一期一会①
10月3日
神埼から佐賀市の方面へ戻り、また有明海に近づいて見る。
一面は住宅地から田畑が広がる地平線となり、その行き止まりには『干潟よか公園』があった。干潟よか…、干潟いいよってこと?(本来は東”与賀”干潟らしい)
堤防を上ってみると、ラムサール条約湿地・東よか干潟が臨めた。
なぁるほどぉ…、干潟って地味なイメージだったが、かなり痛快な光景だ。
見渡す限りの海、なんて景色は案外いろんな場所で見れるもんだが、ここの海は波がない。時が止まったような、海の砂漠とでも呼べる空間が延々と広がっている。
堤防の長さも、計り知れない。
丁重に縄で囲われているのは、シチメンソウ。塩水に耐える塩生植物であり、国内では有明海沿岸にのみ自生する希少種なのだ。
歩ける足場と干潟の間は柵で仕切られているが、その高低差はほぼないといってもよく、手の届く距離(届かないが)で干潟の生態系が眺められる。
実際、目と鼻の先では色々な生き物が楽しげにワラワラ動いている。トビハゼに…、お、シオマネキもいる…! 初めて見た……。
夕闇が近づくにつれ、黄金に輝く干潟。
もう少し夕暮れを眺めていたい気もしたが、まだ寝床が決まっていないのでその場を後にする。
そんな気持ちを察してくれたのか、黄金の秋が私を見送ってくれた。
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白石の道の駅に落ち着き、米を作っていると「ここで寝るんですか?」と声をかけられる。
一瞬怒られるか?とビクついたが、穏やかな笑顔で立つおじさんを見てすぐ安心した。
「ええ、ちょっと厄介になろうかと。」
「あー、芝生もちょうどよくあるし、良かったですねぇ。」
そういう場所を狙って探しているので、必然であったりもするのだが。
聞いてみるとおじさんも今晩はここで車中泊するらしく、なんでも今日明日かけて干潟を飛ぶ何百羽の中の一羽を写真に収めたいとのことだ。
「さっき干潟見てきましたが、私の目では一羽も見つけられませんでしたよ。」
「満潮じゃないといないんですよ。潮が満ちると、すぐそばで見られますよ。
ここは北と違って、潮が何キロも引きますから。潮干狩りの規模なんかすごいですよ、トラックでガーッとやるときもあるぐらいで。」
熊本でも潮干狩りは見られるらしい。機会があれば、拝んでみたいなぁ。東日本生まれ東日本育ちの私には想像できない話に、目を輝かせて聞き入ってしまった。
「ただ、水門ができたりして。生態系も随分と変わっちゃいましたけどね。見てきました? 長崎の水門。」
「あ、見ました見ました。すごい規模でしたねぇ。」
「人は良かれと思って地形を変えるけれそ、必ずそのしわ寄せはどっかにいきますからね。人間は気付かなくても、鳥たちはそういうのに敏感に気付きます。
だから人間も、ちょっと我慢しなくちゃいけないんでしょうけどね…、国がやることですから、止めろと言う訳にもいきませんし。」
と、苦笑しながらおじさんは笑い、”これ食べて”とチョコレートをくれたのであった。
続く