海を走る
9月20日
うーん…。
無料キャンプ場を見つけたから来てみたが、やはり4連休。予想通りの混雑ぶりである。
あまりの混みように”戻って駐車場で野宿しようか”と本気で一瞬迷ったが、せっかく受付をしたので駐車場に近い場所にテントを張る。
ついでにハンモックを張って、そこで寝ることにした。さすがに秋というだけあって深夜に寒さで目が覚めたが、子供に「見てあのハンモックスゴい」と言われるのは悪い気分ではない。
寒さよりも気になるのは、周りのファミリーキャンパーたちの声に薪割りの音にいびきに焚火の臭いに焼肉の香りだ。街灯がそこそこあるのにも関わらず、ヘッドランプを煌々と輝かせて寝ている横を通り過ぎる輩もいる。夜目は使えないのか夜目は。
おまけに電波状況も悪く、島の星山の記事も上げられなかった。
“これじゃあ、キャンプ場より道の駅の方がマシかもな…。”
そう思ってしまう私は、もう立派な放浪人だろうか。
9月21日
山口へ。
痛快な天気である。昨日もそうだったが、連休を楽しむにはうってつけすぎる陽気だ。
青い海に空、爽やかな秋風、手を振るライダーたち、長旅を労ってくれるスタンドの人。
このまま角島まで行ってしまいたかったが、さすがに距離があるため道の駅 阿武町でひとっ風呂浴び、近場の公園で寝る。
ここは道の駅発祥の地らしいが、では新潟は豊栄にあった”道の駅発祥の地”の石碑はなんだったのだろうか。真相は謎のまま。
そして、
9月22日
いよいよ今日は角島大橋だ。
もう朝は肌寒い時期でシュラフを脱ぐのをためらったが、今日まだ連休中。人でごった返す大橋は嫌だと思い、また劈掛拳の練習をサボッてさっさと国道191を南下する。
6時前に起きたのには、角島の前に寄ってみたい場所があったのもある。
山口の島といえばそれこそ角島のイメージだが、そこから油谷の半島を挟んだ東に、青海島なる素敵な名前の島があるのだ。そこが気になる。行ってみたい。
金子みすゞで有名な長門は仙崎の町から、青海島へ渡り入江沿いを走る。陸奥や能登、京丹後で見られたような内海がここにもあって、それはやはり寂しいほど静かである。7時ということもあって車通りも少なく、一帯に響くのはロケットⅢの3気筒音のみ。
島の先っちょにあたる通(かよい)地区に来てみると、船着き場を囲むようにけっこう家があった。堤防には釣り人達が多く立っている。
ここは昔捕鯨を行っていた村らしく、町内には鯨の墓が建立されているそう。墓地には七十数体の鯨の胎児が、まだ見ぬ大海の夢を抱いたまま永眠しているのだとか。
“来たはいいけど、なんもないのかな…”
これなら角島に直行した方がよかったか。
造船所を境に、道もなんだか行き止まりチックになる。納得できないので、歩いて進んでみる。草木がはみ出た急坂を上っていくと、風化した道の雰囲気とは裏腹に白く輝く看板を発見。
「日露兵士の墓…。」
そんな国際的なものがこんな辺鄙な地にあるのに疑問を抱いたが、それよりもこの獣道のようなものの先に、ホントにあるのか疑念を抱く。が、迷わず突っ込んでみた。
草で覆われた道にはよく見ると石が敷かれており、確かに道であることはわかる。が、蔦が頭上から幾本も垂れ下がる様子を見るに、人が頻繁に通る場所だとは思えない。
それでも30歩も進めば光が見え、海岸が目に入った。
おお…。なかなかいい隠れた名所じゃないか……。
ゴミが流れ着いてはいるが、浜の曲線は美しく日当たりもよし。海は青く、大洋側のこちらは内海と違って白波が心地いい波音を立てている。
振り返れば、あった。慰霊碑が。
あるのは、日露戦争の際に玄界灘でロシア軍に撃沈された常陸丸遭難者の墓碑と、同じく日露戦争の際に散華した露艦兵士の墓碑。
どちらの遺体も、この大越浜に流れ着いたことからここに慰霊碑が建っているとのことだ。
冷たく暗い海で死に、こんな地の果てみたいなところに流れ着いたとは…。どちらの英霊も、さぞ無念だったろう。必要戦争だのなんだの論ずる人はいるが、こんな人知れず何千人も死ぬなんて惨事は、やはりおかしい。
手を合わせ、その場を後にした。
~~
さあ、角島だ。
もう9時半。やっぱり人は多いが、海に架かる大橋を前にしては興奮が冷めやらない。
“写真はおいといて、早く走ろうよ!”と私のライダーの心臓がうるさい。だから、カメラはほどほどにしてハンドルを握る。
「おほぉ~~~~~~!」
見た目通りの爽快さだ。
今日は幸い風も弱く、煽られる心配もない。右を見れば海、左を見ても海、まさしく空と海の間を、じつに1分以上も走れるこの感動よ。
GoProも働かせてみたが、こりゃあ実際に走らんとわからんだろうなぁ…。
せっかくなので、道がつながる島の先まで行ってみる。先に言っておくと特に語る事はない。
突端付近の角島灯台。付近の駐車場は有料だったので、辺りを流すだけに留める。
灯台周辺の道路には一方通行の区間があり、時計回りに走らねば周れない。突端付近は、稚内を思い出すような荒涼とした、最果て感のある雰囲気であった。
レストランなども気にはなったが、どーせ高いからさっさと戻る。
地味に絶景の、角島大橋の奥にある橋。
角島はたしかにキャンプ場などはあるが、別に滞在するほどの場所でもない、というのが面白い。本当に、ただ橋を渡る。走るという行為だけを目当てとする観光地は、潔いものではなかろうか。
山口には復路でも訪れるから、明日には九州へ渡り、また人の声賑やかな街に入る。その前に良い心の滋養ができた。
…その前に、台風12号をなんとかいなさにゃならんのだが……。どうしよう。