厳しい島
11月4日
寒い。
地図上では海が近いとはいえ、錦帯橋一帯は川を擁した立派な谷で、日の光を拝めるのが遅い。川上からゆるやかに流れてくる寒風が、テントで蓄えた私の体温を取り上げていってしまう。
今週は冬を先取りした気候だと聞いたが、なるほど紅葉を迎える前に落ちてしまった葉も多い。
感覚のなくなった手での撤収作業はややぎこちなく、装備品が指先に食い込むたびジンとした鈍痛が走る。
「海に出たら、多少はマシになるのかな…。」
そんな儚い期待を胸に、ロケットⅢに火を焚べた。
「…ん?」
インバーターの電源が付かない。
まさか…。
「うわーまた壊れてるやんけ!」
先日ヒューズを取り替えたばかりの電源が、またイカれている。一応自分でもヒューズを替えてみようと思ったが、”電源ケーブルのヒューズボックス、どこにあるんだ…”
チクショーもうこれは取り替えるしかない。あとでまた近くの2りんかんへ電話しよう。
釈然としないまま、広島入りを果たした。
厳島を確認できたあたりで、ロケットⅢの総走行距離が2万㎞に達したことに気付く。
…まぁ、これだけ走っているんだ、トラブルも起こるさ。
広島市に着いたら、オイル交換しような、ロケットⅢ…。
~~
“すみません、ちょっとスケジュールが空いてないですね…。”
宮島口へ到着したところで広島2りんかんへ電話を入れてみたものの、返答はネガティブなものだった。
マズイ、じゃあどこで替えてもらおう? トライアンフに電源パーツだけ持ち込んで施工してもらうか? いやでも今まで2りんかんでやってもらってきたものを、正規取扱店に持ち込むのは……。
連絡船の時間もあるので、悩むのは一旦やめて厳島へ赴く。
運賃は往復で360円と、900円かかった巌流島より遥かに安い。1,500円も払えば、バイクも持ち込めそうだった。
やはり人気が違うからだろうか。船のデッキも2階建てで大きく、揺れは少ない。
それにしても、厳島へ近づけども近づけども大鳥居の姿が見えないが……。
…まさか、あの鉄骨足場で固められたものじゃないだろうな………。
ほぼ確信に変わりつつある不安を胸に、上陸。
宮島桟橋は平安の建物を想わせる洒落たつくりだ。付近の広場もよく整備されており、松の下を鹿がのそのそと歩いている。ヒトが餌付けをしてしまったから下りて来た鹿らしく、”エサを与えないで”という注意書きがあった。
観光街を抜けて厳島神社へ向かう。
連休も終わったからってたかをくくっていたが、休みをずらす人はやはりいるのだろう。恐ろしい人の数だ。おまけに、何校もの修学旅行生たちが、通りをその制服の色で染めている。
なかなか思い通りにはいかないものである。厳しいなぁ~厳島。
そこを抜け、石灯篭が並ぶ参道へ。青い海と緑の松が目を楽しませてくれるが、我が心中は穏やかじゃなかった。
“ここを歩いていけば、見えてくる…はず、だが………。”
「いや~~~~~キビシ~~~~ッ!」
案の定、大鳥居は修繕中だった。グラバー邸といい、ついてねぇ~~。
調べると大鳥居は去年の6月から工事をしているらしく、周りからは「だいぶ見えるようになってきたねぇ」なんて声も聞こえる。どうやら地方民にとっては周知の事実だったようだ。クッ知らなかったのは俺だけか!
朝の電源の件といい、テンションはだだ下がり。それでも一応、”海の上の神社”と名高い厳島神社へと脚を引きずるのだが、
「けっこう小さいな…。」
それでもそれでも、ここまで来たのだから300円払って中へ入る。
ヘヘ…、ここも居ますねぇ、人。
それでもその気になれば人のいない写真は撮れるのが私だ。
うーんやはりこうして収めてみると、来てよかったと思える雰囲気である。さざ波の音を聴きながら参拝できるなんて、贅沢ではないか。
大鳥居が見えないのはやっぱりアレだが。
厳島の名は”神をいつきまつる島”に由来するらしく、その昔は島全体がご神体として崇められていたそうだ。
厳島神社は523年にこの地の佐伯鞍職(さえきのくらもと)って人によって創建され、その後1168年に太政大臣であった平 清盛の手によって、このような海上の寝殿造りが設けられたのだという。
平家一門は強くここを信仰していたそうで、特に清盛は1160年の参詣以降10度はここへ訪れていたらしい。どんだけお気にだったんだ。
でもそのご自慢の寝殿造りは無論壊れやすいようで、台風などで破損するたびに有志によって何度も修復されてきたそうだ。今こうして見る限りでも、シートなどがかけられた部分が目立つ。
建てたのはいいけど、かなり子孫頼みになってますよ、清盛公。
厳島神社を通り抜けて南側へ回っても、石灯篭の行列と松原は続く。
青天に恵まれてこんなに良い海なのに、ハァ……。
思わずため息が出る。
電源もどこで直そうか気がかりだし……あー考えてたら腹減ってきた。なんかガッツリ食いたいな………。
広島でガッツリといえばコレである!
本当は広島市に入ってから食べる予定だったのだが、広島”風”お好み焼きというフレーズに惹かれ、『くらわんか』なる店舗へ突撃。
大盛そばとイカ天の上に重ねられた鉄板焼き、という暴力的な見た目に違わず、味もソースの香り増し増しの粉モノというまさにB級グルメのそれである。
生憎私はこういった料理に疎いので詳しくは語れないが、箸が進むのは確か。
小さい頃、よく家庭で作ってもらったお好み焼きはどこかパサパサしていて、以来あまり好きではなかったが、その私がまた食べたいと思う舌触りの良さである。
この広島風と、本当の広島お好み焼きはどう違うのか。
検証するためにも、明日こそ広島へ食べに行くぞ、お好み焼き!