うどん
11月20日
「さすがにうどん県…とは書かれていないか。」
国道11号を辿り、無事香川県へ。
あまりにもうどん推し故に”うどんしかないのか”と思われがちだが、金毘羅宮や小豆島など、徳島よりは気になるところが多いうどん県。
小豆島までいく余裕はないだろうが、楽しみだ。
期待に胸を膨らませ、再発進しようとバックミラーを見る。
と、ずいぶんと馴染みのある二眼ヘッドライトが。「ん? あれは…。」
「ロケットⅢやんけ!!」
この旅初めての同族発見。
1速を唸らせ、たちまち追いかけた。
目標は国道を逸れてしまうが、構わない。逃がすかぁーーー!!
信号に引っかかってくれたらしく、なんとか追いつくことに成功する。
真紅のロケットⅢ…恐らく私のより旧式のモデルにまたがる、壮年の徳島ライダー。
「一緒一緒!」と話しかけると、向こうもシールドを開け口を動かしてくれる。
…が、
何言ってるかぜんっぜんわからん!
お互いの2,300㏄が轟音を上げ共鳴しているせいで、どちらも適当にくっちゃべってしまう。
だが謎の嬉しさは共有できたようで、赤ロケットⅢのおじさんは笑顔で走り去っていった。
~~
国道に戻り、高松を目指す。
その手前で、さぬきに入れるはずだ。
“讃岐うどん”で有名な、あのさぬきである(多分)。
「昼はさすがにそこで食わなくっちゃあなぁ…!」
さぬき市に入る。
…さすがにすぐうどん屋の看板は出てこないみたいだ。
天気は妙にぐずりだし、少しばかり雨粒が降ってくる。
「んん~~~~~?」
けっこう進んだが、焼うどんとかいう変わり種ばかりで、それらしいものを見なかったぞ?
引き返すか?
と思っていた矢先、山を一つ越えたところで志度の街並みが見え始めた。
そこへ入るとちゃ~んと”讃岐うどん”の看板が見え始めたので、喜々としてその中の一つに駆け込む。その名は『麺でぃ~』。
うお、はなまるうどんみたいに、自分で進んでいくタイプの購入なんだな…。いや、これが本場のうどん屋のスタイルなのか。
さすがにただのぶっかけでは栄養不足な気がするので、温玉肉ぶっかけを注文する。サイドにえび天と鳥の皮唐揚げを。
なかなか腹に応えそうじゃないかぁ…!
うどんに限らず、そばやそうめんといった類は、どうにも”ボリューム不足”という先入観を抱いてしまう私。だから多くの具やサイドメニューは必須だ。
さて。
今更ながらに言うが、私は”そば派”である。
うどんはなんというか、あのパサパサ感がどうにも認められなくて…。
だが他ではないうどん県に来たのだから、食べない訳にもいくまい…というノリで立ち寄ったにすぎないのであるが。
…期待していいんだよな? うどん県よ。
「見せてみろ、その実力を! 言わせてみろっ、俺に旨いと!!」
後のせの天かすにも、魅惑的な艶の温玉にも、よく茹でてある肉にも目もくれず、どんぶりの中へ箸を突っ込んでその太麺を引きずりだす。まずは、賢しいものは抜きにして麺だ!
「…!」
肉汁がよく染みている!
旨いのだが、”初めて”はただのぶっかけにするべきだったか?
いや待て、集中するのだ、麺本来のポテンシャルに…。
落ち着いて、もう一束口に放り込み、門歯で噛み切る。その瞬間、
プルンッ。
「なっ」
なんだこの弾力はぁあ!
プルンッっていったぞプルンッって!
今度は確かめるように、口の中に含んだそれを咀嚼する。
……なんっって、歯ごたえなんだ!
簡単にはやられまいという、太麺の声が聞こえるようだ。だがひとたび切れ目をいれれば歯はすうっと麺を貫通し、例のプルンッという食感を腔内に響かせる。歯ごたえがあるとはいえ、パサパサするといった不快感のある抵抗力は全くない!
「これが…、これがコシかぁあああ!」
生まれてこの方25年、初めてうどんの”コシ”ってやつを知った気がする。
うめぇ! うめぇようどん!
天かすと肉、大根おろしも適度に織り交ぜ、口に運ぶ作業を繰り返す。
天かすの歯ごたえ、肉の香ばしさ、大根の爽快さ、すべてがうどんとマッチする。素晴らしい。温玉を破り黄味を出汁に仲間入りさせれば、ほんのりと優しい甘口も楽しめる。
揚げ物たちも背徳感極まりない油味を舌の上で弾けさせてくれ、実に愉快な食事を楽しめた。
「…そばじゃ、こうはいかないもんな…。」
そばやそうめんは、どこか気取ってないといけなくて。こうして肉や揚げ物を、バカスカと一緒に口に頬張ることはなかなかできない。だがうどんではそれが許される。だから、腹が膨れる。
しかもこれだけ頼んで、780円(うどん本体570円・鳥皮唐揚げ100円・えび天一尾)。リーズナブルだ。
店内も、昼時というだけあってすぐに多くの客でごった返している。
以前、広島民に”やっぱ現地民はそんなにお好み焼き食べないんですか?”と聞いたら、YESとの回答をいただいたことがある。
当然だ。お好み焼きは確かに旨いが、決して安いと言える値段でもない。
それに比べてうどんは、それこそ毎日食べてもサイフに優しい値段だから、皆に愛されているのだろう。
UDON。
それは確かに、香川県の誇りなのだ。
初日にして、それを実感したしだいなのであった。