お遍路(体験版)
11月19日
“無理矢理感はあるけど、徳島にはお遍路の一番札所があるから、少し回ってみれば? 八番までは近いし”
と、前職の先輩。
ほう、てっきり香川が始まりだと思っていたが、確かに鳴門海峡を入り口と考えれば徳島がスタートか。
やることもないので、一番札所がある県北まで走ってみる。
国道55号は11号に接続。徳島市街へ。
「宮崎…よりは……大分ぐらいか……いやしかし朝でこの交通量は…」
自然と県庁の規模を比較している、自分がなんだか申し訳ない。
吉野川を越え鳴門市へ入り、山側へ行けばお遍路の看板が多く目に入ってくる。
ここがお遍路始まりの地だ。
スタート地点らしく案内所が設けられ、中ではお遍路の仕方説明や用具の販売などがなされている。
参拝をした証として重要な、お納経というご朱印のお寺版のようなものを納める納経帳。御詠歌入り白衣といって、装束に納経を書いてもらう人もいる。
…だがこれって、今日の私みたいにマジメに全部回らない人も買っていいのだろうか? 聞いてみよう。
「あの…、全部回る予定じゃなくても納経帳って購入してもいいんですか?」
「お遍路される方の心の持ち様の問題ですので、私共から何か言うことはできません。」
「白装束って着ないと…」
「それも参拝される方によりますので…。」
つまりは、割と自由ってことのようだ。
絢爛な模様のある納経帳が多いが、その分お値段が高い。というより、お経を書いてもらうのか総じてサイズがデカくバイク旅には邪魔なので、一番安くてシンプルで小さなものをいただいた。
一緒に参拝時に収めるという納札もいただく。
準備を済ませたら、一番札所・霊山寺へ。
流水路と池が敷かれた風光明媚な境内を進むと、本堂が見えてきた。
お遍路では一寺院につき、本堂と大師堂の二つに参拝をするらしい。
大師堂…っていうのは、弘法大師(空海)に由来するのだろうか。お遍路自体も、大師ゆかりの地を巡るものらしいし。
それぞれに設置された納札入れに札を納めるのだが…。
「ペンがない。」
札には参拝日と住所(市まででいいらしい)、氏名を記入するのだが、納札入れには筆記具が備え付けられていなかった。
仕方がないので窓口にペンを貸してもらう。次からはペンを持って来よう。
納札。
本来は写経をした人が入れられるそうだが、それも「やり方とかわかんないんですけど…」と聞くと「なかなかそこまで熱心な方は少ないので、お経を唱えるだけでも大丈夫ですよ。」との返答だった。
…けっこうテキトーなのね。
境内を出ると、白装束に身を包んだ老人に”写真お願いします”とお願いされる。
万歳するその姿を大門と納めてあげると、「全部回ってきたんですよ」と嬉々として話してくれた。すげぇ。
「徒歩ですよね、何日ぐらいかかったんです?」
「三十…三日ですかね。」
…それってけっこう早いんじゃないか?
ご老人の体力侮るべからず……。恐れ入りながら、お納経をいただき次へ。
一緒にもらえる絵は御影(おみえ)といって、各寺院の本尊が描かれた札である。お守りなどになるそうだ。
~~
二番札所・極楽寺にはバイクで5分も経たずに着いた。
手を合わせて、名前を書いてお札を納めて…、300円を払ってご納経と御影をいただく。
………なんか早くも作業化してきた。
それにしても私だけ黒装束だが、怒られないだろうか。
三番札所・金泉寺も、ものの数分で着く。エンジンを切られるロケットⅢが「もう!?」と声を出すのが聞こえるようだった。
納経帳とお札を袂にしまって…あ。
「うわ~~マジか。」
羽織の袖に入れていた、愛用のボールペンを失くしてしまった。顔をしかめる。
「筆記具を置いていてくれれば…。」
けっこう長く使ってたんだけどな…。お遍路が有難いなんて思える心境では、なくなってしまった。
ゲンナリしながらも、次の大日寺へ。ここはけっこう山の方だ。
正直ロケットⅢがなかったら、さっきのところで私は進むのを断念しただろう。
そこから坂を下り、大イチョウが美しい地蔵寺へ。
よし、これで五つ目。300円を払って、お納経を……ん。
300円を払う…?
それってよく考えたら、けっこうな金額じゃないか?
これで五つ回ったってことは、手放したのは1,500円…。八つまで行ったら……。
「…ここぐらいに、しておこう。」
別にお納経をもらわなければいいと言ってしまえばそれまでなのだが、あまりにも金がかかる修行だ。
あの白装束だって割と色々な道具から成っているのであって、支度費も馬鹿にならない。
長旅では無論宿賃もかかるし、けっこう贅沢な行為なんだな。お遍路ってのは。
「やめだやめだァーーー!」
霊場を回り、極楽浄土へ行くためだともいうお遍路。
こんなことをのたまっている私は、地獄に落とされるかもな(笑)。
それでもペンも路銀も失ってと、痛い目に遭わされるということは私には合わないってことなんだろう。
ほんの短い間でしたが、お世話になりました。
第六札所へ向かう遍路に挨拶をし、山へと背を向けた。