夕暮れ近い宿場町
7月30日
少々雨っぽかった三国峠を越え、群馬へ入る。猿ヶ京の温泉街が見えるころには、幾日かぶりの青空を拝むことができた。
新潟の親戚宅を出発したのが13時過ぎだったので、県境を越えるころにはもう16時も近い時分となっていた。
ひとまず息を整えるため、道の駅 たくみの里へ。
付近は旧三国街道は須川宿という宿場町だったようで、昔好んでよく行った大内宿を思わせる直線路を歩くことができた。
歴史的に重要な幹線道路らしく、全国に24ヶ所ある”歴史国道”のひとつとして整備されているとのことだ。
一帯には〇〇茶屋や〇〇体験など、宿場町よろしく旅人をもてなす施設が数多く点在している。道の駅の建物も比較的新しめで、休日には人で賑わうのだろうな、と思うのは容易だった。
だが…。まぁ、そりゃそうか。
平日の夕暮れ間近ともなれば、歩いている人はいない。住人の車がチラホラ通るだけだ。当然、開いている店なんてものはない。
…子供の頃から、こう…人が皆帰った後の静けさというのは、苦手だ。寂しく、なんだか怖くなる。ここに、一人ぼっち取り残されてしまうのではないかと。
夏風を浴びて楽しげに揺れる風鈴の音が、寂しさをより一層際立たせた。
暫く慣れている感覚だったが、やはり一週間も人と話す時間があったからだろう。素直に辛かった。
「北を向けば谷川連邦、南を向けば…まぁ、なんかの山々かぁ…。」
暫く、海を拝めない事実に気付いたのも、切なさを助長させた。こんなことなら新潟の海をもっと見てくりゃ良かった。
ふとした瞬間に足を止めてしまうと、新潟の面々を思い出してしまう。娘さんが買ってくれた市販のお茶を見るだけでも、手が止まってしまう。
自己研鑽の旅の筈だが、これじゃあ強くなっているのか弱くなっているのかわからんぞ。
「……………はぁ。」
夕陽を浴びつつ、今晩の宿(道の駅)のある高山へ舵を切る。
天気が悪かったのもあったが、最近は遅くまで散策をしていなかったから夕暮れを見るのも久々だ。
………いつも、別れる瞬間は耐えられるのだ。その後が辛い。一人に戻ったその時が、どうにも辛い。
「ああバカバカバカ野郎…。」
いつの間にかグリップを握る力が強まり、視界が水分で歪んでいることに気付いて自分を叱咤する。
感受性が強くなったというか。本当に弱くなってんじゃねえのかなぁ…っ!
これだけ辛いのは、それだけ良い出逢いだったということだ。だから悲しむことなんてない。ただそっと、胸にしまっておけばいいのだ……。
ぐっと深呼吸をする。
受けた暖かみを、心の奥にしまい込むように。
これからの、明日からの旅路にまた、集中できるように。