俺たちはドリーマー
9月7日
…さて、テントも張ったことだし、さっきパソコンにダウンロードしておいた曲でもウォークマンに入れるか…。
パソコンを立ち上げる。
1分後に電源が落ちる。
「…あれ?」
「不具合かな。まぁいいや、再起動~っと…。」
また落ちる。
何度やっても、落ちる。
え? え? なんで?
故障した?
ウソだろ?
Gopro、カメラに引き続き、パソコンまで?
オイオイどーすんだこれ、何も書けなくなっちまうぞ…。
目の前が真っ暗になる、という表現がどのようなものか、わかった。
何も書けない。
それは、私にとって旅ができないとも同義のこと。
「なんで、なんでこんな試練ばっかり俺が…。」
思わず弱音を吐いてしまう。
マウスのサポートセンターに問い合わせても、
“残念ですが、データは削除されてしまう可能性が高く…”
とのこと。アテにならない。
近くに信用できそうなパソコン修理屋は…。神戸にパソコンドック24か…。
そこまで行くしかないのか? もしそこでも、データ削除なんて言われてしまったらどうする………?
悩んでいる間に、横ではテントに”キャンプ禁止”なんて張り紙が貼られている。知るか。今はそれどころじゃない。
どうする…どうする………。
ひとまず、思い当たる節は自分で処理してみるか。
最近やったいつもと違うことといえば…、さっきiTunesを開いたな…。
結果的に、それが原因だったのかはわからないのだが。
ネットにつなぎiTunesのキャッシュをクリアしてあげたら、症状は収まった。
「うあ~~~~~~~~~~、マジでよかったぁ…。」
木村峻佑、今までにない安堵の嵐。
と同時に、また再発するのではないかという不安もあるが…。信じるしかあるまい。
パソコンを休ませ、テントの中で人目を忍び晩飯を食っていると。外からなにやら軽快な音楽とともに、韻を踏む歌が聞こえてきた。
“おお、ラップってやつ? 初めてナマで聴いた…。”
思わず這い出てみると、広々とした公園の街灯の下、二人の若者が手を動かしつつ韻を紡いでいた。
1曲終わったところで、拍手と共に話しかけてみる。
「すごい。それって自分で作ってるの?」
「あ、ハイ。即興で歌ってるんですよ。」
すげぇ。即興であんなに語句がペラペラと出てくるものなのか。
私も一応文に携わっている者とはいえ、一語一語を(一応)吟味しながら文字を紡いでいる身。到底分野が違う。尊敬してしまった。
夜中の公園に三人。座り込み、暫く語り合うことになった。
彼らはまだ高校3年生の歳だそうで、どちらも来年には就職予定だそう。左の子は料理人として、右の子は音楽家としての道を歩むそうだ。ラップは共通の趣味で始めたものだそうで、なんとまだ2ヶ月だそう。2ヶ月にしてはサマになってたなぁ。
「小4のときに観たドラマに憧れて、シェフになろうって夢を持ったんですよ…」
「今まではなんでも中途半端だったんですけど、音楽に関しては熱心に取り組めて。頑張って曲とか作ったりしてるんです…」
出で立ちこそ俗にいう”チャラい”ってやつだが、自分のやっていること、やりたいことを詰まることなく話せている彼らの弁には、確かな熱意を感じられた。
それがどうにも嬉しくて、私もいらん経験談を話してしまったりする。
「いいね、いいよ。自分のやりたいことをやってんじゃん、二人とも! 大学なんか行かなくていいよ!
俺もさ、高専出てから大学行かず、就職先も2ヶ月で辞めて。そのときはコンプレックスやばかったよ。…でも、自分の好きな分野で一応は生きていけてる今なら、もし同窓会に参加したとしても胸張れる。
金稼いだり、結婚することより、胸の張れる自分でいるほうがよっぽどいいよ!」
私如きが恐縮なのだが、同じく母子家庭だという彼らの境遇に自分を重ね合わせてしまい、ついつい話過ぎてしまった。
が、そんなつまらない話を二人は真剣に聞いてくれている。
「ごめんね、なんか偉そうに話しちゃって…。」
「いえ、自分こういうの好きなんで。人生の先輩に、いろいろ教えてもらうの。」
次いで、こう言ってくれた。
「旅して、自分の好きなことして生きて…、カッコいいっす。」
カッコいい。
はぁ………。
最高の誉め言葉だ。
「ありがとう、ありがとう。君らも超カッコいいよ。まだ高3でしょ? 絶対俺なんかよりビッグになれるよ。頑張って。自分を信じて、何言われても頑張って。」
若干涙ぐみながら、精一杯応援した。
“今の若い子らってさ。あんまり夢とか持たないじゃない?”
そんな、昔のとある会話を思い出す。でも。
「よかった…、よかった。今でも、ちゃんと夢を持ってる若者たちがいて。」
そんな後輩たちを、少しでも勇気づけられて。よかった。
パソコンが一時不調になったことで、逆にわかった。普通に文を紡ぎながら旅ができることの、いかに恵まれていることか。
夢を持つ若者たちに出逢えて、元気をもらった。まだまだこの世界、捨てたもんじゃないぞと。
俺も、がんばらなくっちゃ!