大阪ストラット①
「よーし、今日はこれを手放さず…ならぬ、口放さず行くぞ。」
マスクを装着しいざ出発。
待ってろよ、大阪の街ー!
12月3日
本当は道頓堀などに行ってみたいが、流石に人が多そうなうえ拠点にした十三(じゅうそう)からも遠いので、止めておく。
今日は大阪城を目的地にして、片道1時間以上の道のりをのんびり歩くつもりだ。
淀川越しに見えるは大阪のビル群。
昔は船着き場で賑わっていたという十三大橋を渡れば、大阪の都心部はすぐそばだ。
梅田。
すっげぇ人…! 朝のこの時間帯だと、通勤ラッシュの人たちだろうか。
「ここが梅田のヨドバシカメラかぁ…!」
デカい。なんでもかんでもここに揃ってるんだろうなぁ…!
そして大阪駅。
いや~~昨日も見たけどでっけぇなぁ!
入ってみたい……けど、ガマンだガマン!
振り返れば阪神の梅田駅も。デッカいビルが四方八方にあって、眩暈がしてしまいそうである。
エスカレーターの右並びに違和感を覚えつつも、ペデストリアンデッキを降りて道路沿いをやや南下。国道1号線とぶつかったところで、それに沿って舵を東へ切る。
この道を歩いて行けば、大阪城方面まで行けるはずだ。
やはり北区はオフィスビル群として整備されているようで、私のような田舎者がイメージするたこ焼きだとか、かに道楽だとかいった賑やかなものは一切排除されており、キンと張り詰めた空気が漂う角ばった建物が延々と続いている。
そんな場所だから、やはり私の格好は目立つ。いつもの山だとか海だとか古い町並みならまだマシであった道着姿が、とにかく浮く。周囲からの視線をヒシヒシと感じるが…今更気にはしなかった。
アレだろ、虎柄だとか豹柄の服着て歩いてる人もいるんだろ。だったら私のも許される筈だ。ただただ傾奇者として、堂々と歩いていればいい。
そんなこんなでどこにも寄らずひたすら歩き続けていると、ビル群は見えなくなり代わりに集合住宅や学校が見えてくる。郊外の方まで出てきたようだ。
もうすぐ見えるであろう大川を渡れば大阪城が…というあたりで、気になる建物を発見。
旧明治天皇の記念館だそうだ。
「なるほど、ここがたまに聞く桜ノ宮ってところなのか…。」
何の記念か看板を眺めてみると、天皇陛下が近くの造幣局へ訪れた際の云々かんぬん…。
現在はレストランや結婚式場として使われているようである。
こちらは造幣局の応接所だったという泉布観。建築は後に銀座のレンガ街も手掛けた、アイルランド出身のウォートルス技師である。
天皇が大阪に行幸された際には宿舎としても使われたのだとか。ちなみに”泉布”とは貨幣のことで、”観”とは立派な館を意味するらしい。へぇー。
で、1号線を挟んだ向かいにあるのが造幣局だ。
「フム…博物館入場無料とな。」
よし、入ってみるか。
現在の造幣局を回り込むように設けられた、”通り抜け”なる道を通される。
ここらは桜ノ宮の名に相応しく春には幾本もの桜が美しく咲き誇るそうで、その種類も豊富だったことから見る人を飽きさせることがなかったらしい。
ある時に局長が”ここを大阪市民の皆さんと一緒に楽しめるようにしよう”と発案したことで、通路は一般に開放される。以来、ここは”通り抜け”と呼ばれるようになったとのことだ。
手指の消毒をして、造幣博物館へ。
いきなりなんか…、なんか、すごい硬貨にお出迎えされる。
博物館では我が国の貨幣文化の歴史を事細かに紹介する展示がなされており、その説明は原始時代から始まっている。
大昔は形の綺麗な貝を、お金として扱っていたそうだ。それ故に貨、財、貯といったお金に関する漢字には、”貝”という字が使われているらしい。へぇ~~~。
そこからまぁ紆余曲折あってまあるいお金が使われるようになり、教科書にも載っていた和同開珎たちが世に出回ることになる。
ふむ…こんぐらいの大きさだったのか。考えてみれば、古代のお金なんて間近で見たことがない。意外と面白いかもしれないな、ココ。
その面白い展示はかなり豊富にあるようで、暫く時間を潰すことになったのであった。
軍資金として必要な分だけ切って使われたという竹流金。
大判二千枚で造られたという軍事貯蓄用の大法馬金。
もちろん大判小判まで。
へぇ~~刀状の財布なんてものもあったんだねぇ!
…てな感じで、どんどん大阪城到着は遠のいていく。まぁいいか。
日本の貨幣文化は江戸末期ごろに混沌とした状況に一度浸かっていたらしく、当時の幕府は財政難を切り抜けようと貨幣の質を上げたり下げたりして民を困らせていたらしい。そこに黒船来航によって外国貨幣も流入したことから、もう貨幣制度はてんやわんや。
間もなくして倒幕が果たされ明治政府が樹立した暁、”さすがに制度を改革しないとマズイだろう…”という周知の問題を解決すべく、ここ、桜ノ宮の造幣局が創られたわけである。
面白かったのは、世界のプルーフ貨幣(収集用貨幣)、プレミア貨幣の展示。
名画をコインにはめ込んだものや、ディズニープリンセスにスターウォーズのキャラクターが描かれたコインなど、独特なユニークと美しい造幣技術が相まって見ていて飽きることがない。
コレ、もう硬貨って言わないだろう…!
個人的に唸ったのが、地方自治体施工60周年記念として作られた、47都道府県のコイン。
「あ~やっぱ高知は桂浜かぁ!」「そうそう、恐竜見てきたなぁ福井!」と、記憶を思い出しながら一つ一つ見入る。
もちろん”こんな名所もあったんだ…?”なんてコインも多分に見つけたので、まだまだだという力不足も実感した次第だが。
その後は撮影禁止なのが悔やまれるほどの豪華絢爛な勲章展示を眺めて歩き、1時間弱ほどしてようやく博物館を出たのであった。
「なんていうか…………。お金、大事に使わなきゃな。」
今までとは違った意味で、お金って素晴らしいと思った次第。とんだ寄り道になってしまったが、”タダ”という言葉に釣られて良かった。
門を出るとき、警備員が敬礼して見送ってくれた。
続く