逼迫
11月9日
松山2りんかんに電源を見てもらう。
結果は…やはり、ヒューズが切れているようだった。
「いろいろ試行錯誤してみたんですが…、すみません。はっきりとは原因がわかりませんね。」
配線周りをけっこう見てもらえたようだが、電源自体に異常はない様子。ショートしている箇所ももちろんないし、考えられるとすればインバーター、モバイルバッテリーの劣化による過電流か、はたまた車体のどこかに問題があるか…という、メカニックさんも悔しげな顔をする結果に終わった。
とにかく、今後は一度に使用する電源を減らしたり、朝イチの充電は避けたりなど…気休め程度に気を付けるしかないだろう。
裁縫がほどけながらも、アロンアルファでだましだまし接着して使っていたホルスターバッグを買い替え、松山のゲストハウスで暫く、休む。どうにも、もやもやした気分だった。
11月11日
参った。愛媛で、特に行きたいところが見当たらない。
とりあえず国道378で、海沿いに西へ行ってみるか…。
松山から山を越えて海へ向かう。
なんだろう。どことなく、懐かしい気持ちだ。
この別段着飾っていない田舎道は、なんとなく東北を思い出す。
海沿いも町があるわけではなく、細々と民家が点在しているだけ。
ここもまた、下北半島を駆け抜けて大間を目指している時を彷彿とさせた。
「…大間よろしく、佐田岬でも目指してみるかな……。」
もっともあの時と違って快晴なので、多少の肌寒さは感じながらも快走を続けられる。
途中でトトロ発見。眺めていると、「俺が作ったんだよ」なんておじさんが声をかけてきた。
なんでもここの小学校が廃校になる際、在学していた15名の生徒と作った力作らしい。
実はこれまでも色んな所でトトロを見ているが、ここのは思わず足を止めてしまう迫力が…ある。
地図で見るともっと距離があるように思えたが、四国の縮尺にまだ慣れてないんだろう。あっという間に八幡浜(やわたはま)へ着いてしまった。
「そーいえば宮崎で会った人に、八幡浜の段々畑見ときなって言われたなぁ…。」
さすがミカンの一大産地というだけあって、一帯の山の斜面にはどこを見ても深緑と橙の縞模様が見られる。せっかくだから食べてみようか…。
少々贅沢してもいいだろうとサイフを取り出したところで、まさかのミカン無料配布を見つけてしまう。…まぁ、タダに越したことはないか。
「うん……甘くて旨い。」
以上。
個人的には旨さよりも、ぶきっちょな私でもキレイに剥けることに驚いた。これが名品か…。
…なんか、特にやることも見つからないので、さっさと野宿場所を探す。
どうやら付近の入江に、無料のキャンプ場があるようだ。
伊方の港に入り、入江沿いに進んでいく。人気は着々と減っていった。
「ん~~~~まぁ、大丈夫だろう。」
ガードレールのない山肌の道を、ゆっくりと進んでいく。ところどころにミカン運搬用のレールが敷かれていた。眼下では何かの養殖をやっているのか、海の上に足場が組まれている。
着いた。室鼻公園である。プールなんかが設置されちゃってるが、こんなところこぞって来るものなんだろうか?
道は細くじめっとしていて、ちょっぴり心細い道だったのだが。
さて、当たり前のように人気もないので、さっさとテントを設置してしまおう。
「……ん?」
うわ。
マジかー……。
AC出力用のモバイルバッテリーが、作動しなくなっている。
…参った。
これで実質、バイクからパソコンへ電力を供給することができなくなってしまった。
「つら……。」
どうしよう、買うか? いや、これけっこうな値段だしな…。
もう旅程も少ないし、定期的に安宿で充電しつつ、行く? いやぁ不安だなぁ……。
今は考えてもしょうがないので、テントを設営してしまう。
うん、悪くない眺望だ。
それから波打ち際を歩きながら、少し思案することにした。
「GoProのときみたく、交換…とかしてくれるんだろうか……。」
できたとしても、どっかでまた郵送して交換品は実家に届けてもらって、それをまたどっかで受け取って…と、かなりの時間がかかってしまうだろう。
しかし金には変えられない、かぁ……? それまでパソコンの充電、維持できるかぁ・・・?
「結局、シガーソケットを使わなくてよくなっちゃったよ…。」
皮肉な結果に苦笑しながら、頭の中で悔し顔をしていた2りんかんスタッフを労わる。
「…それにしても……」
なんだか、無人島みたいなところだなぁ?
もちろん陸続きではあるんだが、人の気配を全く感じない。なまじ隣にプールなんていう人気があるはずの建築物があるおかげで、余計に物悲しい雰囲気である。
岬や突端はかえって観光名所だったりするから、本当に人がいない最果てっていうのは、こういう処なのかもしれない。
旅を始めて、もう9ヶ月は経った。
そりゃあ、色々と壊れる訳である……いやそれにしたって壊れすぎだが。
思案しているうちに日は傾き、ゾッとする風が背中をさすり始める。
仲間たちは力尽き、寒風はその冷気を容赦なく叩きつけ。頼れる人は、どこにも、いない。
「追い詰められてきたな……。」
逼迫とは、まさに満願が成就される兆しが見えた、その手前でやってくるものである…。