疲労
「いやぁ、素晴らしい。」
“充電禁止”なる張り紙はよく見かけるが、”充電できます”とは。さすが極楽湯。この地にしかない温泉と迷ったが、やはり大手は違った。
しかも飯も安くてうまい。もうこれは、旅人の友だね、極楽湯は。
8月25日
そんなこんなで浴場で1日過ごし、白山の道の駅で目を覚ます。
涼しい。山の方だからかな…。
劈掛拳の練習をしても、いつもほど汗が流れない。
練習を見かけてくださった仕事前のお兄さんに”もう一回、見せて”と言われても、苦にならなかった。
国道360号を、海方面へ。加賀何万石なんて言葉を思い出させる田園の中を、中学生たちが自転車にまたがって走っている。
「夏休みも、もうとっくに終わってんだよなぁ…。」
夏の終わりは、近いのかもしれない。
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県道148、143、140と石川の海沿いを走っていき、福井県へ。
白山から勝山へ抜けていっても良かったが、やはり海を見ていたかった。
福井は…、今までの人生で、一度も訪れたことがない。
というか、ここから西はそういう県が多くなる。お得意の”昔家族旅行で来た…”という文句も、ほぼ使わなくなるだろう。
地図を開くと、近くに”東尋坊”なるよく聞く地名を見つけたので、行ってみることに。
東尋坊を擁する三国。ひまわりを見ることができた。
夏が終わる前に、彼らを見れてよかった。
東尋坊と言えば自殺の名所だなんて聞かされていて、どんな殺風景な場所なんだろうと思ったらけっこう…というかかなり観光地化されていた。
駐車場もあるが、どこも有料。二輪車は200円だったが、普通車500円は高いだろう。
自殺する人たちもあれかな、お金払うのかな。
駐車場のおじさんに「暑そうだね、歩くと暑いよ?」と声を掛けられる。
「慣れてますんで。」
店舗の中にいたおばちゃんに、「重たそうだねー、荷物置いてったら?」と声を掛けられる。
「慣れてますんで。」
商店街の通りで、おばちゃんに「今日あっついねー! 水一杯あげるよ! 待ってて!」と水を頂く。
「慣れてま…ありがとうございます。」
確かに、山から海へ出ると”まだ終わっちゃいねぇ”といわんばかりの暑さが再沸してきたので水は助かるが。こう、商店街の人たちに気を遣われると、”何か買わなければ”という心理が働いてしまうので困る。まぁ、それも慣れているから何も買わないんだが。
東尋坊到着。
うーん…。
どう撮ればいいかわからんな。
約1,200~1,300万年前にできた火山岩が、日本海の波浪で侵食されできた岩々。ここまでの規模の柱状節理安山岩は日本でもここ一ヶ所だけで、世界でも他には朝鮮半島の金剛山、スカンジナビアはノルウェーの西海岸ぐらいだそう。
そう聞くとすごい場所なんだなとは思うが、ギザギザと海に突き出た岩場は陸からは絵にしづらく、なんとも苦慮してしまった。遊覧船に乗って、海から眺めればまた違うのだろうが。
ちなみに”東尋坊”と聞くと人の名のように思えるがまさしくその通りで、永禄の時代に荒くれ者の悪僧兵を束ねていた東尋坊という暴僧が、ライバルの真柄覚念とここで酒盛りをした際、酔っぱらった隙を突かれて突き落とされてしまったんだそう。海は49日大荒れし、それからその名が付けられたんだとか。
「バカだねぇ~」なんて考えながら良いアングルを模索していると、ブーツ越しにジワジワと岩のでっぱりが主張してくる感じがする。
岐阜城でもあったな…。ブーツをひっくり返してみる。
「うわぁ…さすがにそうなるか。」
踵の辺りは穴が空き、そうでないところももう溝なんて残ってないじゃないか。苦労してんなぁ俺とお前。
「こりゃもう、防水性は期待できんな。」
ま…、やれるとこまでやってみるさ。
観光客があまりいない方へ移動してみる。すると、明らかに簡単に踏み入れられる断崖絶壁を発見した。
「もし実行するとしたら…、こういうとこが都合いいだろうな。」
そういえば観光客がひしめいている辺りも、潔いほど手すりなどが置いてなかった。あれでは、望んでいなくても自殺してしまう人が出そうである。
先端まではいかなくとも、ちょっと覗いてみる。こええ。
ここに飛び込む勇気を、何故生きる方へ向けられなかったのか…なんてのは詭弁だな、決死の覚悟なんてまず大抵の人には理解できるものではない。
借金とか、失恋とか、なんかやらかしちゃったとか…。自業自得の人もいれば、限りなく理不尽に追い込められた人もいれば…。”生きてりゃなんとかなる”なんてこと、皆わかってたんだろうな。わかってたけど、そのなんとかするのが苦しすぎるほど辛かったから、そうなっちゃったんだろうな。
ふと、湯殿山で見た即身仏が脳裏をよぎる。
「でもやっぱり、生きてりゃなんかは残せたよ。」
あんたらを責めるつもりはない。俺は恵まれているだけかもしれないから。だから、あんたらも俺を妬まないでくれ。割とこうして、頑張ってんだから。
岩場から商店街の方へ上がっていくと、なんだか妙に息が上がる。ヒザも少し痛い。
靴もそうだが…。私自身、蓄積してるものがあるのか?
それとも…………。ま、そんときは共に旅を楽しめばいいさ。