シーズン・イン・ザ・サン
大山から米子へ降りた後、山陰道の無料区間を使って琴浦まで一旦後退。
激安で見つかったビジネスホテルで2泊し、疲れを取る。
1泊あたり1,000円と少し。その秘密は、部屋がドミトリールームだからであった。
しかしコロナの影響で一人しか入れないため、人間一人に対しベッド四つという変な体験に。
シャワーとランドリーで気分爽快。
“ま、またすぐ汗だくになるんだろうが…”と苦笑いしながらバイクに跨った私を迎えたのは、蒸し蒸しとしないサラリとした涼風だった。
9月16日
インナーを着ていない素肌に、ややこたえる冷ややかな風。
思えば最近は寝袋が必要になる夜が多かったが、それは雨とか山の麓でキャンプしていたからだと思っていた。
が、やはりもう。すぐそばまで来ているのだ。
秋風に吹かれながら国道9号線を西へ。辺りになにもないような景色が見えてくると、ふと胸がやや締め付けられた。
子供の頃、日が暮れ、風が冷え。帰らなくちゃいけない時間なのに、もう簡単には帰れない場所まで来てしまった、あの感じ。東北の青森方面と同じく、きっとここからはまた最果てに近い雰囲気になっていくのだろう。
“また、おいそれと関東へは帰れない距離まで来てしまったな。”
今度は汗の代わりに、身の震えが敵となる。気を引き締めなおした。
米子でGoPro復活。
シンガポールから送られた交換品はなんと8月20日には日本に来ていたらしいが、送り先が明記されていなかったらしく以来ずっと放置されていたそう。大丈夫なのか、UPSとヤマト運輸。
もうちょっと早く連絡しておけば…と後悔の念は尽きないが、そんなことをしていてもしょうがない。今は、また動画が撮れるようになったことを喜ぼう。
前のものは暑さでやられたのだろうか。だったら、もう涼しくなってきたし大丈夫だろう。
そう、暑さももうないから…。
「…。」
9号線から431号線へ折れ、米子駐屯地で恐らくKLXを使ったバイク訓練を見かけたり、ゲゲゲの鬼太郎の看板を見かけたりして胸を躍らせながら、境港に到着。
昔CMで話題になった江島大橋(通称ベタ踏み坂)を越えれば、島根入りだ。
このベタ踏み坂、実際走ってみるとそこまで急こう配ではない(ましてや鳥取→島根方面だと下り坂となる)のだが、遠くから望遠レンズを使い、圧縮レンズを使って撮影すると…。
こうなる。一種のおばけ坂なのだ。
そんな江島大橋が架かっているのは、中島に浮かぶ工業地帯。そこから細長く伸びている、さながら海の上を走るが如き県道338を通り、また国道431へ合流する。
奥に見えるのは恐らく大山、そして江島大橋。曇りのお陰で中海は底知れぬ昏さをたたえており、静かに小波を揺らしている。
「さて、ここからどうしようか。」
あんまり島根も詳しくはないんだよな…。
明日から雨予報も連なっているし、とりあえずは出雲大社に近づいておこう。
松江を通り過ぎ、今度は宍道湖沿いを走る。どう考えてもこの字で”しんじこ”とは読まないだろう…。
曇り。風は強くも弱くもない。中海と同じく宍道湖も静かなもので、無表情で佇んでいる。
つまらない。
今までのようにカッと熱い日差しもないので、余計に張り合いがない。
勿論、夏が過ぎ去ってくれるのは嬉しいことなのだが、あまりにも急すぎないだろうか。
緩やかに緩やかに秋に移り変わるのではなく、手を叩くが如く一瞬で変わってしまったではないか。
あの寝苦しい暑さにも、煩い虫共にも、まだ文句の一つも言っていない。
厳しく長かった今年の夏を想い出しながら、虫の音の残響に耳を傾ける。
「もうちょっと、惜しむ時間ぐらいくれてもよかったんじゃあないかなぁ…。」
Season in the sun
夏よ逃げないでくれ