風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

さだめ

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結局二晩を過ごすことになった江迎の町は、昼やってる飲食店が見当たらないぐらいの田舎町。

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それでもまぁ、川を眺めながら食べる弁当も美味しかったし、落ち着くとこだった。

 

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山を上った先にある天龍姫大神講社に、お世話になりましたと告げ町を後にする。カッコいい名前だけど御由緒は不明。

昨日はけっこうバイク操作で疲れたし、今日は長崎市手前まで流すだけでいいかな。

 

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げ。旅の始めから記録してたトリップメーター、いつの間にかカンストしてるし。

まぁ、オドの記録も取ってあるから。後で計算すればいいか……。

 

 

ひとまずは昨日と同じく佐々のコンビニでバッテリーが届くのを待ち、過ごす。

昨日母に言われたことが、もし神崎鼻でバッテリーを失くしていなかったら、生月には行かなかったことになるのだろう。そういう運命なんだよと言われた。運命ねぇ…。

 

座り込んでいると、旅人ですか?とおばちゃんに声をかけられ、なんやかんや話して名刺を渡す(売名する)と自慢できます~!と言われる。

そんな、大層な者じゃないんだけどな、私。

そういえば、大バエ岬で出逢ったライダーにも写真撮っていいですかって言われた。名刺をお渡ししたら、喜ばれた。

…なんだろう、私にも変な雰囲気が出始めているのかな。いや自意識過剰か……。

そんなことを考えていると、コンビニの店員にも話しかけられる。

うーん………。

 

どうでもいいや、とバッテリーを受け取り佐世保市街へ。

 

 

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佐世保の中心はなかなかの街並みだった。まぁしかし今日はダレていたので、流すだけ。

あ、佐世保バーガー食べ忘れたな。

 

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その後は国道204から206へ移り、南下。道中、戦時中に使われたという針尾送信所を見つけられた。

近づく気力は残っていなかったが、遠目に見ても田舎にそびえたつ3本のコンクリート塔は、異様な光景である。

 

 

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琴海に入り、大村湾の穏やかな水面を眺めながら小さな公園に着く。今日はここでいいかな。

 

 

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…と、テントを張る前に。道路の反対側に、奇妙な店を発見してしまった。

こんな人気のない場所に、店? わざわざ? これは…、入らねばなるまい。

 

小屋のような店舗はアメリカ雑貨を売っているお店らしく、入ると個人的に好きなミリタリーグッズなんかもあったりして、思わず手に取って眺めてしまった。

すると、店長より「旅されてるんですか?」とのお声がけが。

 

「はい、日本中を回ってます。」

「おお…。いえ、ここに店構えてると、いろんな旅人が寄って行ってくれたりして。そんな方たちと話すのが好きなんですよ。」

私の服装が特徴的だったらしく、思わず話しかけてくれたそう。

「よかったらコーヒー一杯、いかがですか?」

「いただきます。」

 

 

 

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『OH,ME』店長の前田さん。

23歳のときにひょんな機会から渡米して以来アメリカ好きになってしまい、この仕事を始めたのだそうだ。

「海外行くと、自分はよそ者だし、言葉は通じないし。弱者だってことを痛感するんだよね。でもその実感から成長できたことはすごくあると思う。

 バンコク行ったこともあるんだけど、行く前はあー暑くて汚そうな場所だなぁって思ってたんだけど、行ったらメチャクチャいいところで。あーだこーだ言う前に、自分で行ってみないとわかんないよねー。」

と、自身の経験を語ってくださる。

私にとって海外はまだ未知の領域なので、目を輝かせて聞いていた。

 

「…でも最近って、旅する若者ってあんまりいないよね。」

と、折に触れてこぼす。

 

そうなのだ、全くと言う訳ではないが、今の世の中、なかなかレールを踏み外そうとする若者はいない。だからこそ、

「だから、そんな後輩たちに向けて、本当はこんな冒険ができる世の中なんだよ、意外と面白いんだよってことを自ら証明したいですね。」

と我ながら大言を吐いてしまう。

店長はそんな壮語を笑わず、「すばらしい。」と言ってくれた。

木村君みたいに、着物を着てなんて自分のスタイルを貫き通して、レールを外れて、求道をするその姿、カッコいいよ、と言ってくださった。

 

 

 

たまらなく嬉しい。

と共に、納得してしまった。

ああ、旅を始めて半年。自惚れではなく、真に旅人らしい風格が私にも身についてこれたのだな。だから、話しかけてくださる方も嬉しそうだったのかもしれない。

 

 

 

店長もまた、ある意味後輩を勇気づける意味もあってこんな場所に店舗を置いているらしく、彼曰く実験とのこと。

「だってさ、こんな夜中になったら真っ暗闇で何も見えないところに、ポツンと灯りが一つあったら。ロマンじゃない?」

それで通りがかった人がこんなところでも店開けるんだ!と知ってくれたら、うれしくない?という感じである。

 

私と店長は、共通点があると思う。

漫画やアニメみたいな世界が、本当に実在することを周りの人に知らしめたい。ロマンを追い求めてもいいんだということを、認識してもらいたい。

そんな願いが、互いにあるような気がした。

 

 

「僕のこの店舗経営もまた、一つの旅だと思うの。

 これやってると色々な知らない人にも会えるし、動いていなくても初めての経験がいっぱいある。何より動く旅はいつか終わりが来るけど、これは僕が諦めない限り終わらない。」

「動かない旅、ですか…。」

なるほどなぁ……。そんな旅もあったのか。

やはり同族は、ハッとすることを話してくれるなぁ。

 

 

互いに、心地のいい会話を暫く続けていると、

「実はもうすぐ僕の誕生日で、懇意にしてくださってるご夫婦がそれを祝ってくれるんだけど……。よかったら、来る?

 そんで今晩は泊まりなよ!」

と仰ってくださる。

もちろん、甘えさせていただいた。

 

 

~~

 

 

「うおお………、何ヶ月ぶりの………!?

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ステーキだ。美味い、美味すぎる。涙がこぼれそうだ…。

「遠慮せずに一杯食ってな。嫌いなものがあれば遠慮せず言っていいよ。九州の人はそういうの全然気にせんから。」

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食事に1名加わることを快く受け入れてくださった、川口夫妻。

店長に話したように、修行の旅をしているのだとか、2,300㏄のバイクに乗っているんだとか。しょうもない身の上話を、笑顔でうんうんと聞いてくださる。

 

「だってさ、こんな出で立ちで旅ですよ!? こりゃーもう話しかけるしかないな、と思ったんですよ!」

と店長が熱弁してくださる。

「実は私も、これは入るしかない店だな、って思いまして…。」

「すごいねー、たまたま食事会をするって日に、旅人が舞い込むなんて。」

「ほんと。運命だったんだよ、運命。」

 

運命。

俄かには信じがたいが、確かにこの出会いは。

科学で説明できない何がしかの力が、働いているとしか思えない偶然であった。そんな不思議な状態をつまみに酒をあおれば、自然と笑みがこぼれてしまう。

 

「いやもう、武士だよ武士。日本の魂を見た。」

今まで侍モドキだと称していた自分にとって、この上ない誉め言葉です。

 

「是非、海外に行ってほしいなぁ。行くべき人間だ。」

絶対行きます。行って、新しい世界を見て。また、それをお話したいです。

 

「宮崎、沖縄の人たちはホント良い人ばっかだよー!」

ごめんなさい。

今の私にとっては……、あなた方が良い人すぎます。

 

投げかけてくれる言葉のどれもが全てが、旅を生き抜いてきた心にジンと染みわたる。涙腺が緩む。

他にも、他にも、いろいろな事を何時間もかけて話したのだけれど。それはもう、筆を動かして表せないことばかり。忘れた訳じゃないよ、だからいつか、口伝で話させていただきたい。

 

ただ一つ言えることは、本当に、本当に人間っていうのは、やっぱり良いなぁって思う一夜だったということだ。

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