風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

スランプ

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「…へくしっ」

新潟は魚沼の山奥に位置する親戚の家は、夏とはいえ朝けっこう冷える。

猛暑で苦しんだ体には有難いはずだが、かえって戸惑っているようだ。

 

「シュンくんはなめこ汁飲める?」

「あっはい! 大好きです!」

旅に出てからどころか、神奈川で一人暮らしをしているときから恋しかったなめこ汁を朝からいただき、幸せをかみしめる。

 

 

「ちょっと外見てきます。」

玄関を抜け出ると、雲が覆ってはいるが心地よい日和が体を包む。昨日の夕暮れとはまたちがった顔の田舎風景が迎えてくれた。

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外で髭を剃り始めると、髭剃り機が寿命を迎え、壊れる。

…まぁ、人目を気にする場所ではない…ってことか。

 

 

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長閑だ。

基本、聞こえるのは蝉の音と用水路のせせらぎだけ。そこに、軽トラや古めかしいスクーターが、田んぼを縫って走る駆動音が時たま付け足される。それに乗ったおじさまたちは、少し移動しては田んぼの手入れをし、また移動して…を繰り返していた。

 

バックパックを背負わず、帯も締めずゆるりと歩いていれば、オニヤンマやシオカラトンボが目の前を横切る。腕の、この血の止まらない虫刺されは…、ブヨか。

村外へと続く国道を見れば、たまに4気筒のバイクなんかが走り抜けていく。煩くなく、かといって寂しすぎず。そんな場所だ。

 

 

ぶらぶらしていると、スクーターのおじさんが横で停まって。

「これ、すっぱくてうんまいぞ。んでも、かなりすっぱいぞぉ。」

とだけ言って、「んっ」と木の実が入った袋をくれた。

礼を言う間も無く、そのおじさんはまた別の田んぼへ行ってしまう。

 

 

 

 

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「なんか、馬鹿みたいだったなぁ。」

ここ数日、何か面白いものはないかと奔走してきて、でも何も見つけられなくて。そんな日々に、勝手にイライラしている自分がいた。

北海道では何もないならそれでよし、とひたすら走った日もあったが、本州では地味に何かありそうな場所が目につくから、気になって走り去ろうと割り切れない。

 

 

 

見渡せば、恐らく行き止まりであろう小路や、山ならどこでも咲いているであろう花が目に映る。

ここにいる人々も、さほど特殊な生活をしている訳でもなくて。ただ日々を暮らし、巡ってくる出来事を享受していているのだろう。

それでもただ時に身を任せるわけでもなく、食いたいものがあれば買ってくるし、遊びたければどっか行くしで…。そんな日々が好きなんだろうな。

 

要するに、もっと気軽になるべきなのだ。

 

馬鹿だ私は。何も見つからなかったら見つからなかったで、それはそれでいいじゃないか。いちいち無駄足を踏んだなんて思わず、アテが外れたなぁで済ませばいいのに。

…いやしかし待て、これは、前にいけないと心得た〇〇するべきだ節のうちに入るのではないか? しかし、この下らないイライラはかなぐり捨てたいものだし…。本当の私にはどうすれば準じれるのだ、私はどうすれば…。

 

 

 

文にまとめながら思案していると、車のエンジン音が近づいてくるのに気付く。

見ると、2台の車が家へと近づいてきていた。

そうだった、今日は福島から、親など実家まわりの一族も来るんだったな。

 

「顔つき変わった? 大丈夫?」

先ほどまで思案を堂々巡りさせていたせいか、母にそう声をかけられる。

 

 

…なんというか、こう。長旅って、終わった時に家族とかと久々に会った~!っていう感動がお決まりのパターンなのに。

それは叶わなくなってしまったな。

 

旅人のロマンをいとも簡単に打ち破った我が家族に対して、苦笑しつつもやっぱりホッとるする。

親戚一同、皆で食事をし始めれば、先ほどの悩みは瞬く間に頭の片隅に追いやられる。

ま、いいか。旅はまだ長い。まだこれから、これからのんびり、考えればいいのだ………。

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