追憶⑤
酷いものだった。
仕事を辞めてからの数日間は。
求人情報を探しては”ああでもない、こうでもない”と吟味し、数社に応募。
…したものの、結局それでいいのかと。決して無駄な経験にはならないだろうが、特に興味もない分野の作業をして実になるのかと後から戸惑い、面接をキャンセルしたり、そんな気が伝わったのか採用されなかったり。
高専時代の同級生は、皆それぞれの職場や学校、新天地で新たな一歩を踏み出しているのに、私だけ、知らない土地で停滞している有様。そんな現実から目を背けるために、ゲームをしたりネットサーフィンをしたり。そして寝る前に自己嫌悪に陥るのだ。
そんなある日の晩、いつものとおり安上がりで済む納豆ご飯にインスタントの味噌汁を飲みながらテレビを観ていたら、とあるアニメーションにぶち当たった。
『蟲師』。っていうフィクションもので、主人公が古き良き日本の山野を旅しながら物語が進んでいくのだが。
その情景に、妙に心が惹かれた。
“—自分も、あんな風に旅をしながら生活できたら。おもしろいだろうなぁ………。”
そんな羨望を、抱いてしまった。そんなことする才能も、するために積み上げた努力も、私にはないというのに。
だがそれからというもの、乾いた生活の中のふとした拍子に、”旅ができたら”と妄想してしまう。その直後に”無理だ”と頭を振る事の繰り返し。
そんな時間が続いたからだろうか。少しばかり、本気で、考えてしまった。
“するための努力は、今からでも遅くはないのでは”と。
今でも忘れられない。
Ninja400Rを駆って、相模原から道志を通り。山中湖へ至って帰った、あの小さな小さな旅のことを。そして、その旅路を文にして残した、あの拙い時間を。
今思えば、あれが私の、初めての”風来記”だった。