1,368段
11月21日
「香川はおにぎり山が多いんだな…。」
予報の通り、雨日明けの三連休から気温は落ち込み始め。肌寒さもちょっぴり感じるが、それを感じるほどお山の紅葉もより風情あるものに見えるのであった。
こんな日だから、ちょうどよかったかもしれない。
国道32号を南下し、琴平町へ。
買田の交差点を曲がると、鞘橋と石畳の通りが見えてきた。
まだガラガラの有料駐車場にロケットⅢを停めると、バックパックを背負っていざ入り口に立つ。
「今日はあなたをやっつけてやるぞ、こんぴらさん!」
1,368段と、日本屈指の石段数を誇る金毘羅宮に、今日は挑戦してみたいと思う。
石段ははじめ観光街から始まるのだが、もうこの時点でけっこう勾配がエグい。
“100段”の看板を迎えるころには、もう息を切らしている人を多く見られた。…まぁ、過去何度となく山登りをした私にとっては平気だけどなっ。
そんな人らを追い越し続けると、ほどなくして大門に到達。
おお、これだけでもけっこう上ったな。
この象頭山をさらに上った中腹に、金毘羅宮、通称こんぴらさんは建てられている。
御祭神は大物主神。主に就中海…まぁ海の守り神として信仰されており、この大門の近くにも海で亡くなった人を祀る碑などが建てられている。
えがおでしあわせ。こんぴらさん!
さーてこっから私も、なるべく笑顔を絶やさないで上るぞ。
勾配こそあるものの、石段は整っており足場に神経を使う必要はさほどない。
ゴツゴツ石の上を歩かされた大山よりは、むしろラクではないだろうか。
散り始めてしまっているが、爛々と揺れるモミジの黄色も心を落ち着かせてくれる。
まだ序の口。
奥の方に旭社が見えてきた。
本社までは、ここで中間といったところだろうか。
この先は上りと下りでそれぞれの石段が用意されており、その分道幅もやや狭くなる。
奉納品の石灯篭の多いこと。流石”さぬきのこんぴらさん”と名高いだけあって、信仰は厚いようだ。
この切り返しを上り切れば…。
海の守護神・金毘羅宮に到着する。
おーなかなかいい眺めじゃないか。
あの三角お山は、讃岐富士というらしい。
船が海に出るたびに、祈願されているのだろう。
近くの木造舎には、船の名を掲げた多くの奉納品や、船体の写真が飾られていた。
さて。ここまでで踏み越えたのは、まだ785段。
そう、参道は終わっちゃいないのだ。
ここからが本番である。
“奥社まで片道30分”という看板を通り過ぎ、再び足の上下運動を始める。
さすがにここまでくる人はあまりいないようだ。
本社までの人だかりが嘘だったかのように、あたりは森と静まりかえっている。
白峯神社や常盤神社などの末社にも参拝しつつ、先へ。
ここらは急こう配が少なく、石段というよりも坂が多くなっている印象で、長さは感じつつもそこまで疲れは蓄積しない。
…と思っていたが、奥社参道突入より約25分後。けっこうな石段が現れてしまう。
「これはさすがに応えそうだねぇ…。」
ここにきて肩で呼吸をし始めながら、石段の上の陽光を目指し登り続ける。
「おっまだあんのか…。」
そこからさらに切り返し、ラストスパート。
汗が吹き出し始めたあたりで、1,368段目を踏破。奥社をこの目に拝むことができた。
おーけっこうちゃんと手入れされている。
奥社としては立派な部類ではなかろうか。祐徳稲荷よりは赤が映えている気がする。
左手には複雑に形作られた岩肌があり、その中には天狗とか鳥天狗とか呼ばれる岩もあるみたいだが…よくわからんかった。
舞い散る紅葉を眺めつつ、下山。道中は、往きより多くの人とすれ違った。
いや~~~すごい人だね。
流石三連休。もはやコロナもお構いなしって感じだな。
さて、お昼はこの界隈で食べてもいいが……。せっかくここまで来たんだ。今日はちょっと辺鄙なところで食べてみよう。
~~
観光街を出て、国道32号を徳島県境近くまで南下し、県道197へ折れる。
2両編成しか通らない踏切を越えて、田舎道のさらに奥へ。
うーんこの感じ…! いいね!
山奥のうどん屋『山内』に到着する。昨日は街中のうどんだったから、今日は秘境のうどんを食べてみたくリサーチしていたのだ。
山奥…ってほどアクセスが悪いわけでもないのだが、それでもド田舎なのに店内はすごい賑わい。
例の如く、揚げ物を添えておぼんを埋める。ただし今回、うどんはただのぶっかけだ。
この皿から溢れるボリュームよ(笑)。
ぶっかけ大で400円(小は300、特大は500円)、それにゲソ、とり天、牛肉コロッケを入れて740円だ。安い。
「う~ん…。」
旨い。
ここのは昨日のより、さらに歯切れがいいうどんだ。歯が食い込んだ途端ぶっつりと面が切れ弾ける。
揚げ物も田舎食堂らしく冷えてしまってはいたがボリューミーで、衣の中ははちきれんほどに肉で埋め尽くされている。
壁際のカウンター席から、振り返ればさらに来店する客が多数。
「ご注文は?」「アツアツぶっかけ大で!」
接客の声に、太麺を切るまな板と包丁の軽快な音が背中に聴きながら。
“うどんは、もう香川以外では食えないかもな…”
と、他県への絶望ともとれる旨味に頬をほころばせた。