風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

最高の堤防

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「ヤバイな…。」

ひたすら能登半島を北へ突き進んできたが、あまりにもテントを張れそうな場所がない。

実は訳あって今日は珠洲まで行けないため、限られた範囲でキャンプ地を探さねばならない葛藤に、14時ごろながら焦っていた。

 

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国道は内地に入り込んでしまったため、心の支えの青い海も見えない。

 

なんかないか、なんか…。

地図をかき回していると、国道から離れた海沿いに一点、気になる場所を見つけられた。

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「らいだーずまりん…、ライダーズカフェか!」

調べてみると、テントサイトも併設しているらしい。

出費になってしまうが、たまにはいいか…。

舵を九十九湾方面へ、向けた。

 

 

 

~~

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「そーなんですかぁー! 山続きで海が恋しくて!

 どうぞ外に出てみて、すっごく気持ちいいよ。」

 

 

「うっおおお…!」

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「贅沢ってのは、こういうもんを言うんですねぇ…!」

なんて素晴らしい立地なんだ。正に、真に、オーシャンビューではないか。

形容じゃなく手の届く場所に青があり、その中では他のお客さんが気持ちよさげに泳いでいる。

こっから何処へだって行けてしまいそう。そんな形をしている堤防だ。

 

 

PEACE Riders Marine Base』。

ここでテントを張らせていただくことに決めて、日没までの時間を過ごすことにした。

 

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他のお客さんが獲ってきてくれたサザエや(おそらく)アカニシガイ食べたりして、マスターのプライベートビーチを満喫する。

 

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マスターの大場さん。小麦色の肌と威勢のいい挨拶、屈託のない笑顔で出迎えてくれた。もちろん、彼女自身もハーレー乗りだ。

 

 

あとはまぁ、予想はしていたが衣服を指摘され早速サムライと名付けられてしまったので、店にあった手作り木刀を以て居合の型や、劈掛拳の套路を披露させていただいたりした。

「こんな重い木刀振り回せるなんてすごいですね~。

 でもあたしも、昔剣道やったときは相手をなぎ倒してましたよ。」

と一緒に見ていたスタッフの女性。

「アンタは力づくでねじ伏せてたんでしょうよ。」

それにマスターが笑いながらツッコむ。

「いえいえ、実際、先ず大事なのは小手先の技術より、心の強さとか腕っぷしですよ。」

というのは私の持論である。どんなに役に立つ技を極めたところで、いざ命の獲り合いをしたとき、臆して体が委縮していては何もできない。技術云々を持ち出すのは、心の強さが互いに拮抗してからだ。

「心ねぇ…、うん、その通りだよ。

 基本大事なのは、心が逞しいとか、勇気があるとか、行動力があるとか…。そういうことだと思う。心が強ければ無敵だね! あとはまぁ、個性かな!」

と相槌を打ってくれるマスター。豪快な口調で言われると、説得力がありすぎるな。


…そうか…そうだよな、もしかしたらこの旅も、心を強くしたいか始めたのかもしれない………。

 

 

それから暫く、マスターと堤防に座り込み、夕暮れに傾く海を見ながら時を過ごした。

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「能登は、なーんもないところだよね。でも、それが魅力。自然のままというか、不便さを楽しむっていうかさ。

 そんな能登には、むかしっから憧れてたんだよねー。」

たしかに何もないなーと思いながら突っ走ってきたので、同意してしまうところがあった。

「出身はどこだったんですか?」

「金沢。同じ兵庫なんだけどさ、そっからここまで2時間ぐらいかかるんだよね。それで能登全周を周ろうと思ったらさ、やっぱり1日じゃ足りないのよ。」

「あーけっこう遠いんですね、金沢…。」

「そう。

 アタシは元々料理人だったから、どこかにカフェは出したいなーとは元々考えてたのね。

 でも、そんな経験もあってここにひと休みできる場所があったらいいよなーと思って、ライダーズハウスとして店を出したってワケ。そしたらけっこう反響があってさー。よかったよ。」

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シェフのマスターが作ったとろとろ卵のハヤシライスは、確かに絶品であった。


「ほーそうだったんですか…。」

ここに泊まる事にしてよかった。と、心の底で思った。

 

 

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「時期が違うと、ここから沈む夕陽が見られるんだ。夏場だと、山の向こうなんだけどね。それはそれで、真っ赤に染まる雲がブアーッと見えてさぁ。

 日によって波の動きも違うし、面白いんだよね。飽きない?なんてたまに言われるけどさ、もうっぜんっぜん飽きない!」

更には、今までに2度、蜃気楼も見れたらしい。「もう朝起きたら、海の向こうにビルがグァーッて建ってて! うわぁーすごいなんかデッカイ豪華客船があるー!なんて騒いじゃってさぁ。」と興奮気味に話してくれた。

 

「俺もいつか家を建てるなら、海のそばって決めてるんですよ。すっごく羨ましいなぁ。」

「あっ海好きなんだ。」

「ええ、やっぱり海の近くで生まれたから、ですかね。山も好きなんですが、やっぱり海なし県だと妙に心細くなっちゃう時があって。」

海なし県には申し訳ないが、事実である。マスターは笑いながら聞いていた。

「だからもう、今のマスターの生活は、俺の憧れそのものですよ。」

「そーなんだ。へへアタシも海だぁいすきだったから!

 海の中で生活したいと思ってたぐらいだもん! こう、ガラス張りの水槽みたいなの作ってさ、気圧調整して浮上できるようにして。浮上したら買い出ししたり、釣りしたりして。それで、また海に潜って料理して…!

 …ま、50年後にはできるかもね、そんなことも。」

子どものような目をして、往時の夢を楽しげに語り続けるマスター。

…素敵な方だ。

 

 

 

~~

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その夜。

NM4に乗ってきた壮年のお客さんと話しながら、堤防に寝転がって満天の星空を見物していた。

おじさんは薬剤学を学ぶ一家のお父さんだそうで、息子さん娘さんともども、私とは違い熱心に勉強する家庭。だから、お互いにそんな世界があるんだとため息をつきながら、思い出話、これからの話を語り合う。

その中で、おじさんはこんなことを言っていた。

「もし今、タイムマシーンがあってさ、3,000万出したらキミと同じ25歳に戻してあげるよって言われたら、迷わず使うね。後悔いっぱいだからさ。

 逆に言うと、今の君には、3,000万の価値があるってことなんだよ。」

旅の途中で若いっていいねとは幾度も言われたが、ハッとさせられたのは初めてだった。

 

きっと年をとれば、こう言われた意味ももっと理解できるのだろうが…。理解したとしても、同情するような境遇にはなりたくないな。そう、声をかけてくれた方々のためにも、俺は、後悔しない人生を過ごしたい。

「…なるほど………。」

 

 

 

「天の川なんて、初めて見ましたよ。」

「俺も、いつぶりかなぁ。こんなに気持ちよく星を見たの。

 昔はさ、あー暑さ早く終わんねーかなー、来年の夏はなにしよーかなー。なんて思ってたけどさ、今はこう思っちゃうもん。あと何回、夏があるんだろうな…って。」

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