とある元レーサーの笑顔
3月13日
「バイクということなら、この先にセーナーニってレストランがありますよ。なんでもオーナーは、元レーサーだったんですって。」
乗馬クラブで働いていた娘さんに、このようなことを聞かされてしまっては。
食べに行くしかあるまい。多少高くても…!
という訳で、たどり着いたレストラン『セーナーニ』。
戸を開けると、少し驚く。
黒人の男性がカウンターに立っていた。あれ、元レーサーのオーナーって外人さんだったの?
「バイクで来ましたか? その恰好で? 私も昔、刀持って走ってたよ。伊達政宗―!って。」
ギャグ…なのか本気なのかわからない会話をしつつ、席に座る。
「あの、オーナーさんは元レーサーって聞いたんですけど…」
「そうです! ホンダのレーサーだった。優勝したこともあるんですよー。」
カタコトの軽い口調で、すごいことを話してくる。
実際、その証拠にお店の一角にはNSRが飾られていた。
新築かと思うキレイさだが、築5年は建っているとのこと。よく音楽イベントなどもやったりするらしい。
「うわ、久々に肉っていう肉を食った気がする!」
よく肉と肉汁が詰まり、外はカリッと焼けたハンバーグ。この旅では縁のなかったフライドポテトも付いてきて、贅沢だった。値段も…もちろん贅沢だ。
右がオーナーのサマン・A・ペレラさん。左は、話が盛り上がったノリのいい山武市在住のお客さん。
サマンさんは、アメリカはインディアナ州生まれ。インディアナは何もないところらしいがサーキットがあるらしく、レースが盛んだったそうだ。
そこでカートレースに出ていたところ、ホンダにスカウト。バイクレーサーの道を歩んだらしい。
「でも、レーサーは一生やっていけないでしょ。ケガしたら終わりだし。だから、何か手に職を…って思ったときに、ホテルを転々としてたから、ホテルで働くことにしたの。どこのホテルでも働けるように、コックとしてね。」
それが、今レストランをやっている理由だそうだ。日本に開店したのは、ホンダに居たからだそう。
「来週にはゲストハウスとしてのサービスも始めるんだけど、従業員さんがいなくて困ってるんです。先週も募集かけたけど、70歳超えのおじいちゃんで…。」
なんと残念な。私が旅の途中でなかったら、働いてもよかったのに。
そう思うぐらい雰囲気があって、キレイで面白そうな場だ。どなたか、ぜひここで働いてみませんか!
女性のお客さんに「じゃあ、ゲストハウス出来ないじゃないですか。」と言われたが、「でもやるしかないじゃん」と答えるサマンさん。
そうだ。宿泊用の建物まで作ってしまった以上、やるしかないのだ。
…私の旅も、そう。やるしかないのだ。
と先行きは不安なようだが、「お一人様はね、立って食べるルールですよ!」「新聞読むのは、1,000円ですよ!」なんて具合に終始ジョークを飛ばすサマンさん。
別れ際に、こう語ってくれた。
「こんな暗い世界だからこそさ、明るく笑って過ごさないとね。笑ってれば、前に進めるでしょ。」
笑えば上手くいく根拠なんて、ない。だが、不思議とそういうもんだと思わせてくれるほど、笑顔がステキな人がいる。彼が、それだ。
別れたあとの『九十九里ビーチライン』。私は終始、ひきつった笑顔で。歌を大声で歌いながら、走り続けた。