風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

初めてのカウンター寿司

1022

 

 

「彼女さんとか、いないんですか?」

「い、いきなりですね…。」

延岡にて、無事川口さんの御友人、佐藤さんとお会いする。

30歳ほどに見える体躯は長身で、服の下の肉体は頑強そうな色黒のお兄さんだった。

 

この料亭が好きだからという理由でなんと間近のアパホテルを予約していただき、元漁師の海の男が店主を務める『大周丸』でお酒をいただく。

 

「ああいや、そういうのがいたら、気ぃつかうんじゃないかなって思って。」

「気ぃつかってみたかったですけどね…いないです。けっこう頑張ったんですけどね。

 でも仰る通りです。むしろ旅の邪魔者がいないから、これは神が旅をしろと言っているんだと悟ったりしました。」

最近、茨城のシジミンにiPadでできるギャルゲーを押し付けられたりしたから、変に意識してしまった。

女なんか東京への帰り道でいっぱいつくりゃいいじゃないすか!””無理ですなんてやり取りをしながら笑っていると、炙り寿司がカウンター越しに提供される。

 

IMG_4071.jpg

「うんまぁ……!」

「うまいでしょう!」

「旅を始めて以来、初めてですよ、こんな美味い魚!」

嘘ではなかった。大きな切り身はどこを噛んでも旨味がじゅわっとにじみ出て来て、ほどよい脂っこさを持ちつつも九州の濃口醤油と合わせれば大海の鮮が咥内に広がる。美味い。

 

 

 

佐藤さんもまた、福岡で働いていた際に川口さんと出逢い、色々と助けていただいたのだという。

「大切な人から紹介された人なんで、もっと大切にしなきゃと思って。」

「ありがとうございます…!」

なんて粋すぎる言葉を言える人なのだろうか。

「今日この時のために、食生活とかも合わせてきてるんですよ。」

ガタイが良く見えたのは間違っていなかったようで、彼は今筋トレで日本一を目指しているそうだ。なんと体育大学出身なのだという。

筋トレの食生活もじつに千差万別で、佐藤さんの場合なん日かに一回はこうして好きなだけ食べていい日を設けているのだという。

糖質20g以下、水1日6ℓ……。私には想像もできない、過酷な世界があった。

プロテインは動物性のものだと体臭が臭くなるなど、面白い小話も聞いたりする。

「いいですねそういう、自分の体が目に見えて強くなっていくのがわかるって。自己研鑽ですね。」

山形でお会いした泉さんの、パルクール世界一の娘さんを思い出す。

「田舎なんですることないんすよ! 釣りか、筋トレぐらいっすね!」

「あと宮崎は肉に魚に野菜になんでも旨いよ! あ、高千穂のは止めといた方がいいけど…。」

店主もお話に混ざって、絶品料理に舌鼓を打ちながらちびちびとアルコールを摂取する。

 

 

「いやぁでも、スゴいと思いますよ。普通の人なら多分、出かけてすぐ帰ってきちゃうと思いますもん。」

「いえいえ、大したもんじゃないですよ…。」

今でこそ慣れたが、たしかに旅に出始めたころは不安で気が狂いそうだった。

「旅を終えた次は、何する予定なんです?」

「んー…そうですね……。」

この旅で得られたことを、何らかの形で残したいとは思う。あとは海外に向けて語学も勉強したいし…。具体的な施策はまだ宙ぶらりんだったが、方針は定まっていた。

「まだ方法は明確にしてないんですけど…。後輩たちに、この旅で得られたものを伝える何かをしたいとは思いますね。

 旅に出なさいって言うつもりはないですけど、ちょっと勇気を出せば非日常が待っているとか、日本は広いとか……、変な話、イジメられて辛いなら、さっさと逃げ出してみれば案外理想郷に出逢えたりとか……。」

熱ばかりが先回りして、上手く言葉にできない。

「あー、それは同意見ですね。辛いならさっさと逃げ出しちゃっていいと思います。逃げるっていいことですよ。それをダメな行為だと思ってるうちは…、まだまだ修行が足りないってことだと思うっす。」

それでも佐藤さんは、うんうんと頷いてくれた。

 

そう。生き抜く手段というもの、心の安息を手に入れる方法というものは、見いだせる人は簡単に見いだせるが、そうでない人もたくさんいる。

私は運よく前者だっただけで…。その幸運から得られたものを、少しでも不器用な人に伝えてあげたい。自己啓発本みたいなああしなさいこうしなさいじゃなくて、ただただ大丈夫だって誰か一人にでも言ってやれたら……………

 

………どうなんだ?

あれ、頭が。

 

 

IMG_4072.jpg

「ほんとーに酒弱いんすね! 川口さんのご紹介だから、てっきり強いかと思ってました!(笑)」

「そうですね、元々……ですし、旅中ではそう機会も……。」

 

お腹もたくさんになったところで、お会計をしていただき暖簾をくぐる。

 

「じゃー、今日はゆっくり休んでください!」

「本当に、ありがとうございました! またご縁があれば…。」

「多分、案外すぐに会えますよ!」

言い残し、佐藤さんはビルの合間へと消えていく。

……そうだなぁ…、ほんと、九州はまた来るべき理由が盛りだくさんになってしまったよ。

Leave a reply






管理者にだけ表示を許可する