雪紅葉
12月17日
「うわーーーーーーーー積もったな!」
2泊の予約を入れておいてよかった。
ベランダへ出てみると、キンとした空気が身を切り裂くとともに、フワフワと舞う雪が次々と服にくっついてくる。
ロケットⅢで走る、なんて考えると絶望的な状況だが、そうでなければ少し心躍る光景だ。
今まで住んでいたいわきでも相模原でも、ここまでの雪景色はあまり見たことがなかったからなぁ。
こういう機会もあまりないし、ちょっと散歩してみるか。
管理人さんに教えていただいた、裏の紅葉谷なる場所までちょっと出てみよう。
ほんとうにすぐそばに雪山があるんだよなぁ…。
霧で全容が見えないだけに、壮大に見える。
宿から一分も歩けば、紅葉谷の南詰が見えてきた。
もうこの季節なんで散っているんじゃと思ったが、まだまだ紅葉は残っているようだ。雪とのコントラストが美しい。
道は細く距離も短いが、用水路沿いの遊歩道はなかなか趣きがある。
地元の人にとっては、わざわざこんな日に来なくてもいつでも散歩できる場所で、遠方の人にとっては、わざわざ寒い日に来るほどでもない…そんな規模。
だから、歩いているのは私一人だけ。葉や枝が重みに耐えかね雪を下ろす音だけが、辺りに響いていた。
良い散歩だ。
覚悟していたとおりブーツの穴から水気が入って靴下はビショビショになるが、それを差し置いても心安らぐ空気が吸えた。
ここは百人一首の一つ、”奥山に 紅葉踏み分け―”が詠われた地であるらしい。
ここ水沢(すいざわ)は江戸時代において菰野(こもの)藩に属しており、当時は藩主がよく巡視を兼ねて”楓谷”に遊山したそうだ。9代藩主の土方義苗が自然保護に尽力し、1809年に”もみじ谷”と名付けたそう。
また管理人さんの話によると、室町時代この辺りには33ものお寺があったのだが、信長によって焼き討ちに遭ったのだという。
それから逃れる際に持ち出した財宝が、この山のどこかに埋められたそうだが…。未だに見つかっていないのだという。
谷から上がって、茶畑の上へ。
おお、おお。画角に収まり切らないほどの絶景だ。
すっかり白一色になってしまった茶葉たちとは対照に、海の方は晴れているようである。
「ほんと、ピンポイントで雪が降るとこに来ちゃったな…。」
苦笑してしまうが、そうしながらもカメラを構えてしまうほどには、悪い気分ではない。
茶畑の間を気が済むまで歩き回ってから、宿に戻ることにした。
ダイヤモンドダストが眩しい。
道も幸い、凍結してはいないようだ。明日の出立時刻には、マシになっていると信じよう。