バッテリー岬
9月27日
伊万里で目覚める。
雲が早い…。寝ている間には、何度も通り雨に遭った。たまたまそういう天気なのかもしれないが、やはり九州はそういう気候なのだろうか。
国道204号沿いに進み、長崎へ入る。佐賀はまた往路で散策しよう。
本日目指すのは佐世保は神崎鼻岬。日本本土最西端の地だ。たまたま佐世保にも安く泊まれるホテルがあったので、今日はそこに身を落ち着ける予定。
204号沿いに平戸へ向かってもよかったが、日曜を楽しむ人々でごった返す前に岬へ行きたい。松浦から県道40号へ折れ、山道を突っ切り佐々までショートカットする。
204へ再び合流して間もなく、今度は県道18号へ分岐し小佐々へ。
気は早いが、岬手前にある土産物市で最西端証明書をゲット。さらに進んで、今度は名もなき村道へ分岐すれば最西端は目の前だ。
岬のある楠泊は、小さな漁村といった雰囲気。だがこのとおり船舶は多く付近には集合住宅もあるほど家があるので、寂れた場所ってわけではなさそうだ。
そんな住宅地の間を縫っていくと、ようやく岬駐車場に到達する。宗谷岬とは違って入り組んだ場所にあり、ちょっと面白い。ここからは徒歩だ。
同タイミングで着いた車の夫婦に「お気をつけて」なんてお言葉をいただきながら、最西端のモニュメントへ向かって歩く。歩道は禄剛崎を思い出す急斜で、少々キツい。
道は海中遊歩道なる方面へも分岐しており、後から気付いたがこちらからも最西端へ行けるようだ。
距離が短いのが救いか、1分も歩けば坂から階段が分岐し、その先を見下ろすと。
「見えた。あれが本土最西端か。」
思わずニンマリしながら駆け寄り、モニュメントをまじまじと見る。
『日本本土最西端の地』。金の文字が美しい。宗谷岬では曇りだったが、本日は快晴。海の色も相まって爽快な景色である。
最北端でもそうしたように自撮りをしようと思ったが、付近に先客が居たため待機することに。
カメラをホルスターへ掛けようとした、その時。
ホルスターに引っ掛け損ない、カメラが落下挙動に移る。慌てて目の端でカメラを掴もうとするが、叶わずカメラは宙を舞う。
しまった。こういう時に限って、脱落防止用ベルトを着けていない。
「ガランッガランッガラ、ガラガラ………」
視界の外で、何とも痛々しい音が響いた。
…マジかー………。
慌ててモニュメントの階段を下り、岩場へ。
“ここに来て、ここまで来てそんな………!”
岩場の底、漂着物が堆積している辺りには、見るも無残な姿になった愛機が転がっていた。
息を吐く間もなく散乱物を拾い集め、頭を整理しようと落ち着くことを試みる。
レンズフードが割れてしまっている。レンズフィルターも、少し傷ついているか。
けっこうな高さから落ちたのだ、残念ながらレンズもまた…いやそれどころか、本体も…。
恐る恐る電源を入れようとしたが、バッテリーが外れてなくなってしまっている。辺りを見回しても見つからない。ひとまず、予備のバッテリーで動作確認を……って、こういうときに限ってバイクに置いてきてしまったか、もう!
駐車場に戻り、バッテリーを差し込んで電源を入れてみる。
問題なく起動。
焦点をあちこちズラし、撮影。
レンズも正常に働いている。
「よかったぁ…。」
しかし何故だ、けっこうな衝撃だったぞ? 何故壊れてないんだ………。
…まぁ、持ち主に似るってことだろう。今後ガタが来る可能性は高いが、よく耐えてくれた、EOS
M6。
フレームが歪んでしまったのか、液晶のチルド機構の動きがぎこちなくなったのは残念だが。それよりも気になるのは…。
「カメラ、大丈夫でしたか?」
モニュメントまで戻ると、近くで一部始終を見ていた旅人が声をかけてくれた。
「ええ、機能面は…。ただ、バッテリーがどっかに飛んでいってしまいまして…。」
カメラをよく使う人ならわかるかもしれないが、本体は落下など強い衝撃を受けると、バッテリーのフタが外れて酷い時はバッテリーが飛んで行ってしまう。
これだけの距離を落下したのだから、掌に収まるそれがどこに飛んで行ったのか、予想し探し当てるのは至難を極める。
心配してくれた方と話していたもう一人の旅人も一緒に岩場を覗き込んでくれたが、見つけるのは不可能だろう。
「諦めます、ケガをしても困りますし…。」
バッテリーなら、また買えばいい。
ひとまず自撮りを…と三脚を取り出したら、今度はポケットからGoproのバッテリーボックスが飛び出し、崖下へ。そんな…!
傷だらけになったバッテリーボックス。まぁ、こっちは大丈夫だろうが……、おかしくない? この岬。
ムシャクシャしながら写真を撮って、その場を後にした。
すぐにAmazonでレンズフードとバッテリーを注文し、近くのコンビニへ配送。こんな作業も慣れたものである。
~~
10分後。
やっぱり、諦めきれない。
Uターンして、公園に戻ってきていた。
3つストックしてあるバッテリーのうち、なくしたのはよりによってキャノンの純正。本体購入時から苦楽を共にしてきた、一つだ。
本格的に探しもしないで、諦められるワケがない。
岩場に入り込み、岩を上り、木を掴み、手すりを越え、崖を覗き、目を丸くして石と木の葉の中を探した。
探した。
探したが………、
「ダメだ………。」
見つからない。30分以上ねばったが、ダメだ。
遭難者の捜索を打ち切る気持ちが分かる気がする。
「スマン………。」
恨みったらしく崖下を見つめ、再度、その場を後にする。
”神崎鼻でカメラのバッテリー見つけたら、届けてください…”なんちて。
ここはもう、バッテリー岬と名付けよう。
公園はモニュメントの先にも続いているようだったが、なんだかもうここには長居したくない。
佐世保の軍港も…、舞鶴でも鎮守府は見たし、今日はいいや。今日はあまり、動かない方がいい気がする。
去り行きざまに見た海の青色が、今までになく悲しく思えたのであった。