岩と波の彫刻
鬼の洗濯板に面した道の駅フェニックス。
周辺に住宅地もなくカーブも少ないためか、日付が変わってもけたたましいエンジンの駆動音と排気音、そしてパリピの笑い声が聞こえてくる。…今日って休日だったっけ?
「宮崎の人は元気あるんだな……。」
10月21日
おかげさまで今日は眠い。が、のんびりしているつもりはない。
今日は長崎の川口さんにご紹介いただいた、延岡の御友人の元へ伺いに行く予定である。
県南から県北まで一気に移動する形となるが、明日は雨の予定だし道中気になるところもない。行っちゃっていいだろう。
良い朝日だし眠気覚ましに套路をしていたら、FAZER乗りのお兄さんに「スゴいですね!」と声をかけていただいた。
続いてロケットⅢも賞賛していただいて写真まで撮っていただき、なんだか気恥ずかしい気分になる。
「こっから延岡なら……日向にクルスの海っていうところがありますよ! 岩の間の海がちょうど十字に見えるところでして…。あとはー、んー…龍の形に見える洞窟とか…ありますけど、ちょっとあてつけっぽいですかね。」
おお、面白そうだ。
今日は青島ぐらいしか見る予定がなかったので、情報に感謝してお別れをする。
青島へは徒歩でしか渡れず、駐車場は有料だった。そして今日も波は荒い。
ならばさっさと日向へ向かってしまおう。
遠目に青島を見ていたら今度はBMW乗りのおじさんに話しかけられ、四国の情報をいただく。ホクホクだ。
宮崎の市街地が近づいてくると、ヤシの木…っぽいやつが無数に連なっているのが目を引く。おもしれー…。
おお、ハワイだハワイ!
地方の県庁らしい”豪勢な”とはいえない町だが、この木々が連なる光景だけでも十分ウリになりそうである。
“シーガイア”の看板を横目に、国道10号を北へ。
~~
2時間ほど走って日向市に入り、県道15号へ折れるとなんか神秘的な海が見えてきた。
小ぶりな海岸沿いのワインディングを上り、クルスの海展望台へ。
「おーマジで十字架じゃん!」
柱状岩が波に侵食されできた巨大な十字架が、目の前に横たわっている。
てっきりもっと”言われてみれば…”というレベルかと思っていただけに、その完成度に感嘆する。
ここで祈りを捧げると願いが叶う…という言い伝えも、真実味を帯びて見える荘厳さだ。近くにあった鐘をカランカランと鳴らし、旅の成就を祈願した。
動きの遅い通り雨に打たれながら、日向岬をちょっと南下し今度は大御神社へ。
石柱の灯篭が、なんだか重々しい。
今まで見てきた温かく迎えてくれる荘厳さではなく、”気を引き締めろ”って感じの神秘さ。天気のせいだろうか…。
海岸に建つ本殿。小ぶりだが、出雲大社で見たような造詣にちょっと気後れする。
皇祖天照御神を御祭神とする神社で、民からは昔から”日向のお伊勢さま”と崇敬されてきたらしい。
この神社、その本殿もすごいが、さらにインパクトがあるのが。
奇岩の群れとそれに打ち寄せる波のいや迫力のあること。
今日は昨日と違い、風はない。それでも葛飾北斎チックにこうも波がうねっているのは、やはり地域性によるものなのだろうか。
左側に並んでいるのは柱状岩で、右はさざれ石の群れである。
国家”君が代”で名高いさざれ石は鹿島神宮など全国に点在しているが、ここのものは日本最大級なのだそうである。
さざれ石から逆方向へ進み、今度は鵜戸神社へ向かう。FAZERの兄さんが言っていた、洞窟の龍を見るのだ。
海沿いに進むこちらの参道も、どこか冷たい荘厳さである。
一帯は城址でもあるらしく、堀切の跡も見られた。
「え、ここ進むの…?」
道、狭くねぇ? バックパックつっかえないかな…。
例の如く現れるフナムシの群れに耐えながら岩壁を進むと、仄暗い大口が眼前に現れる。
これは…………ちょっと怖いぞ(笑)
覗くと赤い鳥居が見えるから、あの洞窟こそ鵜戸神社、またの名を竜宮と呼ばれるもので間違いないだろう。
足を滑らせないよう岩肌を下り、波打ち際へ立つ。
でかい。
垂水遺跡を思い出す寂しさと神秘さだ。
さざなみが反響する暗闇へ足を踏み入れていき、鳥居をくぐると奥の宮に辿り着く。
“ここから入り口を振り返って下さい。”
…さて、本当に龍はいるのか。FAZER兄さんのいうとおり、あてつけなのか。
期待と不安を胸中で渦巻かせながら、ゆっくりと後ろを振り返る。
見えた。
「見えたよ……俺には見える!」
たしかにあてつけと呼べなくもない形だが、私の目にははっきりと天に昇る白龍の姿が見えた。
暗闇のキャンバスが覆う眼前を、陽光が雷の如く切り裂いて目を細ませる。
神々しい…。
これは…、昔の人がここで龍を崇めたというのも、納得できる光景だ。
波と岩と、それから光が生み出した彫像。人の手に負えない自然の重々しい力が、ここではひしひしと感じられる。
「やっぱ自然様には敵わんなぁ……。」
手の届かない寂しさを痛感しつつも、眺めていられる幸福に身を震わせる。
しばらくずっと、穴の中で怒濤の音に心を寄せた。