海の風の吹く街
8月16日
「うおっ」
大ミミズがいる。バイクのそばでゆらりと頭をもたげている。
起きがけのテント撤収中に、これはサプライズだ。だが毛虫だのアブだのに比べれば、ミミズなんぞかわいいもの。むしろ、何故この暑さの中でアスファルトの上に行ったのか、疑問に思う次第であった。
「お前の愚かさがいけないんだからな。そこで干からびても、自己責任だからな…。」
旅に出る以前の私だったら、水をかけるなりしてやれただろうが。今はこう見えても辛い旅の身、水は私にとっても貴重な資源である。
それに、これまでキャンプの際などにとんと虫を殺してきた。こいつだけ救うのは不平等…。
荷物に触られても困るので、チラチラと様子を見ながら荷造りをする。その間にも彼は、懸命に草地の方へ這っていったり、かと思いきや逆方向へ行ったりと、伸びたり丸まったりしながら格闘していた。
「………あーもう! これっきりだかんな!」
ペットボトルを手にし、恵みの雨を降らせてやる。瞬間、驚いた様子だったが、その後はグダッとリラックスしてやがる。
あとは、こいつ次第だな…。
~~
「来年の春にも、良かったら来てくださいね。」
「は~い。」
近所のおばさんとの談話を終え、バイクに跨る。
砺波の目玉は大規模なチューリップ畑で、季節になれば色とりどりのチューリップが園内に咲き誇り、観光客も大勢押し寄せる。私も昔、例の如く家族旅行で見たことがあるからよく知っていた。”富山はオシャレな街”と幼心に印象付けた、決定的な景色である。
もちろん今は咲いている筈もないので、砺波を後にして高岡へ北上、その後進路を東へ変え、富山市を目指した。
昨日までは手の届くような距離にあった山々が、あんなに遠くに霞んでいる。代わりに平坦な田んぼと住宅地が視界を埋めていて、その上を、広くあまねく風が吹き抜けている。
…海が近いな。
富山駅を通り過ぎ、富岩運河へ寄り道。
砺波から真っ直ぐ海へ向かっても良かったのだが、せっかくの久々の海なのだ。川と共に走り、ドラマチックにその時を迎えたかった。
その昔、富山の街近くを流れる神通川は、大きく蛇行していた。故に付近では洪水災害が絶えなかったため、明治の時代に河を直線化させることになる。
結果として洪水被害は減ったようだが、蛇行していた元の河川敷は残ったまま。それが昭和時代、富山駅北から東岩瀬港までこの運河を建設し、その時に出た土砂で蛇行河川敷を埋めるビッグプロジェクトが実行されたことで、今の大まかな地形が出来上がったのである。
ここは水運としての役割を終え埋め立てられようとしていた運河を、公園として再利用しようと立ち上げられた場所。
富山駅から徒歩10分ほどでこの憩いの場所に来れるのは、住民にとって癒しとなることだろう。さすが私が認めたお洒落の街、富山。
この水の流れのその先に、私が待ち焦がれていたものがある…。
もう、欲求を抑えきれない。神通川沿いに出て、ひたすら、北上、北上した。