風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

一期一会②

前回より

 

104

634分……。」

涼しくなって寝やすくなったからか、明らかに睡眠時間が伸びている。

テントを出てみると、昨晩のおじさんは……、さすがバードウォッチング、もういないか。

田園風景になんとなく似合いそうだから、『銀の龍の背に乗って』を聴きながら出発した。

 

今日は北山の方に無料キャンプ場があるみたいだから、そこにさっさと入ってプリンでも食べようかな。

と、その前にだ。

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「捨ててください、って言われたけど、やっぱり捨てられないよなぁ…。」

川口夫妻にいただいたお弁当のタッパを、次会う時に返そうと実家に送っておくことにした。溜まってしまったパンフレット類と共に、佐賀中央郵便局でレターパックを送る。

 

バイクに戻って来てゴソゴソやっていると、自転車に乗ったおばさんに声をかけられた。

「一人で、旅をしてらっしゃるんですか?」

「あ、ハイ。そうです。」

「あ~そう! 声をかけてよかった! 失礼だけど、最初女の子かどうか迷って。そっかぁ男の子だものね、野宿とかできますものね。」

私も男だったら、ついていきたいぐらいだわ~!と、上機嫌で讃えてくれるおばちゃん。前は友人と自転車で長崎へ行ったりもしたらしく、今日も家から40分自転車を漕いで来たそうだ。

「最近は趣味で木工なんかをしたりしてるんですけど、次はバルーンアートに挑戦してみようと思いまして。すぐそこにバルーンミュージアムがあるんですよ。」

ああ、そういえばそんな看板あったなぁ。

お気をつけてと別れたが、まだキャンプ場入りするのには早いし、自分もちょっと行ってみることにした。

 

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佐賀市内ではうっすら紅葉が始まってきている。日はもう短い。

 

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「おおー…。」

ミュージアムは有料なので深入りはしなかったが、入り口にある気球模型を間近で見るだけでも来た甲斐はある。

「すごいですよね、この下で火をボウボウ燃やして、飛ぶんですよ。よく考えつきますよねぇ。」

先ほどのおばさんとも合流できた。

たしかに。今でこそ当たり前な発想になったが、布と火で大空へ飛び出そうなんて、常人の発想ではない。

私はね、このバルーンをサッカーボール模様にしたいんですよと目をキラキラさせながらおばさんは語っている。

「そうだ、ここはお土産売り場もあるんですよ。これも何かの縁、何か佐賀のお土産、プレゼントしますよ!」

「えっいいんですか!?

「バイクですから、キーホルダーとかがいいですかね、旅の途中に甘味料も欲しいでしょう。今晩のおかずがない? だったら……。」

 

 

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結局、バルーンフェスティバル2020(コロナの影響で開催はできなかったが)の記念ピンバッジと松浦漬け(クジラの軟骨を精製したもの)に店員さんお勧めの肉味噌、ブラックモンブランを買っていただいた。ありがてぇ……!

さらに、

「今見てみたら、もう11時半なんですね。よかったらお昼どうです? 元気でますよ。」

「えっと、すみません…! お名前だけでも先に…!」

「イチノセと申します。」

近くの百貨店のレストラン街に入り、中華をご馳走していただいた。

 

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結局、長崎ではちゃんぽん食べられなかったんですよねーなんて話したら、長崎のじゃないけれどと自分のちゃんぽんを小鉢に取り分けてくれる。

「うまっ…。」

 

食べてる最中、おばさんの右耳にイヤホンが付いているのに気が付く。

「なんだと思います? 長渕 剛さんなんですよ。想像つかないなんて言われたりもするんですが、もうライブに連れてってもらってから大好きでー。」

あとはフジコ・ヘミングも入っているらしい。何か好きな歌手、いらっしゃいます?と言われ、反射的にJUJUと答えたくなったが、そういえば朝聴いたなと「中島みゆきさんとか。」と答える。するとおばさんも好きらしく、少し話が弾んだ。

 

なかなかいいセンスのおばさんである。つば広の帽子をかぶり、赤いレンズのサングラスから覗ける眼差しは、上品さを感じた。

聞くとまだ仕事をしているらしく、それはなんと化学薬品の取り扱いなのだそう。

「せっかくだから引き継いでみたいって、子供の化学の教科書を引っ張り出したりして。化学式なんか覚えなくてもいいんですけどね。

 まだ取引してくださるお客様もいますから、今までのぶんを還元できれば、と打ち合わせもしてるんです。打ち合わせ、って言ってもおしゃべりみたいになっちゃうんですけどね。」

少々、察してはいたが。旦那様は、もう亡くなってしまっているのだそう。

木工やバルーンアートに挑戦してみたりと気力ある日々を送ってはいるが、ただやっぱり、もう一度会いたいもんですとポツリ、こぼしてらした。

つばの下から、少し寂しそうな顔が見え隠れする。

 

「でも、そういう話、絶対に取引先とかにはしないんですよ。いつも私しか行かないから、流石に気付いてらっしゃると思いますけど。

 仕事の場ですから。お涙頂戴な雰囲気にしたくないですものね。察せられていても、私が言わなければ。旦那のいた雰囲気で継続できますものね。」

「……なんというか、カッコいいですね。」

「いえいえ、そんな。他にも苦労してらっしゃる方はいっぱいいらっしゃいますよ。」

 

確かにそうだろうが、このおばさんは、誇っていい。

愛する人をずっと愛し、孫たちと笑いあい、自転車も漕いで趣味にまっすぐ。何より、こんなに元気に笑っていらっしゃる。

カッコいい。傷だらけなようで、その分だけなんて輝いているお方なんだろう。

 

 

 

「これから感じたこと、よく伝えて、共有してください。誰に何と言われても、他人に迷惑かけないかぎり自由なので。

 影ながら、応援させていただきますよ。」

互いにおじぎをして、お別れする。

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写真は苦手って言ってたから、ごめんなさい。後ろ姿だけでも。

 

 

私の名刺を渡せはしたけど、イチノセさんの連絡先は聞いていない。

 

一期一会

たかだか20画の四字熟語の重みが、ズウン、と胸にのしかかる。

「また、会いたいもんだな。」

 



 

 

人間好きに なりたいために

旅を続けて ゆくのでしょう?

                                        中島みゆき

 

 

 

~~

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「グワーッ!!」

ついてねぇ。

工事中なのは知っていたが、こんな砂利っ砂利になっているとは。これはロケットⅢじゃちと恐いぞ…。

キャンプ場諦めて引き返そうか? ああしかし、もう下り坂まで差し掛かってて転回もままならん…。キャンプ場に助けを呼びに行くか…。

頭を抱えていると、こんな山奥を散歩中のご夫婦が通りがかる。

「重装備ですねぇー。」

「ええ、旅をしてまして……、ちょっと今、この道をどうクリアーしようか悩んでたんですよ。」

「よかったら押しましょうか?」

ありがたい、ありがたい…! 押し歩きのスピードなら、なんとか通れそうだ。聞けば別ルートもあるらしく、帰りはそちらを通ってみてはとのこと。

 

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福岡からよく散歩に来るご夫婦、ありがとうございますっ!!

 

さて、管理棟で受付を済まし。

「すみません、別ルートもあるって聞いたんですけど、どちらから出られます?」

「いや、別ルートは自転車専用なので、あの一本だけですね。」

……マジか………!

 

 

 

 

「じゃあ、また僕、押しますよ。」

「スミマセン…本当にスミマセン……!」

キャンプサイトで先ほどのご夫婦と合流すると、旦那さんは腕を回して手伝いを申し出てくれた。

ここでのキャンプは諦め、手伝ってくれる方がいるうちに脱出することにする。

 

うんしょ、うんしょとエンジンをかけながら、まさしく牛歩で砂利道を上る。

途中、向かいから来たお兄さんも参加し、4人がかりで2,294㏄を坂の上に無事押し上げた。

「ほんっとうにありがとうございました………!」

「あなた、昨日と一昨日も多分見てますもの。佐賀にいましたよね?」

と対向車のお兄さん。

ヤベェ、俺そんなに派手なことしちゃってたか? 俺有名人になっちゃう……??

 

あまりにも人の厚意が凄すぎて混乱している私に、気を付けてと声をかけて別れるひと時の共同体。

ご夫婦の旦那さんに山中キャンプ場なる付近の場所も教えていただいたが、後ほど調べたら当日予約不可とのことだったので、昨晩の道の駅まで戻ることにする。

 

 

とくに観光などもせず、ただただ人のお世話になって一周しただけの一日。

 

一期一会。

彼らに恩返しできる機会すらも、今後ないのかもしれない。

ならばせめて、この旅を完遂させよう。それがささやかながらできる、精一杯の恩返しだ。

 

この旅は、もはや私だけの旅ではない。

そんな血沸く実感を、噛みしめた一日であった。

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