和を以て貴しとなす
12月9日
まぁ、いくらメジャーでベタだといっても、もちろん来たくない訳ではない。
法隆寺。聖徳太子が建てた、日本に現存する最古の寺院建築。
ここまで来たら、行ってみなくちゃ損だろう。
法隆寺の境内はけっこう広い。
南大門から入ると主役たる西院伽藍が正面に見えるのだが、その両側にそこそこ広い庭と大宝蔵院といった重要建築物が陳列されており、さらにその東側にはそれと同スケールの夢殿を中心とした東院伽藍が鎮座している。
…正直そこまで見る気もないので、西院周りを散策する。
これぞ日本最初の世界文化遺産、法隆寺だ。
一体どういう様式で、どういう役割があるのか…。伽藍に入ってさっそく勉強しようとしてみたが、
「1,500円…。」
この旅で最大スケール。
さすがに払ってられん。
左手に回って行くと、奥に面白そうな建物が。あそこは財布開かなくて良さそうだな。行ってみよう。
西円堂。光明皇后の発願によって、行基菩薩が718年に建立した国宝だという。
中には薬師如来像があるのだとか。
「フーン…。」
興味なさげに周りを見回すと、隣の社務所に”御朱印”の文字が。
あれ、ここって寺だけど、お納経じゃなくて御朱印もあるのか。
徳島で納経帳は買ったけれど、あれはお遍路用。書いていただく訳にもいかないから、先ほどの朝護孫子寺からドギマギしていたのである。
社務所の方はなんだか人懐っこいおじさんで、「すごい荷物ですねぇ」と旅のことをいろいろ聞いてくれた。
「ここ、西円堂って書いてありますからね」と珍しく御朱印の解説までしてくれた後、「もう一ヶ所、伽藍を挟んだ反対側にも御朱印頂ける場所ありますからね」とまで教えてくれた。
“頑張って東京まで帰ってくださいね”と暖かい言葉を頂き、反対側へ向かう。
奈良っていうのは山に隔絶された県で、修行者たちが多い得体の知れない場所だと思っていたが…暖かい場所じゃないか。
反対側。聖霊院。こちらは聖徳太子の尊像を安置する殿堂らしい。
ブーツを脱いで上がらせていただき、正座してお参り。…ここに、聖徳太子の魂があるのだろうか……。
次いで御朱印を頂くと、こちらの受付の方たちも人懐っこく、色々と聞いてくれては「あともう少しですね、お気をつけて」と御声をかけてくれた。
御朱印の解説は、「ここに”和を以て貴しとなす”と書いてありますからね。」とのこと。
「“和を以て貴しとなす”、かぁ…。」
泉さんにいただいたサンドイッチを頬張りながら、頭の中でつぶやく。
十七条の憲法の一つだったっけ? 不思議とその一文は私も覚えていた。
その意味はなんなんだろうか…。
和っていうのは…仲良くってことか? それが貴いってこと…か……。
仲良いことが最上ってことだな!
ん? こんな感じの言葉、前にもどこかで……あ。
ふと、片岡さんに勧められて暇つぶしに読んでいた漫画『拳児』の一文を思い出す。
“拳法は、他人と仲良くなるために学ぶんだ”
その台詞となんかかぶった。
……そーだよなぁ。あくまでも自衛のため、人の笑顔、人の仲を守るために学ぶのが武術だ。粗野に扱って、かえって恨みを買って自分を窮地に陥れては、本末転倒である。
私が日々練習している武術にももちろん、各地で得た知識や情報にもそれはいえるのではないだろうか。鍛えたり学んだりした賜物は、決して悪巧みに使わず、人と仲良くするために使う…。
うん。書いてみると小学生じみた字面だが、だからこそ守らなくちゃダメだろう。
「和を以て貴しとなす!」
なんか良い言葉に思えてきた。
サンドイッチと共にそれを飲み込むと、再び南門をくぐって境内を後にする。
直後、自然と畏敬の念を抱き、太子に向かって一礼したのであった。