清閑たる那智山
星に願いを。
ちょうどキャンプする日が、双子座流星群の日で良かった。
本当は最もピークとなるのは日本時間で明日の10時ごろだが、当然朝見られる訳もなく。
その半日前となる今晩22時ごろが見ごろなのだが、さすがに眠いので21時ごろテントから抜け出て首を折り曲げてみた。
「さすがに、そんなに見られないか…。」
ピークから妥協してさらに妥協した時間帯だ。視界で動く光は、飛行機の信号ぐらい。
それでもじっと待っていれば2、3個は光の筋が現れたので、柄にもなく手を合わせて祈ってみる。
"ロケットⅢと、無事戻れますように…。"
12月14日
「これが橋杭岩か…。」
たしかに並んでお辞儀してくれているようにも見える。
42号で今度は北上。和歌山周遊の旅も、そろそろ大詰めか。
「那智だったらすぐそこですね」だなんて潮岬のキャンパーが言ってくれたが、本当にすぐ紀伊勝浦駅まで着いてしまった。時刻は10時前。
今日の目的地は那智の滝。那智山の道中はワインディングとなりそうなので、ロケットⅢはこの辺に置いてまたバスで移動することにした。
那智の山々はそそり立つような急峻となっており、かなり高く見える。
もともと田舎道ということでそれほど道幅は広くないのだが、それが大門坂を過ぎ、登山道のつづら折りに入ると幅はさらに狭くなる。折り返しはすべてヘアピンに近いし、これはロケットⅢで来なくてよかった。
“バスの運転手に感謝だな…。”
車体すれすれですれ違う対向バスに目を見張っていると、遠方の岩壁に垂れ下がる白い線が見えた。
あれかぁ。
『那智の滝前』停留所で下りる。
那智の滝はご神体として崇められているから、入口には鳥居がある。
かつて神倭磐余彦命(かむやまといわれひこのみこと)が滝を祀ったことが那智山信仰の始まりといわれており、そののち命は八咫烏の導きによって大和の地に赴き、初代天皇…即ち神武天皇となったとのことだ。
そういえば道中には大量に三本足の烏・八咫烏のモニュメントがあった。
原生林であろう木々に日光が阻まれ、薄暗くヒンヤリとした参道を下っていくと、やがてそのご神体が目の前に現れる。
なるほど。高い。
直下133m、日本一の落差を誇る名瀑といわれるだけあって、なかなかの迫力だ。
滝が下がっている岩は火成岩であり、古来はあの頂点から地続きに砂岩や泥岩の大地がつながっていたらしい。それが川に侵食され柔らかい砂岩・泥岩だけが削られた結果、彼の断崖が形成されたらしい。
より身近で見られるお瀧拝所は、有料。
盗み聞きした付近の会話曰く”今日は水が少ない””霧のように水が舞い散る時もある”そうだが、まぁこれはこれで風情があるだろう。
そばにある飛瀧(ひろう)神社は、ここよ更に上にある熊野那智大社の分社。
飛龍…と読んでしまいそうなカッコいい字面だったので、ここで新しい御朱印帖も購入することにした。
左の木版型御朱印帖もカッコいいのだが…。ページが少ない。あと高い。
ので、右のものを購入してその場を後にする。
来た道を戻って、さらに上って次は熊野那智大社だ。
停留所まで戻り、そこから短いながらも熊野古道を使って高度を稼ぐ。
この石段は鎌倉時代のものらしい。
またしても正規の参道とは違う道から来てしまったので、脇道で大鳥居を目指す。
辺りには民家が並んでおり、一見すると世界遺産の神社がある場所とは思えない。
「おお…たっけぇええ…」
知らない間にこんな上まで来ていたのか。
月曜日だからか、辺りに人気はなく、生活音もない。ただただ高地に相応しい強めの風が、ヒュウヒュウと音を立てているだけであった。
海まで見える。
参道に合流し、石段を上り切って鳥居をくぐる。出迎えてくれたのは、これまた美しい朱塗りの社殿であった。
こんな山奥にあるにしては、破格の佇まいではないだろうか。
眺望ヨシ。
この社は御瀧本より熊野の神々を遷座して祀っている場所らしい。
ちなみに”クマ”と”カミ”には同じ意味があるらしく、熊野とは神々が住まう地という意味合いらしい。
境内の大樟(クスノキ)の内部は空洞となっており、胎内くぐりができるらしい。
絵馬か御摩木を買わないといけないので入らなかったが。
隣にあるのが那智青岸渡寺(せいがんとじ)。こちらも世界遺産とのことだ。
「粋な恰好だねェ。」
だなんて僧侶に言われながら御朱印を頂き、裏手に回ってみる。
「おお…こう見えるのかぁ。」
眼下の木造民家と三重櫓が瀧と重なり、なんとも静かなようで豪快な絵面を創り上げている。
「おっ那智の滝、虹ができてるじゃん!」
平日だからなのだろうが、人気が少なく凛とした静けさが漂うこの場所は、どこか居心地がいい。
向かいの山々を惜しむように眺めながら、参道を下りて帰路に就いた。
~~
ちなみに、那智勝浦の街だが。
典型的な田舎の駅近町という感じであった。人がいねぇ…。
一応勝浦漁港は”はえ縄漁で漁獲された生まぐろ水揚げ日本一”を誇るそうで、辺りにはマグロの定食屋が多く見られる。駅前には“秋刀魚の歌”なんて碑も置いてあるし、魚がウリの町のようだ。
そういえば青岸渡寺にも、魚霊供養碑なんてものがあったな。
「…とはいってもマグロ食う金なんてないし、どうしたものかな…。」
特産品を推すのは結構だが、あまりにもどこを覗いてもマグロだらけ。普通の定食屋を探すの、ちょっと時間かかりそうだなぁ…。