風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

4年越しの一歩

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変な気分である。

大きく感動して走り切ったこの道を、また走ることになるとは。

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市街地を何度か往復することはよくあるが、絶景道を繰り返すのは初めてだと思う。

何故だか、贅沢なんじゃないか。と感じてしまう。誰に責められるわけでもないのに、罰が悪い気分になってしまう。別に何度走ってもいいと思うんだが…。

 

多分、良い場所だからこそ、何度も味わわずに1度きりの来訪を噛みしめるべきだ、と心のどこかで想っているんだろう。

そんな、私自身知らなかった自分の一面を発掘しつつ、やまなみハイウェイを行く。

 

 

…仕方がないのだ、今日の目的地は、この先。湯布院のそのまた先にある。

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九州は来たことがない…と前に記したかもしれないが、一度だけ。たった一度だけ腰を下ろした場所が、大分にはあった。

 

渓谷を抜け日田の市街地に入り、とある病院の前へ。

「…ここだ。」

 

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済生会日田病院。

私はここに約4年前、訪れた。

当時勤めていた医療機器メーカーの仕事で、今立っているこの場所へ。

「こんなに小さかったっけ…。」

記憶の中の病院とのサイズの差異に、ちょっと戸惑う。

 

あの時は、出張研修のような形で、飛行機で連れてこられて…。訳わからん上司によくわからん理由で罵倒を受け、一人で、ここから徒歩とバスで福岡空港まで帰るハメになったんだった。

 

初夏の暑さにスーツを汗だくにしながら歩き、惨めさを痛感しながら、思ったこと。

振り返って、この景色を見て、道を見て、抱いた想い。

 

“ああ…この道を、ずうっと進み続けることができたら。

何時間経っても、日が暮れても。退屈な家にも、肩身の狭い職場にも「帰らなくちゃいけない」と思わず、ただひたすら新しい世界を追い求められたら。

 

…どんなに楽しいだろうなぁ………。”

 

 

 

 

 

 

「その想い、今叶えてるよ。あの時の俺。」

 

この先はどうなってるんだろう。

4年前踏み出せなかった足が、今、ようやく一歩目を刻んだ。

 

 

 

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あのとき想いを馳せた道は、国道212。耶馬渓へと続いていく道だった。

紅葉の名所として名高い渓谷だが、残念ながら一足早かった様子。それでも、キンと涼やかな空気を纏う川沿いで、ポツポツと赤や黄色に染まり始める山々を見ていると。いよいよ寂しい季節だな、と実感する。

 

 

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青の洞門。

そういえば、久慈のもぐらんぴあで紹介されてた気がする。最古のトンネルは手掘りだったって…、あいや、最古ではなかったか?

ともかく、以前、遠い場所で目にした写真の中の景色を、こうして実際に見ることができると感慨深い。思えば佐倉で知った臼杵摩崖仏も、実際に臼杵を訪れてその名を再び目にしたのは、7ヶ月ぶりだった。あの頃は臼杵(うすき)って読むなんてわかんなかったな……。

 

まだまだ先だな、遠いなと思っていた場所に、どんどん足跡が付いていく。

…本当に、もうしばらくしたら大詰めなんだな……。

 

 

 

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昔、ここ一帯は灌漑用水路の建設によって水位が上がっており、通行人は岩壁に設けられた鎖を命綱にして通るしかなかったそうだ。

旅をしている途中ここに立ち寄った禅海和尚は、人や馬が命を落とす光景に心を痛め、1735年より自力で岩壁を掘り始めたのだそう。第一次落成式が行われたのは、1750年とのことだ。

 

恐らく、今ロケットⅢで通っているこの道は明治に完成された洞門で、和尚が掘ったものは道の下に僅かに残っているだけのようである。

…ちなみに、和尚のその洞門は人間70円、牛馬140円と通行料をとっていたのだそう。日本最初の有料道路なのだとか。

 

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いつの制定か、新日本三景の一つでもあるらしい。この石碑の文字は、かの東郷平八郎直筆なのだそう。

…こんなとこまで来てたんすね、東郷さん…。

 

 

 

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耶馬渓を背に、中津へと向かう。福岡との県境はすぐそこだ。

もうすぐ、九州の旅も終わる。

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