ナイトデート
「おお…、スースーする……。」
海城として名高い高松城のあたりを散歩していると、瀬戸内海からの風がスゥっと太ももを冷やす。
「洗濯機で回したら、一気にビリッといきそうだな…。」
カンフーパンツも限界だ。
だが、あと約一ヶ月ぐらいだろうか。
地図上で見れば、本土はそう離れていない。恐らく見えているアレだろう。
「…いよいよ、ラストステージってとこですか……。」
11月24日
「ありがとーーー! 四国―――――!」
南・北備讃瀬戸大橋を渡り、四国に別れを告げ。
岩黒島・櫃石島、そして下津井瀬戸大橋を渡り、岡山へ。
…流石に、瀬戸内海は一本の端では渡れないようである。
辿り着いたるは倉敷。
倉敷って聞いたことあるな…なんの街だっけ。
ひとまず海近の国道430を走っていると、膨大な広さの工場地帯が見えてくる。
「おー工場の街でしたか。」
昼ごなしに寄ったすき家で話しかけられたおっちゃんに、「工場地帯なら鷲羽山から見れるよ」との情報をいただく。
自身もハーレー乗りだっていうから、そう悪い道ではないだろう。
暇だし行ってみることに。
下から見た感じ大きな山ではないようだが、県道393は”スカイライン”の名を冠するだけあってけっこう眺望がいい。岩肌が少なく木々豊かで、季節も相まり紅葉の合間を駆け抜けるのは短時間ながら清々しかった。
鷲羽山(わしゅうざん)なんてローマ字のhが入る珍しい名だし、記憶に残りそう。
水島の工場地帯、および市街地を一望。
ほーのっぺりとはしてるが、確かに見応えがあるわ。向こうの広島まで見えそう。
「……よし。」
道も悪くないみたいだし、夜になったらもう一度来てみよう。
北九州では諦めた工場夜景、今回こそは見てみたい。
するとなると夜までの暇つぶしが欲しいところだが…ああそういえば、あのおっちゃん”美観地区”とかも言ってたっけ。
~~
「あーーーーーここかぁ!」
テレビで見たことあるわここ!
倉敷川を挟む、蔵を主とした古風建築群が目に眩しい街。どちらかといえば、倉敷は工場でなくこちらが大本命なのだろう。
連休明けだというのにけっこう人も多く、修学旅行生たちもまたまた見かける。季節だからね…。
人を避けて裏通りに入ってみれば、車1台分の道幅で頭高い蔵に見下ろされる圧を味わえる。土産物通りもいいが、もっとこういうとこを見るべきだと思うんだけどなー。
まさに名のとおり、倉が敷かれた町、といったところか。
川から少し離れ、倉敷アイヴィースクエア。
この地は関ケ原の合戦以降、徳川幕府の直領となっており、大坂冬の陣の際に大阪へ兵糧を送り出すために陣屋化。以来急速な発展を遂げ、1642年には倉敷代官所となったそうだ。
この建物は明治以降の発展の要となった紡績所そのものであり、残存する紡績工場の最古の一つだそうだ。
アイヴィー…即ち蔦は、西日によって室温が上昇するのを防ぐため植えられたそうだ。
現代でも見られるグリーンカーテンは、昭和初期からあったんだな。
個人的には廃墟にしか見えないので、オシャレはわかるがあまり好きにはなれないが。
さて、日もいい具合に傾いてきた。
もう少し休憩したら、行ってみますかね。
~~
「今日は昼間も肌寒かったからな…。」
最終兵器・電熱ウエアを引っ張り出し、ロケットⅢのUSB電源に接続する。
この旅では初めての使用となるか。
「おっ生きててよかった。」
それ故に故障していないか心配だったが、杞憂だったようだ。
電気に変換されたロケットⅢの鼓動が、ウエアの中で熱となり、肌をじんわりと温めだす。
「感じるぞ…お前の体温。」
ナイトデートと洒落込もう。
前も書いたが、寒さの嫌なところは凍えることよりも寂しさを感じることだ。それが夜の行動となればなおさらなのだが、ウエアが腹や背中にポカポカと熱を送ってくれるおかげで、幾分か不安も忘れられる。
街灯のない鷲羽山の山道を登り、展望台へ。
「おほっほぉ~いいじゃない…!」
函館や長崎ほどではないにしろ、山の闇を切り裂いて網膜に飛び込んでくる、幾千もの光は幻想的だった。
もう大半の労働者は帰っているのだろうが、それでも機械たちは働き続ける。
一瞬も揺らぐことなく煌き続ける光源たちは、機械たちの命の灯…と言っていいのだろうか。
有名スポットなのか次々とカップルがやってきたので、下山することにする。
さすがにバイクとデートしてるのは私だけのようだ。
まぁ、長い旅である。さすがにもう寂しさなんてものは感じなかった。
それよりも旅の相棒とこの景色を眺められるのが、何よりもうれしい。
街に下りてくると、張っていた気が一気に弛緩する。
「デートってのは疲れるからなぁ…。」
そんな訳はないにしろ、最近は考え事が多くて妙に疲れるのは本当。
もう少し、もう少しなんだが…。
とにかくは、安全運転の集中が切れぬことを祈るばかりである。