預け、搭乗ゲートへ入り、バスに乗って機体へ。
いくら心臓をバクバクさせようが、もう後戻りはできない。だったらもう、腹を括るしかないのだ。
覚悟を決めたら、あとは楽しむだけである。
さぁ、私の大航海を始めようか。
風来記 ~Terra
Australis Incognita~
「眠い…。」
LCCの8時間。寝られたような寝られなかったような…。
翼に反射した光に起こされ、着陸準備へ。曇り予報だという雲海を抜けると、眼下に大陸が見えてくる。
あの塊の中にある、一つ一つの建物は、みんな外国の言葉が書かれていて。走っている車たちは、ほとんど外車で。そして、それらの中で動いている人影は、みんな外国人で。
テレビで見たあの光景に、今、手が届く。二次元が三次元になる瞬間まで、あと数分。
3,2,1………。
2023年9月2日
木村峻佑、初の外国上陸。
「空港撃破!」
緊張の入国審査、手荷物検査を終え、ターミナルに出る。
ガラス越しに見える異国の景色。
「なんて爽快なことだろう…!」
オーストラリアは今、夏に移り変わるころだろうか。
朝ということもあり、僅かに肌寒い風が歓迎する。澄んだ、深呼吸したくなる景色。日本のどこか、田舎で味わったような気がするが、多分どこのものとも違う。
荷物を整理して、送迎バスの待ち合わせ場所へ。
腰によりかかる、バックパックの重みが懐かしい。前回より4キロほど重量増だが、耐えてくれるだろう。奈良で壊れた、サイドリリースバックルも交換済みだ。
それから今回は、私をオーストラリアに誘ってくれたある方の推薦で、居合刀も持ち込むことに。税関では冷や冷やしたが、製造元に英語の証明書を作ってもらったこともあり、無事スルー。有難う肥後虎さん。
今回は野宿旅ではなく、きちんと居を構えて転々とするワーキングホリデー旅。
名残惜しいがテントとシュラフはお留守番させ、パッキングを占めるのは衣類や仕事道具など。
“Where is the
transit center?”
と海外初めての質問をインフォメーションセンターに投げかけ、自信をつけて集合場所へ。
辿り着いて所定の電話をかけてみると、何言われてるか全くわからず自信喪失。
どうしたものかとさまよっていたら、予約していた会社のバスが来たのでそれに乗ってみた。
予約客たちの乗り合いのため、いろいろなところを回ってくれるからおもしろい。
英語だらけの看板、初めて見る草木、海外のバイク乗り、デカいビル、橋、河川…。
すべてが新鮮で、窓から目が離せない。首が痛くなる。
M1と表記されたハイウェイらしき道を通り、サーファーズパラダイスの街を回って、海岸線を流した後は、私のホームステイ先があるサウスポートだ。
どんなホストかとびくびくしていたが、バスが到着すると同時に家から出迎えてくれ、笑顔で握手。
Mr.マッヂ、良い人だ(確信)。
「お腹空いてない?」と、優しく声をかけてくれた。
さーて、飛行機のおかげで眠いし足も痛いが、ここでじっとしていられるほど私は大人じゃない。
これをいただいたら、散歩に出てみますか。
つづく