風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

温泉をありがとう

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「行ってみてよマスターすっごいカワイイ娘いるからって言ったんですよ!」

「…そんで行ってみたら。どーーーこに女の子がおんねんて!」

「すみませんホントに間違われやすいんですよ、すみません…!」

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すっかり遅くなってしまった神戸入り。大都会で野宿場所が見つけられる訳もなく、諦めてカプセルホテルにロケットⅢを停めたときのことだ。

ホテル向かいのレストランのドアが開き、真っ白なコックコートに身を包んだご年配が、

「でっかいバイクだねぇ。」

と話しかけてくれたのだ。

2,300㏄あるんです。」

それぐらいならまだ今までにもあったことなのだが、次いでそのシェフ、

「ちょっと皆呼んでくる。」

と言って、お客さんを呼んできてロケットⅢを皆で見始めてくれたのである。

 

そんなちょっとした騒動があり、まだ夕食を食べていなかった(明石焼きはおやつ)こともあり。そのレストラン『WAKU』で、夕飯を頂くことにしたのである。

 

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原稿を書いてからお邪魔して、ご一緒できたのは店長の山下さんとお客様の冨田さん。

私の旅を聞くなりそれを称賛していただき、こう自分で書くと物凄く自画自賛なのだが、顔が女性に見えるぐらい整っていることを褒められ、それをネタにして会話が盛り上がっていたところだ。

 

 

「ハイこれ、メインの前にサービス。」

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うおおおキレイなサラダ!

長旅を労う気持ちとのことで、とんでもなく贅沢なサービスをいただいてしまった。

トマトが超瑞々しくて旨い…! ここまで美味いサラダはこの旅で初めてかも。

 

聞くところによるとこの店長、実は兵庫の街でかなり名の通ったシェフらしく、大学へ講師に行ったり、明治神宮への奉納品を手掛けたりするなど、壮絶な腕前を持つ人なのだ。

「若い頃、本当はフランスに学びに行く予定だったんだけどさ。1週間前にしてまさかの向こうに拒否されちゃって。

 なにクソ~って思って、国内でがんばったね。そうしたらなんとかモノになったよ。」

と良い皴を作って語ってくれる。すごい努力の人生だったんだろうな…。

 

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そして差し出されたメインのビーフストロガノフ。

旨すぎる…!

ただ単にソースが良いとかそれだけじゃなく、香草が上等な物なんだぞといういかにも品位のある香りを漂わせていて……ああダメだ、私の口では表現できません。

 

冨田さんとともに私は何か成し遂げられる!と嬉しい豪語までしていただき、料理とともに冷えた心身が一気にほぐされていく。

「木村さんが何か成し遂げるのを、見届けたいけどなぁ…!」

と両者。

「いやいや、大丈夫ですよ! 見届けてくださいよ!」

お二方とももう歳だ…という顔をするが、全然まだまだ元気そうに見える。

「ああでも、僕はあと一つやり残したことがありますよ。」

 

店長は鹿児島の甑島(こしきじま)という日本最後の秘境と称される島の出身で、あと数年もしたらそこの神社の職を受け継がなければならないとのこと。

「転々としながら40年ほどこの店をやってきたけど、それもあと2年ぐらいかなぁ…。」

「まだまだやりたいとか、思わないんですか?」

少し恐縮しながら聞いてみるが、店長は全く気にしないという笑顔で答える。

「思わないね! もうやり切った感があるよ、ここは。ま~あとはバイトの子とかがどうするかわからないけど、任せるよ。僕はもう干渉しない、教えもしない!」

「えー誰かしらにもっと味を受け継いでやってくださいよぉ! もったいない!」

「いや、もう疲れるもん教えるの。教えない!」

と、両社とも意見はぶつけるものの、終始笑顔で語り合い。神戸の夜は、更けていった。

 

 

 

~~

 

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有馬温泉に行く。

同じ神戸市とはいえ山の方と行くのは面倒だが、草津・下呂と巡ってきたのだ。ここまで来たら有馬にも浸かって、三名湯制覇といきたい。

 

昨日山下さんたちに教えていただいたアクセス方法は、お金を払って新神戸トンネルを突き抜けるのと、有馬街道をのんびり走るのと、六甲山を越えていくワインディングロードの三つ。

六甲山からの眺望は魅力的だったが、凍結を警戒して今回はパス。お金は払いたくないので、国道428から有馬街道を目指すことにした。

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神戸市街はやや坂がある市街地。東西に走る限りは、どこまででもビル群が続きそうな勢いだ。

そこから抜け出るように、北へ折れて国道428へ。

 

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山を避けたつもりが、結局は山にさしかかることになった。

まぁコーナーはキツくないので問題ないのだが、上り・下りともにけっこう渋滞している。

山を越えるとそこそこ住宅地が見えたので、そこから出勤する人たちなのだろう。

 

 

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国道から県道15号、さらに県道51へ分岐。ほどなくして有馬温泉の看板を発見。

山の奥の温泉の異名は伊達ではなく、道は寂しく肌寒い。

 

 

 

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到着。

うん…まぁちょっとは寂れているかな?

 

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有馬で流行った疫病を追い払うため、大己貴(おおなのむち)が六甲山から投げ下ろしたという礫石。これをさすった手で体を撫でると、病や怪我が治るのだとか。

岩をさすり、足と肩に続けて手を当てて歩き出す。

 

 

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有馬川を挟み、一段上に道路が通る街並み。下呂にそっくりだ。

何か向こうと関わり合いがあるのだろうか。

坂を上り、有馬を代表する金の湯へと向かう。(駐車場のおじさん曰く銀の湯は今日お休みらしい)

 

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草津や道後などのように雰囲気がある建物ではないが、とにかくここの金の湯が有馬を代表するものらしい。

…本当に金なのだろうか。ワクワクしながら、500円払って浴室へ。

 

 

「ほぉ…コレが。」

まぁ相変わらず写真がないので表しがたいのだが、うん…想像する金ではないことは確かだ。

言うのであれば、金色を物凄く濃くしてできあがった、赤玉たまごのような色。

見た目通り成分は濃いようで、湯舟に沈まるとあっという間に我が体は見えなくなってしまう。香りは…うん、鉄分のソレだな。

 

湯面に視線を並べてみると、窓から入り込んだ日光を反射する辺りは確かに金色のように見えて。豪華絢爛な金色ではなかったわけだが、かえって安心する色彩で落ち着いて浸かれる。朝だからか他の客もおじさん一人だけだ。

柔らかくもなく硬くもない水質が、山越えで冷え切った身体を小細工せず温めてくれた。

 

ギチギチになった皮膚や骨に余裕が生まれていく中で、ぼんやりと思う。

日本三湯……まぁ確かにどれも名湯だけど、他にも色々あったよなぁ…。

湯布院とか道後とか。…多分、三湯を決めた人は本土までしか足を運べなかったんだろうな……。

いやもちろん、名湯なんて冠は掲げていなくても。この旅を始めてからこの方、本当に色々な温泉に浸かってきた。それらはどれもかれも、旅の疲れを優しく癒してくれたものである。

そういったものが探せばどこにでもあるのだから、本当に…この国ってやつは……。

「…そういう意味では、日本は旅に向いているのかもしれないな……。」

旅に出ると不健康になると思われがちだが、むしろ旅に出てから持病の肩凝りなどは大分改善した。それには少なからず、温泉も貢献してくれている筈である。

この国に生まれて、本当に良かった。

 

 

 

さて、復路はトンネルを通ってさっさと帰ってしまおうと考えていたが、体も温まったし、日も出てきた。また山道を下ってってもいいかな。

 

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賞味期限わずか5秒の有馬名物炭酸せんべいを頬張り、シュワシュワとする前代未聞の舌触りを楽しむと。

ブーツを打ち鳴らしながら、笑顔で温泉街の坂を下り始めたのであった。

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