風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

終わる365日

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鎌倉から、今度は海沿いに西を目指す。

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何故ゴールと逆方向に進むのか。それは、先に進む前にどうしても寄りたい場所があるからである。

 

 

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車にバイクにと行き交う湘南を抜け、西湘バイパスへと入る。

少しばかり金は取られるが、海を眼前に臨みながら風の音を聴ける快走路。

ここは、道志と同じくらい私のお気に入りだった道である。

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その中間には道の駅があるのだが…。なんだ、また高波にでもやられたのか?

…まさか失くなったりはしないだろうな…。

ちょっと見ない間に変わった状況に戸惑いつつ、バイパスの南詰まで走り国道135号に合流する。

 

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この道も綺麗なんだが、いかんせん混むんだよなぁ。

ちょいと脇へバイクを寄せて、小休止。

「やれやれ、何をそんなに急いでいるのやら。」

何度か伸びをして身体をほぐしてから、もう少しと再びハンドルを握る。

 

真鶴駅の前で左折して、細い商店街の道を通って。

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こじんまりとした漁港を抜ければ、自然公園に入り。

 

 

 

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さぁ、ここである。

 

「なつかしーーなぁ!」

旅に出る前、本当に野宿できるのかと伊豆まで実験ツーリングした時、ここで写真撮ったっけ。

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あの頃と比べると…、あれ。むしろちょっと大人しさがなくなってるか…?

そうだよなぁ。あれからちょうど、12月に会社を辞めて。ハローワークに通いつめたり、旗振りのバイトとかしたんだよなぁ。そんですぐ旅に出たんだもの、形相も変わるわ。

 

旅が始まったのは3月だったけど。そういう意味では、1年経った…ってことなんだろうか。

 

 

 

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そのまま一方通行の樹林を抜けていけば、

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お目当ての場所へ到着である。

「なんか…変なオブジェができてんなぁ…。イルミ用か?」

 

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「なるほど。切り倒した木のところにも、このオブジェを置いたのね…。」

真鶴岬。

伊豆半島の右にちょこんと突き出ている、小さな半島の先っちょ。

まだ神奈川に引っ越して間もなかったころ、江の島や道志、箱根に次いでツーリングに来てみた場所で、他にはない私のお気に入りスポットがある場所である。

 

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真鶴岬には、かつて江戸時代に外国船打ち払いのための砲台が……

いや、止めよう。今回ばかりは、歴史の事実とかなしに個人的な感傷に浸りたい。

この階段を下りていけば、あの地はもうすぐである。

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「ちょっと長いんだよな…。」

上がってくるときがまたキツいんだなこれが。今日は過去最大に重たい装備で来ているけれど…まぁ、あれから北山崎だの佐多岬だの、似たような道を歩いてきたから大丈夫だろ。

 

 

 

 

ここ!

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真鶴岬の先にそびえ立つ、景勝地『三ツ石』。それを眺められるこの波打ち際こそが、私が見つけた秘密の場所である。

 

「まぁ…とはいっても、別に隠れた場所ではないんだけどね。」

年末休みなのか、辺りにはけっこう人がおり、火気厳禁の筈がバーベキューしている輩もいる。やれやれ、琵琶湖じゃねぇんだから…。

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私がよく腰を下ろしていた流木も、朽ち果てていた。付近の草花も、もう息づいてはいない。

「そういえば、こんな季節に来るのは初めてだったかなぁ。」

ちょっと、人気のない場所まで行ってみるか。

 

 

 

「よいしょっと。」

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うん。喧騒がだいぶ遠ざかった。

「この時期はフナムシもいねーのかな。」

神割崎とか、海王丸パークではヤツらに苦慮したもんだが。

 

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「道志も通れたし。これで、悔いはないなぁ。」

潮臭くさすぎない、心地いい太平洋の風が頬を撫でてくれる。

「あとちょっとで…、」

 

あとちょっとで。

そう、呟くと、不意に口が閉じてしまった。後の言葉が、紡げない。

 

あとちょっとで。

終わり。

 

 

「…なんだよなぁ。」

 

今だから正直に言ってしまうと、ツラくてツラくてしょうがない日もあった。

なまじ1年かけて全都道府県を周ると誓っていたぶん、余裕がなくなったら帰るとか、中断するとか、そういう妥協はできなかった。自分で旅に出たはずなのに、自分に強制させられて旅を続けていたような。まさに、旅行ではなく旅であった。

だから、早く終わらねーかなぁ。なんて、何度となく思ったものである。

…思ったものである、筈なのだが。

 

「…もう、自販機のジュースが死ぬほど美味い!って感じることもないんだろうなぁ。」

「数日ぶりに温泉に入って、フゥっ、って一息つくのも。」

「野宿場所を見つけて、ホッっとするのも。そんで、テントを張ってるころに夕焼け小焼けとかがスピーカーから流れてきて、ジンとするのも…。」

 

もう。もう。

「………!」

終わりなんだよなぁ。

涙が一筋、頬を伝った。

 

 

もう知らない絶景道を走って思わずニヤけちゃうのも、夢にまで見た景色を見て泣けちゃいそうなほど感動するのも。見ず知らずの誰かと話せて、励まされて、嬉しくなって堪らないのも。

「…! …~~~っ!」

終わりなのである。

 

無論、旅になんてその気になれば何度だって出られる。だが、私にとっての人生初めての大冒険は、この日本周遊の旅は、もうこれで、文句なしに一生に一度きりで、終わってしまうのである。

 

 

「あーダメだ。」

声を出して泣く術など知らないから、ただただ苦虫を嚙み潰したような変顔で、眼をにじませる時間が数分続いてしまった。

両頬を、掌でパンと叩く。

「泣けるほど良い旅ができたってことだ。」

 

終わらせよう。

良い旅だからこそ、きちんと幕引きをしてやらなければならない。

きちんと終わらせて、想い出を噛みしめて。それを力にしてまた、次を始めればいいのだ。

人生という旅は、前にしか進めないのだから。

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