風来記

侍モドキとバイクの放浪旅を綴ってます。

晩酌

「うーまずいな…手持ちが少ない」

天童の温泉でくつろいでいると、銀行含め“現在の”が少ないことに気づく。人間くつろいでいるときほど腹が減るもので、間食にパンでも食べたかったが…暫く横になって空腹を凌いだ。

 

 

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夕方もいい頃になったので、昨日もテントを張った道の駅天童に戻ってくると。隣に停まっていたバンの人物に、「どっから来たの?」と声をかけられた。せっかく流した汗も無駄になる暑い夕方だったから、その男性はは上半身裸。程よくたるんでいない筋肉と、髭が相まってワイルドな人物だった。

「いいねぇ、俺も君ぐらいの歳は同じようなことしたよ。そんで50だいになって、また同じことしてる。」

と語り、バンに戻っていった。

 

“じゃあ先輩にあたるな”なんて思いながらテントを設営し終わると、

「これでさ、好きなつまみと酒買ってきな。ついでに350mlのビール缶6本セット、買ってきて。」

とさっきの男性に5千円を渡される。

「せっかくの出逢いだから、今晩は晩酌しようや。」

 

 

~~

冷やしたビール缶をお互い傾けて、乾杯。

「俺は、寄稿文を書きながら旅をしてるんです。前々からずっとやってみたかったことで…」

「おぉ〜素晴らしい。俺がやってみたかったことだぁ。」

拍手をしながら、泉さんと名乗る男性もまた往年のことを語り出した。

「俺は鹿児島の辺鄙なとこの生まれでさ、中学卒業して大阪に出たけど。その後ちょっと諍いがあったりして、留置所に入れられちゃったりして。そん時、牢屋から見える青空を見てさ、“自分は何をしに生まれてきたんだろう”とか考えて、旅をすることを決めたのよ。」

バイクに乗って、アルバイトをしながら数年かけて日本を巡ったそう。

 

 

「それが終わったら海外に行きたかったんだけど、お金がないから稼がざるを得なくてさ…。旅してるとさ、なんだかんだ言ったって、お金がなけりゃなんもできんことに気づくよね、ガソリンも入れられないし、飯も食えんし。」

「わかります。フェリーだってお金ないと乗れないし。よく地元の人に“ここはあれが美味しいよ”なんて言われますけど、そんなん買うお金なんかなかったりして。」

「そうなのよ、その通り。お金のありがたみがわかるのよね。で、事業を始めてみたらそれが成功しちゃってさ。今はお金に困ってない。昔憧れた、お金のある放浪旅ができてるわけよ。」

飲食店などの経営を経て、今は震災に遭った場所で建築関係の仕事をしつつ旅をしているそう。子供も5人いるとのことで、

「すごっパルクール世界1位!?」

「すごいでしょ、自慢の娘や、もう子供達ほんとに大好きなんだ。自分は貧乏の生まれだったから、子供たちには不自由なく過ごしてほしくて、ちゃんとお金入れてるんだぜ。」

「すごい…なんか、俺の理想ですね。お金があって、家族も持てて…。」

「まぁね、“羨ましい”なんてよく言われるけど、でも未だにこのバンの中で、悩んだりすること、多いよ。

 俺はもういろんなとこ見て、お金も稼いで。いろいろやったから。逆に、これから何をしよう、何をすれば感動できるだろう…ってさ。」

隣の芝は青い、ではないが、私たちは不思議な関係だった。持たざるものだが、まだ初めての経験に感動できる者。持つ者だが、もう並大抵のことでは感動出来ぬ者…。

お互いに、羨ましいと思える関係だった。

 

「俺なんか、まだ1年も旅してないですし。情けないもんですよ、毎晩テントの中では、これでいいのかなって思い詰めたりして。」

「ああ…。いや俺も実はね、テントの中でよく泣いてたよ。」

屈託なく笑うその表情からは、想像できない一言だった。

「旅ってさ、よく“良いよね”って言われるけど。修行だよね。寂しいし、ひもじいし。辛い。でも、それでも起きた後に出会える景色とか人との出逢いに感動できるから、旅を続けられる。君もさ、

景色とかに感動できる人間だから、旅を続けられてるんだよね。」

「…なんか、ホッとしました。俺、本当の旅人は、ひもじいテントの中ですら楽しめる人間なのかなって思ってたんで。いちいち不安を感じてる自分は、旅人失格なのかなっ思う時があって。」

「だいじょぶだいじょぶ! そんなもんよ。大丈夫だよ、君ならまだまだいけるよ、頑張れ!」

その一言は、さながら君は旅をする資格があるよ“と言われているようで。心底、心地がいいものだった。

 

 

「俺は昔四国でさ、病院で雨宿りしてたら、そこの院長先生にシャワーやら飯やら個室やら、世話になったことがあって。人の暖かみを知ったね。だから今日もこうして、君に厚意を向けられてるんだと思う。

 君もそのうち余裕ができたらさ、誰かに晩酌をご馳走できるといいね。」

「そうですね、俺も泉さんみたく、立派になれるといいけれど…。」

「だいじょぶ! 君カッコいいから! カッコいいバイク乗って、媒体にまで顔を出してて。大丈夫、絶対この旅は無駄にならないよ、だから今はただ、信じて。楽しんで。今の、その旅を。

 

殺し文句だった。

カッコいい。そうだ、俺は何かと迷ったら、“カッコいい”と思える道を選んできた。だから誰に何を言われても、自分を曲げなかった。意思を貫いて生きてきた。自分に嘘をつかないのが、カッコいい人間だと思ったから。

そんな自分が、ここにきて認められた気がして。心の底に、熱い思いが湧いた。

「旅は良いよ。」

「旅って、良いですね。」

 

 

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「酔っ払ってんで、酷い写真ですが…。思い出にはなります。」

「うん、今日のことも忘れずに生きて、頑張ってな。」

 

梅雨明け間近の黄昏時、汗を拭き取る涼風がそよぐ中での、忘れられない、暖かい。旅人との、晩酌であった。

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