風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

雲仙

我ながら、調子のいい男である。

昨晩の別れ際、「困ったら電話しな」という川口夫妻のお言葉に甘えて、家に転がり込ませていただいていた。

 

“写真を撮るなら”と長崎の夜景をオススメされ、伊佐山を旦那さんのベンツで上っていく。

カーブをいなしながら語っていただいた彼の波乱万丈な人生譚を聞くと、つくづく思う。

「自分なんて、いろいろ経験したと思い込んでるだけで…まだまだなんですよね。」

旦那さんは口の端にしわを作りながら、

「でも、出会いだと思うよ。大事なのは。木村くんみたいに旅してりゃ、いろんな人と会うと思うんだ。そうすればいろんな世界を知れるし、新しい関係も持てるしさ。」

「ええ。ほんと、人の話を聞くのって。大事だなぁって最近痛感してます。

 多分、旅に出ないで会社勤めしてたら、川口さんの話も、前田店長の話も、いろーんな人の話も聞けなかった。自分の周りだけの世界しか知らないままかんけつしていたと思うんです。

 今晩もそうですが、自分の知らない世界の物語が聞けて、なんだか…、言葉にできないですが、暖かくなりました。」

 

 

 

「うおお、すげぇ〜〜〜!」

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坂で波打つ、光の波。

あの光の下で、幾人という人がそれぞれの物語を歩んでいる。

“世界何億人という人の分だけ世界があるなんて思うと、気が遠くなりますね”

そんななんてことのない雑言を、川口さんは笑って聞いてくれていた。

 

 

 

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…と、まぁ小説や映画の世界であればここで深々とおじぎし、別れの挨拶をするところだが。

「よかったら今晩も泊まってきなよ。」

と言っていただけたので、そりゃあもう深々と頭を下げて

「ありがとうございます!」と感嘆の息を吐いたのであった。

 

「今日はどこ行くんだい?」

「雲仙に行ってみようかと。」

雲仙普賢岳。そんな名前を、生徒時代に教科書で見た人もいるのではないだろうか。

火山のモデルとして有名なその山を、ここまで来たのだからひと目見ておきたかった。

「それなら国道207で、大村湾を眺めながらいくと気持ちいいと思うよ。ちと道は悪いけど。」

「わかりましたっ。」

 

 

やはり地元民の情報は確実だ。

たしかに細く神経を使う道ではあったが、

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多良見地区。なかなかの絶景道である。

ミカンだろうか。果樹園がそこそこ急峻な坂にいくつも設営されており、その坂が入江へと流れている。付近の人工物といったらその持ち主であろう農家だけで、エンジンを切ればさざ波の音が聞こえそうなぐらい静かだった。

 

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秋になってからよく見かける曼殊沙華で、季節外れのアゲハチョウが何匹も遊んでいた。

本日もいいお日和ですわね””羽もいつもより軽いですわ

蝶々夫人……、なんちて。

 

 

207号から57号へと入ると、いよいよ雲仙岳が見えてくる。

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なるほど、デカい…。そしていびつな形だ。

名の通り雲を戴くそれを見ていると、あれに近づいてよいのかと躊躇う気持ちすら湧き出てしまう。

 

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広域農道の雲仙グリーンロードで、島原半島の北側へ。

雲仙のなだらかな斜面には無数の畑や田んぼがあり、風通しのいい景色は北海道を彷彿とさせる。

 

 

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それから国道389に折れ、雲仙天草国立公園に北から南へと一気に斬り込む。はてさてどんな険しい道なんだろうか。

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…と思ったが、カーブも路面も案外普通でラクに走れた。

ただし周りは樹木に囲まれ、時折雲仙岳と思われるものは見られるものの、すぐに見失ってしまう。ただただ坂道続きで標高ばかりが上がっていく状態に、今自分はどこにいるのかわからない不安はある。

 

 

恐らく道路のてっぺんあたりまで上ってきた。が、雲仙岳は見えない。どこいった……。

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ただし見下ろせば足がすくむほどの山岳と海洋が眺められ、初めて見た九州の山景色にしばらく圧巻とさせられていた。

 

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ここより上は、関係者のみ立ち入れる模様。

よく考えたら火山だものな、管理厳しいのかも。

 

 

雲仙の写真が撮りたいのだが…どこかないものか。

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雲仙温泉街に寄り道しておしどりの池越しに見てみても、遠くから見えたあの雄々しい姿は見当たらない。

 

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代わりに見られたのは名物の地獄。ここは隠れキリシタンだった清七が処刑された場所で、彼が死んだ後にこの噴気が出たというから清七地獄というんだって。名づけられてどんな気分なんだろか清七さん。

 

 

坂を下りながら振り返れども振り返れども、あの姿は見えない。

ヤキモキしながら国道57号を下り続け、ついに住宅が見えるところまで下りてしまう。

うわー、せっかく来たのにな…。

まさに雲をつかむが如く、その姿を捉えられなかった。

 

と、諦めの文を考えていたその時。視界の端に、堂々と鎮座する岩山が見えた。

「撮らなきゃ」

下りすぎてしまったから、少し標高を上げないと良いのが撮れない。岩山の方へ向けた、普段なら絶対通らない名もなき細坂へハンドルを切り、ひたすら上る。

いけるとこまで、いけ、ロケットⅢ…!

 

 

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ダメだ。

ここまでが限界である。この先は、道が細い…。

 

それでも、なんとか押さえられた。雲仙普賢岳の荒涼とした姿……。

ん? 雲仙岳? 普賢岳? どっちなんだ………? まぁ、いいか。

入り込みすぎたため転回するのに汗をかいたが、それに見合うものは手に入れられた。

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さぁ、帰ろうっ。

 

 

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有明海を眺めながら、川口婦人にいただいたおにぎりを食べて帰路につく。

珍しく門限があるから、なかなか納得できる画は撮れなかったし、雲仙や島原について学習もしなかったけれど…。それでも帰る場所があるという安堵感の方が、不満よりも幾倍も大きかった。

 

長崎。島と坂と、火山と海と、そして人々。

みんな、一級品の出逢いを楽しめた。また来たいな、また来よう、長崎

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