風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

夏休み

少しでも役に立てればと、ジュース用に出荷するというトマトの収穫を手伝う。

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熟したものは収穫しつつ、腐ってしまったものを他の果実に触れないよう投げ捨てる。

電気コードよろしく複雑に絡まった蔦をより分けながら、収穫できる色合いを吟味する作業はなかなか難しい。

うねにそって、後ろから始めた筈の長野のおじさんにすぐ追い付かれてしまう。

「あなたのじいちゃんもよく長野に来てたんだよ。色んなところ行ってたねー。」

「そうみたいですね。」

「あの人は発破技師だったから、発破作業が終わった後は、トンネルなりダムなりが完成するまで暫く暇になるのよ。だからその間、ばあちゃんを連れていろんなところ遊び歩いてたよ。」

「へぇ~役得な仕事ですねぇ。」

 

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長野の親戚宅の玄関に、祖父が描いた絵が飾ってあった。

安曇野か…。行ってみるか。

 

 

8月8日

 

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親戚に別れを告げ、犀川沿いに国道19号を南下。

谷あいの村や河を眺めながら1時間ほども走れば、安曇野は見えてくる筈。

正直言うと、長野は家族旅行でやたらと訪れた場所なので、大半の場所は訪れてしまっていた。上高地、穂高、松本、ビーナスライン…。

 

安曇野もその中の一つなのだが、雪化粧をした北アルプスを背景に田んぼが広がる様は、幼い頃訪れた私の心にとんでもなく開放的な場所だという印象を色濃く残していた。そこをバイクで走ったら、さぞ気持ちいいのではないか…。

遠い日の夏休みに想いを馳せ、程よく暑さを遮る雲の下をグングンと進む。

「そういえば88日は、学生時代、夏休みが始まる日付だったな…。」

 

 

~~

危惧はしていたが、本日は酷いガスっぷりで、北アルプスの美しい雪化粧は見えなかった。全く見えない。

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松本市街側の山々は見えるのだが。

 

まぁ時間が経てば霧が晴れるかもしれない。

そう願い、昔行った場所の記憶を探り『大王わさび農場』へ。

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水温が1年を通してほぼ一定という、北アルプスの雪が伏流水をふんだんに利用してわさび作りにはげむ大王わさび農場。黒いネットは寒冷紗と呼ばれ、茎や根を熱から守る役割を持っている。”73という言葉もあるように、わさびは直射日光が苦手な植物なのだ。

谷の先まで、川のように連なる寒冷紗の光景はここでしか見られないだろう。

 

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大王という名前は、なにも「ここが日本わさびの王者的場所だ!」と言っている訳ではない。

桓武天皇の時代、全国統一を目指す中央政権は、東北を侵略するにあたり信濃の国を足がかりとし、民に無理難題な貢物の要求を押し付けた。それを見かねたここ安曇野を治める魏石鬼八面大王という怪力無双の首領は、坂上田村麻呂の軍に反抗する。

だが優れた武器を持つ軍勢に敵うことはなく、女子供まで巻き込まれた挙句村も焼き払われ、大王も討伐されてしまった。

大王はあまりにも強かったため、蘇らぬようにと遺体はバラバラにされ埋められたのだという。

ここの大王農場という名前は、そのかつての安曇野の首領にちなんでつけられた名前というわけだ。

 

 

夏休みよろしく、昔乗ったクリアボートで遊ぼうと思ったが、今は残念ながら休業中。

わさび丼を食べようと思っても、観光客で食堂は順番待ち状態だったので、次の遊び場へと向かった。

 

 

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ホースランド安曇野。

乗馬体験でもしたらさぞかし夏休みっぽいな!と思っていたのだが、お馬さんを使ったアクティビティはやはり高い。おとなしく餌やりで我慢した。

 

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敷地内のワイナリーは休業中で、そのせいかはわからないが観光客はいないと言っても過言ではない。

厩舎の馬たちもなんだか寂しそうだった。

近くにあった『安曇野スイス村』も休業中だったし、土曜日なのになんだか寂しい感じ。夏休み気分を思い出したいという気持ちに、陰が下りてきていた。

「次は………、そうだ、昔はとんぼ玉を作ったんだったな。」

 

 

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休業中。

向かいにある道の駅的な場所『プラザ安曇野』も、昨年の9月で閉店してしまっていた。

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「この広場に、昔は子供たちがいっぱいいた筈なんだが…。」

 

呆然としながら歩いていると、敷地にはガラス工房が。こちらは開館しているのだろうか。

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北の別棟を覗いてみると、ご自由にどうぞと看板が提げられているが、中には照明がない。外に置いてあった半端もの市を見ていると、工房から女性が出てきた。

「すみません、お客さんいないから、電気消しちゃってて…。」

「ああ…、たしかに人はいませんね…。」

見かけた人といえば、プラザ前の名水汲み場で水を補充している奥様方だけだ。

「あの、プラザ…。閉まっちゃったんですね。10年ぐらい前かな…、にもここには来たんですが、雰囲気が変わったというか…。」

「寂しくなっちゃいましたよね。

 昨年の消費税増税の際、レジを丸ごと入れ替えなきゃいけなかったんですけど、そのお金すらないぐらい経営が悪化していたみたいで…。」

「あの、とんぼ玉の工房は? あそこも終わっちゃったんですか?」

少々食い気味に聞く。

「ああ、あそこは、コロナの影響で少し休業してるみたいです。管理人さんは元気に過ごしてますよ。」

よかった。無念にも閉店したプラザには悪いが、思い出のトンボ玉工房が続いているようで安堵する。

で、安堵ついでに少し聞きづらいことも聞いてみた。

「ここのガラス工房さんも…、厳しい状態なんですか?」

「そうですねー、ただでさえ観光客が少ないのに、コロナショックで…。ガラス工芸品のブームも過ぎちゃいましたしね。」

聞いてみると、安曇野は日本のガラス工芸の草分け的な由緒ある場所らしい。

その昔、合併によって安曇野市が出来上がる前の頃、当時のお偉いさんたちはここにも何か、目玉になる産業をと考え、清流流れる安曇野の地に相応しい工芸品として、ガラス工芸を根付かせたそう。その後1980年代だかにガラス工芸のブームが巻き起こり、一躍有名な観光スポットとなったらしい。

「昔は、ガラス工芸は神奈川の川崎か、ここぐらいでしか学べなかったんですよ。」

「すごい。ほんとに、日本のガラスアートのルーツみたいな場所だったんですね。」

「今は、厳しいですけどね…。」

笑みを浮かべながら女性はつぶやく。

ガラス工芸は、言うまでもなく専門の工房が必要な産業だ。人が減ったからといってじゃあ移動しようと簡単に転々とできる仕事ではない。

明日はテントを使って、体験会を開くんですよと張り切っている彼女の元に、たくさんの客が来ることを願ってその場を後にした。

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 ~~

なんだよ安曇野…、昔の、夏休みといえばって顔は、どこ行っちゃったんだよ……。

過ぎ去りし思い出を追いかけても、往年の景色は心の中にしかない。

時の流れとは残酷なものだ。もし、あそこまた行ってみたいなという場所があるという人は、なるべく早く向かうべきだろう。

 

 

せめてあの、北アルプスの姿だけでも見せておくれよ。こんな切ない気持ちで、走り去らせるつもりか、安曇野…。

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