昇天
前回より
10月7日
一旦カルデラへ降りて、阿蘇山の方へ向かう。
んーんなんて雄大な景色なんだ。なんて雄大な……!
だが、両手を上げては喜べなかった。
何故か唐突に、SIMカードを読み込まなくなってしまったiPad Pro。何度抜き差ししても、再起動しても結果は変わらない。
何故かGPSは働くらしく地図が見れたのは幸いだったが、”故障か…?”という不安がぬぐい切れず、阿蘇の大自然に100%感動できない。
再び麓の森を抜け、視界が開けたと思いきや標高を一気に上げる快走路へと導かれる。
「くっそーーーーーーーーー!
iPadさえ無事ならばーーーーーーーーー!!!」
どれほど気持ちが良かっただろうか。
グングングングン標高が上がる。カルデラの町はどんどんどんどん小さくなっていく。
なんていうことだ、これはもう、昇天だ。昇天していくかのような道である。
疲れと不安と感動が入り混じって、もう頭の中は真っ白であった。ここは天国か?
ここが草千里。
まさに、千里に渡って草が続いている。
いや、走ってきた者ならわかる。この草はこの山のみならず、先ほどの大観峰はおろかはるか先まで、万里以上にわたってつながっているのだ。
たかだか何十数㎝もの草が、寄り集まればここまで感動できるものか。
活動中の様子もしっかりと拝める。故郷は福島の、吾妻山を思い出すなぁ。
そこからはひたすら一気に下り、国道325へと降りて57号に戻る。
本当は南阿蘇の道の駅に世話になる予定だったが、だったが……。
~~
auショップにて
「ICカードの不良の可能性もありますので、違うSIMカードで試してみますね。」
「はい…。」
頼む、頼む…! これで動いてくれ、SIMカードの不良であってくれ………!
「あ…、やっぱりダメですね………。」
現実は非情だった。
なんでだ…、先代が故障して交換してから、まだ1年しか経ってないじゃあないか………。
「修理か、新しく購入かになりますが…。」
「……買います。」
保証は切れているし、Appleのことだ、修理代も馬鹿にならんしそのくせ戻ってくるのも遅いだろう。
あと数日すれば沖縄に入る身だ、貴重なナビゲーターを失うのは避けたい…。
ひとまず、一番安いモデルを提示していただいた。
第8世代だが、ボリュームダウンの10.2インチ……容量も32GB………。
ふぅーーーーーっ………。
金………。
まぁ………、仕方あるまいよ。
そういえば今日は、何も食べてなかったな……。
隣にあったおぐらの唐揚で、唐揚げから肉汁を滴らせる。
…私だって、涙を滴らせたい気分だ………。
“木村さん、今年は後厄ですね”
なんて旅立ち前に淵野辺のバーで言われたことを思い出す。
GoProにカメラ、パソコン、そしていよいよiPadだと………?
おかしい、おかしいだろ……!
そりゃあいつもと違って過酷な環境では使っているだろうが、ここまで一気にことごとく無惨に、壊れるか……!?
「つら…」
auで手続きをしていたから、もう辺りは真っ暗だ。今晩、どうしよう…。
野宿場所、ひいてはスパ銭を探し、夜の熊本市を疾走する。
「あはは、あはははははは……!」
ヤバイ。マジでおかしくなってる。
慌てて一旦バイクを停め、平静を装った。
深呼吸しろ、深呼吸を………。
落ち着け。
考えろ、ひとまず前のiPadも、家庭で使えるだけまだマシじゃあないか。たまたま寄ったauにiPadの在庫があったのも不幸中の幸いだ……。
まだ旅が続けられなくなったわけじゃあ、ない。
「戦え、戦え…。進み続けろ、生き延びねば………。」
自暴自棄になっていた頭を、夜風に当ててとにかく冷やした。
「…こんなときだからこそ、休んだ方がいいな……。」
損失が生じたからと、混乱状態のまま野宿をしてさらにミスを犯したらたまらない。
例の如くGoToトラベルを使い、付近の一番安い宿を探した。
…もう駄目だ、熊本は、ちょっと休もう………。
「ちょっと低いですけど、大丈夫ですネー」
受付で検温されたときに言われた一言が、今のコンディションを物語っていた。