湯煙
「うーん、友永パン…、たしかに旨い…。」
閉店前だというのに客が絶えない友永パン。老舗らしく昨今のように決して見た目がオシャレとかではないパンなのだが、身がしっかりとしていてなかなかに弾力と歯ごたえがある。
湯布院歩きで溜まった疲労を回復して、明日は地獄めぐりだ。
10月27日
…と、思ったのだが。
「なにぃ、けっこう金とんのな……。」
別府の地獄…高熱の湯だまりは海地獄に山地獄、かまど地獄などそこそこな数があるのだが、そのほとんどで400円ほどお金を取られるようす。それを配慮して、2,000円の共通観覧券が用意されていることだ。
行く前にすでに貧乏地獄やんけ…。
全部見る余裕はないので、隣り合っている血の池地獄と竜巻地獄を目標に別府を駆ける。
あの白煙はみんな温泉によるものなのだろうか…。
宿泊中の宿の温泉のように、名も知られず湧き出ているところが無数にあるんだろうな。
湯布院では『鶴の湯』という無料野湯の話も聞いたが、今日は山へ向かう元気はない。さっさと行って、帰って休もう。
駐車場は無料だったのが幸い。ロケットⅢを停め、まずは血の池地獄へ。
「ワオ、マジで赤いんだなぁ……!」
化学的な成分でそう見えるのだろうが、これは確かに昔の人が見たら地獄だと思いそうである。
近づいて見る。まだ朝で冷え込んでいるためか、湯煙の厚さがハンパじゃない。
煙の間からチラホラと湯面を覗くと、どうやら深くはなさそうである。
小高い展望台もあるが、湯煙のおかげで本当になんも見えない。
あと辺りにあるのは、軟膏屋と薬師様と、小さな滝と足湯ぐらい。
これで400円……、くっいい商売だ。
次、竜巻地獄へ。また400円払う。
ここは間歇泉を眺める場所だが、それが吹きあがる周期はだいたい30分ぐらいなのだそう。
私の場合、あと20分ほど待つそうだ。
吹きあがるのは手前の池か、それとも奥の祠か…。
一応、見物用に大層な数の席が用意されている。そんなに来るものなのか…。
暇なので庭園をぶらぶらし、20分後。
「そっちかーーー! やっぱそっちなのかーーーー!!」
池からゴバァーッ!って吹きあがったら楽しそうだと思ったが、案の定湯柱が立つのは祠の中だった。
吹きあがった噴泉は、窮屈そうに頭を岩屋根に打ち付けている。
朝の寒気を切り裂き、湯柱はもうもうと白煙を上げていく。…小ぶりっちゃあ小ぶりだが、やはり見るのと見ないのとでは感慨が違う。
噴泉はだいたい6~10分続くらしく、その情報通り10分が経つ頃、柱はゴボゴボと音を立て、水流が途切れ途切れになり、やがて柱は背を縮めていって……、岩盤の中へと引っ込んでいった。
「……………400円!」
まぁ…うん、見るのと見ないのとでは感慨が……ね?
「あ~今日は何食べようかなぁ~~。」
ロケットⅢに跨り帰路につく。まだ10時前だ。
脳裏に浮かぶのは、血の池地獄のあの赤。あれ見てて、正直…、酸辣湯麺しか思い出せなかったんだよね…。ああ、どうしようかなぁ~~…。