日本列島
12月19日
“これぐらい日が出てれば、割と耐えられるのにな…。”
複雑に絡み合う幹線を見上げながら、名古屋を出る。
体というのは不思議なもので、こうして風を切って走っているときは何故か寒さに耐えられるものだ。シールドも全開にして、真正面から余裕で風を受けられる。
…というのはやはりライダーズハイというやつなのだろう。
筋肉が萎縮しすぎているのか、ほどなくして両の肩甲骨がチクチクと鈍い痛みを発し始めてきた。
それでもせっかくのギヤチェンジをしなくて済む道路なので、休憩して体をほぐすのもおっくうである。街の上を駆け抜ける道はけっこう爽快だし、渋滞が起こらないうちに抜けてしまおう。
蒲郡(がまごおり)の町が見えてくる。体のいたる所の感覚もなくなってきたので、ここらで下りておこうか。
蒲郡は三河湾に面した町のようで、さすがに名古屋の賑やかさはここまで及んでいないが、そこそこの住宅地、店舗街が見られる。
ぶらぶらと走っていたら、竹島園地なる場所に辿り着く。ここから、離れ小島の竹島まで行けるようだ。
「だけど今日は…、ゆっくり散策したい気分ではないな。」
ちょっと体が固まりすぎてしまっている。さっさと昼飯でも食べて、体を温めたい。
機会があれば明日にでも…ということにして、東へ進んでいつものすき家へ。
腹ごなしをしたら、もうちょっとだけ東に進んでみる。と。
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日
本
列
島
「どゆこと!?」
さすがに気になりすぎるので、右折してみた。
道は工場地帯のある埋立地へと続いており、どうやら”日本列島”とやらはその中の緑地にあるそう。
というわけでこの先、日本列島です。
んー見た感じただの島型公園のようだが…?
まるでテーマパークのメインゲートのように、堂々と”日本列島”の四字が掲げられている。
なんだかちょっと危ない香りがするぜ…!
入口にあった立て札によると、ここは日本列島のミニチュアを庭園風に表現した公園だそうで、敷地内には地形や植物、人文、風俗などが各所に配置してあるそう。
該当する各場所には県花のタイルが敷かれている。最初に見つけられたのが福岡だったのだが…。
「俺、公園の北側から入ったよな? 北に九州があるのか…。」
方角はともかくとして大体の県の位置は考慮されているようで、ゲートの後ろには沖縄や宮崎があり、奥に進むにつれ高地などのパネルが見つけられた。
公園自体もまぁ、静かで落ち着ける様相だ。
けっこうな頻度で、パネルの近くにはその県の民謡が刻まれた石碑が置いてある。徳島は、やっぱ阿波踊りか。
その近くにあるこのベンチ…。位置的に考えると、愛媛のミカンを表しているのだろうか?
ミニチュア…という割には歩いても歩いても特に何も置かれていない。県花のパネルは、一応全部あるみたいだが。…企画倒れしたのか?
念入りに探してみると、辛うじてこちらの東尋坊のような力作も見つけられた。作りものだろうが、柱状節理を目にするとあの夏の光景が良く思い出せた。
東京のパネルのそばには、謎の石柱。…ビル群を表しているのだろうか。
その向こうにあるのは、富士山だろう。残念ながら、登山は禁止されていた。
その後、青森あたりではリンゴのベンチを見つけたりなどしたのだが…。
「北海道まで、来ちまったな…。」
なんもねぇ。
嘘だろ…! よくこんなんで日本列島とか名付けられたな!
俺に監督させれば、鳥取砂丘の砂場とか琵琶湖の池とか、別府の足湯っぽいのとか置いただろうに!
かなり期待外れで正直ガッカリ…したのだが、ちょっぴり嬉しくもあった。
“ああ、「あの県だったらこれを置いとけ」って、言えるぐらいには日本、周れてきたんだなぁ。”
各県のパネルを見つけるたび、道中の記憶が呼び起こされる。目に映るのは何もない、殺風景な公園だが、脳裏では目を見開いて見てきた光景が鮮やかにフラッシュバックを続けている。
「じゃあ向こうにあるのは、アメリカ大陸かなんかなのかなぁ…。」
座り込んで、そんなことをぼんやりと考える。
日本、ほんとうに巡ってきちまったんだなぁ。
足跡を思い出させてくれた公園に、ちょっぴり感謝する気持ちに。
隠しようがない、寂しさという感情が混ざり合って来た。
言葉にできない想いが胸中で渦を巻き、腰が少しばかり、重たくした。