風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

砺波にて

 

 

結局、海王丸のライトアップまで数時間、公園でぼーっとしていた。

このぼーっとしている時間が、旅の中では少々苦痛である。

 

遠くまで来たな。とか、まだ先は長いな。とか、今夜もテント張るの面倒だな。とか。

自分は今、何をしているんだろうとか、思考をせずにはいられない。頭を空にできない。

よっぽど、走り続けたり、歩き続けたりしている時間のほうがマシというものだ。

 

嫌な意味で、孤独感をひどく感じてしまう。こういう時、旅のモチベーションが下がってしまう…。

 

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そしてもう一つ、困った点が。

一ヶ所に長く留まれば留まるほど、別れ際が切なくなる。

「また来るよ。」

"また来てね、海王丸パークに"と掲げられた看板が、妙に寂しく見えた。 



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甘寧一番乗り。

 

実はこの前、この銭湯で1時間かけて会員登録をしていたおかげで、入館料無料のクーポンが届いていた。

せっかくまた砺波の近くへ戻ってきたのだから、今日もここでゆっくりしよう、という魂胆だったのである。

 

風呂に浸かり、漫画を読み、フリードリンクを飲んでくつろいでいると。自分が旅人であることを忘れてしまう。そして折に触れて、ハッと自分の境遇に気付く。そんな時間を繰り返していた。

 

 

~~

 

「おぉ、良かった開放されてた。」

日が暮れたあたりで、『砺波チューリップ公園』近くの、大ミミズに会った多目的広場に舞い戻る。今日も、ここに世話になろう…。

 

テントを設営し、荷物も放り込んで、しばし夜風に当たって体を冷やそうとロケットⅢにもたれかかると。

「あれ? 前の方ですよね? ここ気に入ったんですか?」

「あ、はいー。」

ヤバイ、恐れていたことが起きてしまった。前もここで野宿していたのを、見ていた人がいたのだ。その人に、また同じとこでテントを張っているのを見られるのは悪印象…!

「いやぁー、前母から、北海道行ったとかなんとか聞きまして。お話聞きたかったんですよー。」

お?

「宵の供に、ビールでも持ってきますよ!」

 

 

 

「いただきます。」

「どうぞどうぞ。」

50代ほどに見える男性と共に、缶ビールのプルタブをひねった。

どうやら彼は、先日ここを出る際チューリップの季節にまた来てねと声をかけてくれたおばあさんの息子さんらしい。そういえばあの時、近くで除草作業をしてる男の人がいたな。

「除草が終わったら私も話聞いてみようと思ってたんだけど、気付いたら出発しちゃってて。残念に思ってたんです。

 でも、さっき夜の中をバイクの音が近づいてくるなーって思ったから。もしかしたらと思って!」

なるほど。そんないきさつがあったとは…。

同じ場所にテントを張って目の敵にされることは想像できたが、まさかそれを待ち焦がれている人がいるとは思わなんだ。

 

「昔もここにチューリップを見に来たって聞きましたけど、地元民にとってみりゃああそこはそんなに大層な場所でもなくって。富山ってあんまり有名な場所もないし、県外からはるばる来ていただいたのに申し訳ないねぇ。」

「いえいえ、あの時見たチューリップは、ほんとに子供ながら富山ってオシャレなとこなんだなぁって思わせるに十分足り得ましたよ。

 先日は富岩運河行ったり、海王丸パークにも行きましたが。やはり富山って洒落てました。」

「あぁ~…そうですかぁ~~…。」

 

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「私も学生時代はね、北海道を電車でいっぱい回ったんですよ。稚内も行きました。

 それから、ベルリンの壁崩壊の時代だったから。時代の移り目を見たいと思って、ヨーロッパもモスクワにポーランドにルーマニアにと…40日余りは回ったねぇ。」

「いいなぁ…! 俺はまだ外国行ったことがないんで、羨ましいですよ。」

率直な感想である。私も早く海外というものを見てみたい。

「若かったからね。今みたいに守る家族もなんもいなかったから、何処へでも行けたよ。一人旅。あなたも今は、別に結婚してたりなんかしないんでしょ?」

「とーぜん。恋人もいなけりゃ引き留める重てぇ友人もいないです。

 そりゃあ寂しいと思った時もあったかもしれませんが。開き直っちゃってるんでしょうね。まさに旅に出るのに好都合だって。」

これも、率直な答えだった。一人でしかいられないのなら、一人の時間を極めるべきである。

「いいねぇ。今を楽しんでくださいよ。今だけですから、本当に自由なのは。そのうち家族ができたら…、それも良いですが、旅はしにくいですからね。」

「大丈夫ですよ、自分、そういう気はぜんっぜんないんで。」

市街地の外れ、街灯の明かりもうすぼんやりとした闇の中。それでも確かに見える笑顔を浮かべ合いながら、しばし語り合った。

知らない空の下、知らない人と、知らない酒を呑む。

ああ、良い時間だな。

 

そうだ、ここ数日はこうして人と話す機会がなかったから、忘れかけていた。やはり、旅をするって楽しいことである。いつも忘れかけたころに、何かしらあって思い出す。

 

 

中途半端な町の灯りのせいで、決してよく見える訳ではないのだが。

星が、とても綺麗に見えた。

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